黒き鳥
黒羽は鳩である。
黒羽は白い鳩の群れに生まれたが、何故か生まれつき黒い羽根を持っており、故に黒羽だと名付けられた。
その真っ黒な羽根がまるで鴉のようなので、他の鳩達はいつも黒羽のことを鴉と呼んで、いじめていた。
鳩達は鴉が嫌いだ
鳩達にとって、鴉とは生き物の死体を食べる野蛮な鳥である。
そして、わけわからない石とか集める頭のおかしい連中でもある。
でも、鳩達が鴉を嫌う最も重要な理由は、鴉は炭のような羽根を持っていることだ。
潔白な羽根を持つ自分達とは違い、鴉は醜い鳥だ
歌声も騒音同然、美しい声を持つ自分達とは違い、センスのない鳥だ。
これが鳩が鴉全体に持つ認識である。
黒羽もまたそれを信じている。
いや、信じていた。
鴉と一緒にされることは鳩にとって、最大の屈辱である。
黒羽は常にその屈辱を味わっていた。
不服な心はもちろんあった。
しかし、黒羽は鴉と同じく、黒い羽根を持っているのは事実。
事実は変えられない。
黒羽には言い返せることも何も無い。
黒羽ができるのは我慢するだけだ。
黒羽は今までずっと周りの嘲笑する声を無視して、しぶとく生きてきた。
生きてさえいれば、いつかは幸せになれると黒羽は信じている。
生きるために食べ物が必要だ。
だから、黒羽は今日も一人で餌を探している。
目的地に向かう最中、下を見下ろすと、小麦の畑が見えてくる。
今はちょうど秋の季節だ。
成熟した小麦は太陽の下で、まるで黄金のように輝いてる。
その景色は実に美しい。
黒羽はその景色を見て、こう思った。
(辛いことはたくさんあった。)
(でも、やはり私は自分が空の民として生まれたことを幸運だと思っていたい。)
(このようなの景色が見えるから。)
(例え、仲間がいなくても、私は生きて行ける。)
そして、突然、黒羽にとって懐かしい小屋が見えてきた。
黒羽は小屋の前に着陸した。
「キーッキーー」
そして、鳴き始めた。
黒羽の鳴き声も何故か普通の鳩とは違う。
普通の鳩は鳴き声が低く「ぐーっぐー」という声がするが、黒羽は昔から鳴き声が高く「キーッキー」のように鳴く。
黒羽の鳴き声を聞きつけ、一人の老婦が小屋から出てきた。
この老婦はいつも黒羽にエサ付けをしている。
この地方では、白鳩は縁起のいい鳥とされている。
だが、鴉は忌々しい象徴とされている。
だから、鴉と間違われがちの黒羽が町に行くと、いつも石を投げつけられる。
それに、畑の小麦を食べると、狐に会うリスクがある。
だから、黒羽はいつもこの老婦のお世話になっていた。
この老婦と出会えたのは、昔、黒羽が町に行った時、子供の石に打たれて、翼を怪我した時のことだ。
その時、ちょうどこの老婦が通りすがって、黒羽をおもちゃにして遊ぼうとする子供達を追い払った。
その後、老婦は黒羽を家に連れ帰って、黒羽の翼が治るまで、しばらく黒羽の面倒を見た。
それから、黒羽は食べ物が見つからない時、よくこの老婦のところに来て、食べ物をもらうようになった。
「また君か、どうしたい?腹が減ったのか、ちょっと待って、りんごあるから。」
老婦は小屋に戻り、しばらく経ってから、りんごが入ってる籠を持って、小屋を出て、りんごを一つ黒羽の前に置いた。
「キーッキーッキー」
黒羽は歓喜の声をあげ、すぐにりんごを食べ始めた。
「ゆっくり食べな。誰も取らんで」
老婦はりんごを食べる黒羽に近づこうとせず、撫でようとせず、ただ見ているだけだった。
鳥は猫や犬とは違い、人に懐くような生き物ではないから。
老婦は無理に黒羽と親しい関係を築こうとしない。
ただ、目の前にいる助けを求める存在に静かに手を差し伸べるだけだ。
「キーッキー」
黒羽はりんごを食べ終わったあと、どうやら足りないようで、鳴きながら老婦を見つめた。
「足りないのか。じゃ、もう1個あげる。これも足りないなら、またあげるから、いくら食べても構わんで」
老婦はそう言って、りんごをもう一つ黒羽にあげた。
「キーッキーッキー」
黒羽は再び歓喜の声をあげ、すぐさまりんごを頬張り始めた。
「ようけ食べて、はよ大きなりや〜」
黒羽はまだ雛鳥である。
雛鳥と言っても、生まれたてのひよこほど幼くはない。
まだ成長の余地が残っているだけで、飛行や着陸など鳥としての基本的な動きはもうできている。
「キーッキーキー」
黒羽はようやく満足したようで、老婦に向かって羽ばたきながら、喜びの鳴きをした。
「お腹いっぱいになったか、良い。どこにでも飛んでけ」
老婦は黒羽の気持ちを読み取って、微笑んだ。
黒羽は翼を広げ、離陸して、どこかへ飛んで行った。
「また腹減ったら、いつでも来い」
老婦は飛んでいく黒羽の背中を見つめて、こう言った。
黒羽は畑を飛び越え、川を飛び越え、山を回って、巣に戻った。
「あっ、鴉じゃないか」
巣に戻った黒羽を見て、とある太っちょの鳩はこう言った。
「どこにもいないから、てっきり野垂れ死んだかと思ったよ。」
「まあ別に戻らなくても、困ることないけどな。」
黒羽はその太っちょの鳩を無視し、自分の部屋に戻ろうとした。
だが、その太っちょの鳩に止められた。
「おい、無視すんなよ」
「俺が族長になった暁にはここに住めると思うなよ。」
その太っちょの鳩の名前は白陽という。
白陽は鳩の群れの族長の嫡男で、次期族長の第一候補である。
白陽は子供の時から周りにチヤホヤされながら、育てられてきた。
故に唯我独尊の性格で、すべてが自分の思い通りになるべきだと考えている。
黒羽はそんな白陽の権威に怯えず、ずっと無視してる。
故に、白陽は黒羽のことが相当気に食わぬようで、取り巻き達と常に黒羽に悪質ないじめを行っていた。
元々黒羽のような雛鳥は群れからの配給があるので、わざわざ自分で餌を探す必要がなかったが、白陽はわざと黒羽の配給を止めた。
だから、黒羽は自分で食料を見つける必要があった。
黒羽は白陽をまた無視して、自分の部屋へ戻った。
「チッ、気に食わない奴め。」
不服の声を発し、白陽は黒羽のことをあとにした。
黒羽がしばらく歩いたら、また一羽の鳩が黒羽に話しかけた。
「黒羽やねぇか。」
その鳩は白陽とは逆で、体型が小さく、動きが俊敏である。
「翼か」
この鳩は翼という。
翼は群れの中でも珍しく、黒羽をいじめたり、嘲笑したりしない鳩である。
「今朝から、全然見かけねぇなって思ったら、どこに行ったんだ?」
「餌を探しに行った」
「あぁ、そうか、そうか。お前の配給は白陽に止められたっけ。大変だな」
「......」
「じゃ、またな。」
翼はこう言い終わって、黒羽のそばから去っていた。
翼は黒羽をいじめたり、嘲笑したりはしないが、黒羽を助けたこともない。
それは当たり前なことである。
黒羽は次期族長第一候補の白陽から目をつけられている。
黒羽を助けることはつまり白陽に逆らうことである。
そのようなことしたら、白陽が族長になった後、どんな報復を受けるのか、、誰でも簡単に想像できる。
鳩は群れでしか生きていけない。
群れから追放されるような真似は決してしない。
すべての鳩は群れの指導者である族長に絶対臣従する。
群れにいられるために。
そして、群れで幸せに生きていくために。
族長に逆らってはいけない。
黒羽も心の底で分かってはいるが、黒羽はどうしても、白陽に媚びるような真似はしたくない。
黒羽はいつか群れから離れて、一人で生きていこう考えている。
ただ一人で生きていくなんて、決して容易なことではない。
黒羽もそれが分かってる。
でも、黒羽には迷いがない。
なぜなら、黒羽は分かってる。
このまま群れに居続けても、自分は幸せにはなれない。
群れを離れることはもちろんリスクがある。
死ぬかもしれない。
でも、群れにいるよりはましだと黒羽は信じている。
黒羽はどうしても、周りの鳩のように、上の人に媚びながら、生きていきたくない。
黒羽は自由が何よりも大切だと考えている。
本当の自分でいたい。
本当の自分として生きていきたい。
(本当の自分を殺して、生きていても、意味はない。)
黒羽はこう考えている。
でも、黒羽は少し寂しい気持ちもあった。
正直、黒羽は翼が自分のことを助けて欲しかった。
例え、一人だけでもいい、黒羽は共に道を貫く友人が欲しかった。
でも、これも仕方ないことだ。
自分の命を犠牲にしてまで権威を逆らう人はなかなか見つからない。
黒羽の考えを理解できる鳩はこの群れにはいない。
皆は生きてさえできれば、それで満足な鳥ばかりだ。
今まで、翼は何度も黒羽を見殺してきた。
黒羽はもう翼には期待してない。
期待しても、傷付くだけだ。
自分を助けてくれるのは自分しかいない。
黒羽は自分の部屋に戻ったり、そっと目を閉じた。
ーーーーーー
次の日
黒羽は騒音で目を覚ました。
嵐だ。
風が吹き、雨が降り、雷も鳴っている。
でも、例え、こんな日でも、黒羽は餌を探しに行かなければならない。
食料がなければ、死ぬからだ。
巣にずっといても、確実に死ぬ。
外を出たら、もしかしたら生き延びられる。
迷う必要がない。
黒羽は巣から飛び出して、嵐の中に飛び込んだ。
強い風の影響を受けながら、黒羽はなんとか翼を広げ、方向を維持して、その老婦の小屋へ行こうとした。
(あの山を越えたら、あと少し。)
(あの川を越えたら、あと少し。)
(あと少しだ、あの畑さえ越えたら、越えたら。)
しかし、黒羽は老婦の小屋まであと少しのところで力尽きて倒れた。
墜落する黒羽。
このままだと、間違いなく地面に落ちて、無残な死体になるだろう。
だが、黒羽は意識を失っている。
自分で自分をなんとかすることはできない。
その時、空から黒い影が墜落する黒羽に向けて、突進した。
地面まであと少しのところで、黒羽をキャッチして、黒羽の命を救った。
ーーーーーー
黒羽は夢を見ていた。
とても幸せな夢だ。
自分が群れから離れ、様々なところを旅する夢。
自由に羽ばたき、行きたいところに行って、様々な景色を見る夢。
黒羽はこの夢から目覚めたくなかった。
だが、黒羽は目覚めた。
目覚めた瞬間、見覚えのない洞窟にいた。
自分が寝ているところは藁でできている寝床で、周り目の前の洞窟の入り口から、外の景色が見える。
どうやら、嵐はすでに止んだようだ。
黒羽は洞窟を出た。
洞窟を出たあと、真っ先に目にしたのは、遠いところにある虹の橋だった。
(きれい)
それは黒羽が初めて見た虹である。
黒羽は感動していた。
今までこのような美しい景色を見たことがないから。
「起きたか」
しかし、後からの声が黒羽の感動を止めた。
黒羽が後に振り向いたら、そこには大きな鴉がいた。
その鴉は全長約60cmほどの大きな鴉で、右目には爪痕がついている。
その鴉の足元にはりんごが置いてある。
「腹減ったなら、食ってもいいよ。元々お前に食わせるために探してきたもんだし」
どうやら、黒羽を助けたのはこの鴉のようだ。
黒羽のために、わざわざりんごを取ってきたようだ。
だが、黒羽はその鴉の言葉に対して、何も答えられなかった。
ただひたすら震えているだけだ。
なぜなら、黒羽は知っているんだ。
右目に爪痕がついてる鴉。
それは恐怖の象徴。
鴉達の親分、血染の千鳥だ。
鴉の群れと鳩の群れは何度も衝突してきた。
前回の戦争時、鴉を率いて、鳩に甚大な被害をもたらした者である。
千鳥は数え切れないほどの鳩を殺した。
千鳥の強さは凄まじく、千鳥に勝てる者はいない。
黒羽は子供の頃から、ずっと鴉に関する悪口をたくさん聞いて来たが、千鳥を語る時だけ、大人達の表情は違う。
蔑む感じが無く、ただ恐怖だけがそこにあった。
それはトラウマを語る者の表情だ。
鳩達にとって死神のような存在、それが千鳥だ。
黒羽は今すぐにでも逃げ出したい。
しかし、体が震えて動けない。
「......別にあんたに何もしないよ。」
黒羽の恐怖を察知したようで、千鳥はこう言った。
「りんごここに置いとくから、食べたければ、勝手に食べればいい。食べたら、さっさと家に帰れ」
千鳥はそう言い残して、黒羽を後にし、どこかへ飛んで行った。
呆然とした黒羽だけが残った。
黒羽はたった今自分の前に起きた出来事を信じられなかった
あの冷酷で残忍な恐怖の象徴である千鳥と出会えた。
そして、何もされなかった。
むしろ、助けてもらった。
黒羽は衝撃を受けた。
実際に出会えた鴉は聞いていたのと全然違うからだ。
黒羽はしばらく、茫然自失としていた。
自分の中で崩れた常識、崩れた価値観を整理するために。
(さっきの方......千鳥さん、どうして私を助けたんだろう。)
そして、黒羽はこう思った。
頭に浮かんだ疑問を胸にしまい、黒羽はとりあえず、目の前のりんごを食べることにした。
腹を満たした黒羽は千鳥の言った通り、巣に戻った。
ーーーーーー
次の日
黒羽はあの時のことをずっと考えていた。
なぜ千鳥は自分を助けたのか。
黒羽にはその理由がわからない。
理解できない。
自分を助けてもメリットなんてないのに。
あの老婦と同じだ。
黒羽はずっとあの老婦がなぜ自分を助けてくれたのかがわからない。
自分を助けても、絶対にメリットがないのに。
でも、黒羽の認識では、人間は元々意味不明な行動をする生き物だ
そもそも全く違う生き物なので、相手の思考原理が理解できないのも仕方ないと思っていた
だから、あの老婦の行動について、黒羽は深く考えたことがなかった。
理由がわからないが、餌をくれるので、自分を助けてくれるので、黒羽はあの老婦のところに通い続けることにした。
だが、千鳥はあの老婦と違う。
同じ鳥なのに。
同じ群れで生活する生き物なのに。
価値観も似てるはず。
だが、黒羽は千鳥のことが全く理解できない。
何を考えているのか、全くわからない。
(私だったら、自分と関係ないやつを決して助けてあげない。)
(しかも、私のために食料を探して来た何て、私だったら、そんなことしない。)
黒羽はそう思った。
ーーーーーー
また次の日。
黒羽はあの洞窟に行くことにした。
なぜこのような決断を下したのか、黒羽自身もよくわからない。
合理的に考えたら、千鳥のような危険人物を会いに行くなんて、正気な行動ではない。
それでも、黒羽はなぜかどうしてもじっとしていられない。
ただただ千鳥に会いたいだけ。
千鳥のことをもっと知りたいだけ。
千鳥に会って、聞きたい。
どうして自分を助けたのか。
黒羽はその思いで頭がいっぱいである。
黒羽は飛んだ。
山を越えて、川を越えて、千鳥のもとに向かった。
黒羽は千鳥と出会えた洞窟の前に着陸し、洞窟の前の崖に立っている千鳥に近づいた。
「なんのようだ」
千鳥は黒羽にこう尋ねた。
「......」
黒羽は無言のままだ。
「喋らないと、何考えてんか分からんぞ。」
「......なぜ、私を助けたのですか。」
「それを聞くためにわざわざ来たのか。」
「......はい」
「助けのいるやつを助けるのに理由なんかいらないやろ」
「......私を助けても、メリット何一つもないのに」
「見返りを求めないと、他者を助けてはいかんのか。」
「......わからない。」
「......あんた、名前は?」
「くろはです。」
「くろは、もし知らない誰かが、君の目の前で、危ない目にあって、君はそれを助けることができる場合、あんたはどうする?」
「......わからない。」
「......あんた、どこから来た?」
「ハトの群れです。」
「ハト?あんたが?」
「はい」
「......なるほど、群れに馴染めないか」
「はい」
「......俺のところに来るか。」
「いいんですか。」
「ああ。」
「ありがとう。」
黒羽はこの日から、巣へ帰ることを辞め、千鳥の洞窟で、千鳥と共に暮すことにした。
黒羽は元々いつか群れから離れるつもりだった。
だから、未練が全くなく、むしろ、思ったより早く群れから離れられて、うれしかった。
ーーーーーー
黒羽が千鳥と一緒に暮らし始めた初日に。
「とりあえず、まず、お前に狩りの仕方を教えなきゃ」
「は、はい」
「最初は魚とかにしよう」
「さなかですか」
「ああ、魚は川から離れることができない、後退もできない、比較的に動きが単純なんだ。」
「はい」
「この近くの川にしよう」
千鳥は黒羽を近くの川まで連れて行った。
「川は上流から下流へ流れる。だから、川の中の魚も下流へ向かって泳ぐ。覚えとけ、魚捕る時は上流へ向かって、魚の正面から突っ込め。」
「はい」
「私が一度お手本見せるから。よう見とけ。」
「はい」
千鳥は羽ばたき、離陸し、川へ突っ込んだ。
そして、千鳥は爪で魚の頭を掴み、素早く上空へ飛び、川を離れた。
千鳥は黒羽の前に着陸し、魚を黒羽の前に置いた。
「練習を始める前に、先に朝食を食べろ」
「魚の死体を食べるのですか」
「ハト達は草食だから、肉を食べたことないだろう」
「......はい」
「食ってみろ、お前の口には合うと思う。」
「......かしこまりました。」
黒羽は恐る恐る魚を口にした。
それは黒羽が今まで味わったことのない食感だった。
ぷにぷにして、不思議な香りが喙の中で広がる。
黒羽は衝撃を受けた。
今まで、これほどの珍味を食べたことがないから。
黒羽は知らんかった。
肉とは、これほどうまい物なんて。
「おいしいです。これほどの物、今まで食べたことがない。」
「そっか、良かった。」
黒羽は魚を思い切り堪能して、腹いっぱいになった。
「食べたら、しばらく休憩してもいいが、練習忘れるなよ。」
「はい!」
黒羽はしばらく休憩を取り、魚を捕る練習を始めた。
ーーーーーー
黒羽が千鳥と共に生活し始めてから、1週間経った。
黒羽はもう自分で魚を捕れるようになった。
今日も、黒羽はいつも通り、魚を取り、洞窟に戻った。
「千鳥さん!朝食取ってきました!」
最近では、黒羽が千鳥のために朝食をとってくるようになった。
「ありがとう。おつかれ。」
千鳥は翼で黒羽の頭を軽く撫でた。
「へへ」
黒羽は千鳥に褒められて、にっこり笑った。
(この子魚が獲れるようになって、うれしかったのか、最近毎日魚ばかり獲ってくるようになった。)
(正直、ちょっと飽きたが、まあこの子が嬉しそうだから、良しとしよう。)
千鳥は心の中でそう思った。
「千鳥さん!!!」
突然、空から声が聞こえてきた。
一羽のカラスが千鳥と黒羽の前に着陸した。
その鴉の翼と尾羽の先端だけは赤く、とても美しく見える。
「千鳥さん、お久しぶりです。元気なようで、何より。」
「なんのようだ。」
「千鳥さん、どうか群れに帰って欲しい。」
「用事がなければ、早く群れに帰れ。」
千鳥はこう言い残って、洞窟に戻った。
「あ、千鳥さん!」
カラスは悲しそうに千鳥の去っていく背中を見つめるのだった。
「あのう」
黒羽はその鴉に話かけた。
「あ、どちら様でしょうか」
「黒羽と言います。今千鳥さんと一緒に住んでいて、千鳥さんから色々教えてもらっています。とてもお世話になっています。」
「黒羽様ですか。はじめまして、私は茜と申します。」
「あかねさん、さっき千鳥さんに群れに戻って欲しいと言いましたが、それはどういうことですか。」
「知りませんでしたか。千鳥さんは数年前に族長の座を辞退し、群れから離れたこの洞窟で隠居するようになったんです。」
「千鳥さんはどうしてそんな事を?」
「それは......」
「教えてください!私は千鳥さんのことがもっと知りたいです!」
「黒羽さんはカラスじゃないですよね」
「はい、私はハトです」
「ハト?本当に?」
「はい」
「......なるほど、千鳥さんのことを本当に慕ってるんだね。でも、黒羽さんがハトなら、この話黒羽にとって、そんなにいい話ではないかもしれない。」
「それはなぜですか」
「鳩と鴉の戦争に関係する話なので、黒羽さんの仲間達が......」
「それなら、問題ございません。私には仲間何ていないから」
「え?......そうですか。わかりました。では、千鳥さんのことを少し話しますね。」
「お願いします」
「私が生まれる前のことなので、私もそこまで詳しくありませんが、千鳥さんの御子息さん、静流様は鳩に殺されたそうです。」
「!」
「このことががきっかけで、鳩と鴉の戦争が始まって、鳩の群れにも鴉の群れにもたくさんの犠牲者が出た。最終的に双方の合意によって、戦争が終わったが、千鳥さんがこの戦争は自分のせいだと言い、族長の座を自ら辞退して、群れを離れることにした。」
「......そうですか。鴉の方達は千鳥さんが群れに戻って欲しいですか。」
「うん。千鳥さんが何とか言おうとも、私達にとって、千鳥さんは英雄です。十数年前、鷹の襲撃から私達を守ったのも千鳥さんです。」
「たか?」
「鷹とは、最も力を持つ空の民である。この空において最も危険な存在である。」




