表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

一目惚れで悪いか!?

一目惚れで悪いか!?~第二弾~

作者: ヒトミ

俺こと、シグノア・スペンサは、王立大学の政治経済科に所属している子爵家嫡男だ。


普段は無表情で日々を過ごしているが、今はそんな余裕なんてない!


あ、アマレーナ嬢が! 高貴な彼女が! (うるわ)しの女神が……


金髪碧眼(きんぱつへきがん)の美青年に手を引かれ、馬車に乗ってどこかへ行ってしまったんだ!


大学の校門前で、その場に居合わせ、愕然(がくぜん)とする。


誰なんだあの男は! ふ、二人きりで馬車に乗るだなんて、まま、まさか。かかか、考えたくないが、彼女の婚・約・者!?


校門の壁によろよろと手をつき、しゃがみ込む。


アマレーナ嬢は、オクトリス辺境伯令嬢だ。婚約者が居ないほうが不自然っ!


オクトリス()と縁を結びたいだろう家門(かもん)を、覚えてる限り探し出す。


ウーノイル侯爵家? ツヴァイン伯爵家か? いやトレーサー公爵家かもしれない!


ウーノイル家はオクトリス家と領地が近いし、ツヴァイン家は魔法の名家(めいか)で、魔法研究をしてるアマレーナ嬢にも、利益があるんじゃないか?


トレーサー家だった場合、オクトリス家の軍事力に目をつけた可能性がある。


国防の要のオクトリス家と、王家と血縁関係があるトレーサー家が縁繋(えんつな)がりになれば、国家転覆(こっかてんぷく)だって狙えるんだ! やろうと思えばだけど!


なんだか泣けてきた。これは、幼なじみに相談しないと!


◆◆◆


大学帰り、幼なじみの家に突撃した俺は、迷惑げな表情をした彼に迎え入れられた。


「今から同好会に出かけるとこだったんだけど」


「カードゲームのか? 今度埋め合わせするから、相談に乗ってくれ! 切実なことなんだ!」


「……はぁ。分かった。(はな)せよ」


俺は幼なじみの部屋で、(さき)ほど見た光景を、身振り手振りを(くわ)えながら、洗いざらい(はな)しきる。


彼の家の使用人が用意してくれた紅茶を飲んで、ため息をつき、鼻をすすった。


「話は分かったけど、泣くほどか」


「彼女に婚約者がいたら、俺に勝ち目ないだろ。泣くわ!」


「その三家(さんけ)の嫡男とは、ゲーム友達だけど、三人とも別の婚約者いるぞ」


シュッと涙が引っ込んだ。(くら)(よど)んだ空気が、清々(すがすが)しく()(わた)る。


「それは本当か!?」


「嘘言ってどうなるんだよ」


「おまえがカードゲーム同好会に(はい)っててくれて、これほど感謝したことはない! 欲しいカードがあれば言ってくれ。今度買ってくる」


「大魔法使いのカード」


幼なじみは容赦なく、高額なカードを要求してきた。


一ヶ月、父の仕事を手伝えば、買えなくは、ない。


これも相談に乗ってもらった礼だと思えば、耐えられる。


ギュッと目を瞑り、アマレーナ嬢の姿を思い浮かべ、決意した!


「買ってやる。一ヶ月後を楽しみにしてろ!」


「おー。待ってるよー。じゃ、帰れ」


冷たいな! 要求が通ったら用済みかよ。


俺は幼なじみに追い出されるようにして、彼の家を後にした。


◆◆◆


自身の屋敷に帰宅したはいいが、今度は他の問題が頭の中を占拠(せんきょ)する。


アマレーナ嬢が、中性的な青年と、馬車に乗って行ったのは事実だぞ。


三家の嫡男じゃなければ、違う貴族家かもしれないじゃないか!


気になりすぎて眠れない。とりあえず、夜風に当たって頭を()やそう。


アマレーナ嬢の魔法研究を手伝うとき、さりげなく聞いてみるか?


貴女には婚約者が居ますかって? そんな失礼な質問、できるわけがないっ!!


男性と二人で馬車に乗るのを見ました、あれは誰ですかって言うのも論外だ! 気持ち悪がられたら立ち直れないぞ。


「うわっ! 幽霊かと思った。バルコニーにボーッと立たないでくれる?!」


「妹よ。兄は今、世界で(もっと)も重要なことを考えてる最中(さいちゅう)なんだ。邪魔しないでくれ」


「……(なに)言ってんの? 意味わかんない。どうでもいいけど、早く部屋に(もど)んないと風邪ひくよ」


妹に()ややかな声音(こわね)でズバッと言われ、やっと少し冷静になった。


風邪ひいて大学を休むことになったら、アマレーナ嬢に会えない。会えないくらいなら、玉砕(ぎょくさい)覚悟で聞いたほうがましだ!


◆◆◆


大学で政治の講義(こうぎ)を聞きながら、アマレーナ嬢に呪いをかけた人物は誰なのか考える。


彼女を呪った人探し、忘れてるわけじゃないからな。


婚約者の有無(うむ)も気になるが、彼女に害をなしてる悪人が誰なのか、突き止めることも重要なんだ。


オクトリス家全体ではなく、アマレーナ嬢一人に対して呪いはかけられている。


彼女に対する嫉妬(しっと)? それとも支配欲(しはいよく)か? 女なのか男なのか、それすら分からない。


もっと彼女の交友関係を知る必要があるのかも。


グルグルと思考を巡らせてるうちに、今日の講義が終わった。


晴れて自由の身になったわけだ! さっそくアマレーナ嬢がいる、魔法研究実践科の(とう)に向かう。


他の学科とは大分(だいぶ)離れた場所にあるんだよな。


なぜなら、爆発とか、爆音とか、悲鳴とかで騒がしいから!


魔法研究実践科はその名の通り、魔法の研究と実践をしているんだ。


そりゃ、実践中に失敗して色んなことが起こる。


変人の巣窟(そうくつ)なんて呼ばれてるのを、聞いたことだってあるんだ。


アマレーナ嬢が変人だと言われてるみたいで腹が立つ! 真剣に研究してる人たちに対して失礼じゃないか!


「シグノア様! 見ないでっ!」


研究室の扉を開けた瞬間、アマレーナ嬢の可憐(かれん)な悲鳴が響き渡り、耳に(とど)まり続けた。


茫然(ぼうぜん)となりながら、扉を閉める。


なんっだあれ! うさぎ? ぐっ心臓が。


胸元を握りしめた。彼女の姿が俺を苦しめるっ!


もう一度見ないと後々(のちのち)後悔するだろう。


アマレーナ嬢を刺激しないように、ゆっくりと扉を開け、研究室の中に(はい)った。


彼女は自身の頭部を隠して、へたり()んでいる。


「魔法の実践ですか? (あい)らしいので、隠さなくても大丈夫ですよ」


むしろさらけ出してください!


(あい)らしい!? 実践に失敗してしまったのです。あれがどうしてこうなったのか……」


柔らかそうなうさぎの耳が、縦巻きの金髪から覗いていた。


可愛すぎて死にそう。いっそ殺してくれ!


いや、この魔法をどうやって使うのか知るまで、死ぬわけにはいかない。


「どんな魔法を使ってこんなことに?」


「大切な行事のときに成功する魔法です。巻物(まきもの)に書かれていた通りに実践したのにっ」


魅了(みりょう)魔法とかじゃないのか。


ならば、この姿を見れるのは今だけ! 目に焼き付けておかないと!


「呪いの反対魔法を使ってみたんですね。貴女にかけられてる呪いと、反応してしまったのかも知れません」


アマレーナ嬢にかけられてる呪いの(ほう)が強いのか、それとも今、彼女が実践した魔法の方が強かったのか。


大切な行事が俺に会うことだとして、その行事で彼女は見事、俺を悩殺(のうさつ)した。


ある意味、大切な行事に成功したことになるよな。


自身の思考回路が気持ち悪い!! 直ちに脳内からかき消す。


◆◆◆


しばらくすると、彼女の頭部からうさぎの耳は、綺麗さっぱりなくなってしまった。


ひっじょーに! 残念だ!


「あら? もうこんな時間。シグノア様、研究の手伝いありがとうございました。そろそろ帰らないといけなくて」


窓の外を見ると大分(だいぶ)日が傾いている。暗い中、アマレーナ嬢を一人で歩かせるわけにはいかない。


「校門までご一緒いたします」


「助かりますわ。よろしくお願いいたします」


できることなら、彼女を家まで送りたいところだ。


アマレーナ嬢は、どんな失敗をして、いつから領地で過ごしてきたんだろう。


聞きたくても、軽々しく聞いたら駄目な気がして、なかなか口にできない。


彼女も俺の隣で静かに歩いていて、重い話をする雰囲気でもなかった。


「アシュリー! 待たせてしまったかしら?」


「姉さん。……その人、誰?」


校門の前には、昨日見た美青年が、馬車の横に立って待っていた。


間近(まぢか)で見ると、アマレーナ嬢に似ている。


金髪は後ろで一つに(くく)られ、存外(ぞんがい)長い髪だということが分かった。


「この方は、(わたくし)の研究を手伝ってくれてるスペンサ子爵令息よ」


「そっか。私はアシュリー・オクトリス。姉さんの妹だよ。連れてきてくれてありがとう」


弟じゃなく!? 妹だと?


アシュリー嬢と握手しながら内心叫ぶ。


身長はアマレーナ嬢より高いし、男装してるし!


遠目からだと恋人同士にしか見えなかったんだ。


でも良かった。婚約者じゃなくて!


二人が馬車に乗り、校門前から居なくなった後も、俺は少しの(あいだ)、気が抜けて動くことができなかった。

お読みいただきありがとうございました^^

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ