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世界は救えなかったが、君だけは救いたかった  作者: 波浪


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――第十五章 それでも、終わりは来る

冬の気配は、音を連れてくる。


遠くで、何かが軋む低い唸り。

風が、壊れた鉄骨を鳴らす音。


地図の端に、

新しい印が増えた。


赤でも、青でも、白でもない――

黒。


「近づいたら、戻れない場所」


誰もが理解した。


そこは、かつて“中枢”と呼ばれていた区域。

世界を救うはずだった場所。

そして――世界を壊した場所。


「放っておくわけにはいかない」


誰かが言う。


「でも、行けば戻れないかもしれない」


沈黙が落ちる。


カイは、地図を見つめたまま言った。


「……俺が行く」


即座に反論が飛ぶ。


「一人は無理だ」

「必要ない犠牲だ」

「今さら、何を――」


カイは顔を上げる。


「終わらせるためじゃない」


その言葉に、場が静まる。


「確認するためだ。

 本当に、終わったのかどうか」


ユイが、最後にいた場所。

彼女が選ばなかった“世界”。


そこに何が残っているのか。

それを知らずに、生き続けることはできなかった。


夜、準備を終える。


リナが近づいてくる。


「行くなら……これを」


差し出されたのは、小さなノート。


「白紙?」


「ええ。

 もし戻れたら、続きを書いて」


何の続きを、とは言わない。


「戻れなかったら?」


「そのときは……

 あなたが選んだ答えだと思う」


焚き火が、小さく弾ける。


出発前、カイは集落を一望する。


眠る人々。

灯り。

名前を持つ場所。


「……守るよ」


誰に向けた言葉か、分からない。


世界は、救えなかった。

でも――

世界に残る“意味”は、

まだ確かめていない。


夜明け前、

カイは一人、黒い印へ向かって歩き出す。


終わりが、待っているかもしれない。

それでも。


選び続けた先にしか、

答えはない。


そして――

物語は、静かに臨界点へ向かう。

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