――第十四章 世界の端で、手を離さない
地図は、思ったより早く埋まっていった。
危険区域は赤、
水場は青、
避難可能な建物には白い印。
紙は貴重だ。
だから、一枚一枚に意味を込める。
「ここは?」
子どもが指差す。
「崩れやすい。近づかないほうがいい」
「じゃあ、×?」
「そうだな」
小さな手が、慎重に印を描く。
世界の輪郭を、学ぶみたいに。
その午後、遠くで爆音がした。
集落が凍りつく。
自然の崩落か。
それとも――誰かの争いか。
「偵察に行く」
カイが言うと、数人が立ち上がる。
「一人じゃ行かせない」
リナも続く。
世界の端に近い地域だ。
かつて、最終防衛線と呼ばれていた場所。
崩壊した兵器、
黒く焼けた大地。
そこで、彼らは見た。
一人の少女が、
瓦礫の下敷きになった男の手を、
必死に握っている。
「離さないって言ったの!」
泣き叫ぶ声。
瓦礫をどける。
男は、もう助からない。
それでも、少女は手を離さない。
カイは、膝をついた。
「……いいんだ」
何が、いいのか。
それは、彼自身にも分からない。
男は、最後に微笑った。
「……ありがとう」
その手が、力を失う。
少女は泣かない。
ただ、強く、強く、手を握り続ける。
リナが、そっと肩を抱く。
「離すのは、今じゃない」
夕暮れ、集落に戻る。
少女は、新しい住居に案内される。
夜、焚き火の前で、カイは思う。
世界の終わりは、
一瞬の出来事じゃなかった。
こうして、何度も、
手を離すか、繋ぐかを迫られる。
そして――
繋ぎ続ける限り、
世界は、完全には終わらない。
火の向こうで、
少女が眠っている。
その手は、もう震えていない。
カイは空を見上げる。
「……君も、そうだったな」
世界の端で、
それでも手を離さなかった。
だから今も、
ここに火がある。




