――第十六章 最後の扉
中枢区域は、音がなかった。
風も、獣も、
自分の足音さえ、吸い込まれる。
崩壊した塔。
かつて空を貫いていたはずの構造物は、
途中から折れ、地面に突き刺さっている。
放射線計は沈黙したままだ。
危険は、数値で測れない。
「……まだ、残ってるな」
自分の声が、異様に近い。
瓦礫の隙間を抜け、
地下へ続く通路を見つける。
非常灯は生きていた。
薄く、脈打つように。
扉の前で、足が止まる。
ここだ。
ユイが、
世界を救わなかった場所。
端末に、手を置く。
認証は――通った。
「皮肉だな」
彼女のコードが、
まだ有効だ。
扉が、ゆっくりと開く。
中は、思ったより小さい。
中央に、一つの装置。
停止したままの、最終制御核。
画面に、文字が浮かぶ。
――再起動可能
条件:
代替コアの接続
カイは、理解する。
世界は、完全には終わっていなかった。
もう一度だけ、
やり直せる可能性が残っている。
代替コア。
それは――人間一人分の命。
ユイは、ここで立ち止まった。
だから、世界は壊れた。
彼女は、
誰かを犠牲にする世界を、
選ばなかった。
「……もし、俺が入れば」
世界は、救われる。
気候は安定し、
文明は再起動する。
集落も、
名前も、
記憶も――
“必要なく”なる。
カイは、ノートを取り出す。
白紙のまま。
「続きを、書くはずだったな」
笑う。
それでも、
彼の手は、装置に伸びない。
「君が、正しかった」
世界を救うために、
誰かを“部品”にする。
それは、
救済じゃない。
画面が、警告色に変わる。
――時間切れ
選択の猶予が、尽きる。
カイは、背を向ける。
扉が閉まる。
最後の扉は、
開かれなかった。
地上に戻ると、
朝日が昇っていた。
世界は、今日も不完全だ。
それでいい。
君がいない世界で、
君の選択を、
生き続けるために。
そして、彼は歩き出す。
答えは、
もう出ている。




