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熟れない吟遊詩人  作者: つにお


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裕福な貴族

 少女は裕福であった。少女には才能があった。そしてまた、世間知らずであった。

 

 数年にわたる隣国との争いに終止符が打たれ、宮廷とその周囲にも、やっと安寧の実感が感じられるようになってきた頃、当然の如く、嗜好に浸る上流階級の輩が増えてきたのかと思えば、今度は突然、庶民のほうでも新しい娯楽運動が始まったようであった。その動きをいち早く察知したのか、宮廷のほうも、ただそれを沈黙して見ているわけもなく、それは勿論、多大なる矜持に立派な傷をつけたことに疑いはなかったであろうが、やはり、その運動とやらを物真似してみることにしたそうだ。()くして、瞬く間に、宮廷内には作詩と吟詠の遊戯が広まったのである。

 どうやらその頃、既に庶民の間では、詩に深く精通した者もあったそうなのであるが、そして、それは上流の者にもしっかりと通達がいきとどいていたはずであるが、例の矜持のせいか、はたまた、それに裏付けられた高みの手腕の自覚のせいなのか定かではないが、宮廷に仕える詩人は、皆が身内の者であり、下流の者は一切として受け付けなかった。

 以前の宮廷にも演奏の類の娯楽が存在しなかったわけではないが、この吟詠は既成の音楽とは趣の異なる新興であった。()って、これは、所謂、素人にとっても、幾分も容易に情緒の違いを察することができたのであろう、熟練者からしてみれば、間違いなく野暮ったい半端な貴族どもの好奇心を刺激するのには、十分すぎるものであった。

 やがて幾月か経ち、例の吟詩作賦(ぎんしさくふ)は貴族の教養となった。といっても、もともと風情のある詩人があったわけでもないので、幼少の公子どもが、遊び半分に嗜む程度の教育をさえ知れなかった、といっても過言ではない。

 

 外戦が起こる少し前、宮廷にあった中等の貴族二人の間に、一人の子が授けられた。戦争が起こる頃には、子は簡単な言葉を話すことが可能になってきた時期であった。寧ろ、物騒な噂ではあろうが、そんな戦時中にも関わらず、その子は大変、宮廷の大人たちに可愛がられていたそうだ。そんな、裕福な寵愛のもと、痛みのひとつさえ知らぬであろう無垢の一人娘は、スクスクと成長していった。やがて、いつの間にやら戦争が終わった。

 少女が7つになった頃、彼女は宮廷の一室にて、初めて(うた)の教養を学び始めた。彼女は叱られることを知らなかった。彼女は(ろく)に苦労をしないまま、しかし、絶好の称賛と自信とを相違なく感得しながら、みるみるうちに詩の才能を開花させていった。といっても、それは作詩の才能ではなく、歌の才能であった。当然といえば当然であるが、せいぜい、杜撰な読書ができるようになった年齢の子どもに、まともに筆記の能力までもが備わっているはずがないのであるが、それは例に漏れず、少女の才能にも適用せらることであり、そうして、彼女の得意であったのは、実に、その溌剌(はつらつ)と清楚の歌声であったのだ。

 しかし、どうであろうか、彼女の歌の才能の真髄が、その時分に発揮せられていたのかと問われれば、それは微妙な問題である。というのも、それまで、彼女に対する叱責の一切がなかったのは、若しかしなくとも、大人たちの、稚児に対する忖度があったからであろう。つまるところ、ほとんど全ての赤子や稚児、少なくとも貴族の子に限っては皆、有り得んばかりの才能を持っているに違いないということである。言い換えれば、子には、自身の能力を過大にみせる才能を持っているということであり、翻ってそれは、大人を欺く術なのかもしれないし、自身を欺く術なのかもしれない。

読んでいただきありがとうございます。

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