親しき仲にも礼儀あり2
「……あの単刀直入に言ってもいいですか?」
「なんだ?」
「うちに来る頻度が……最近……その……」
笑ってるうちに本題に入っちゃおう!と言う私の努力も虚しくがっつりレオン様は話を聞くモードに入ってしまっている。そして私、言うんだ。はっきり言うんだ。
察してくれ。ここまで言ったら察してくれ。日本人だからこれ以上先は言えないんだ。
「なんだ?」
いや伝わらないんかい!レオン様はほんとに分かっていないようでナチュラルに首を少し横に傾ける。その破壊力や否や、後ろにいたメイドや執事がうめき声をあげている。わかる。オタクにはきつすぎるこの威力。
14歳のあどけなさと神々しいまでのかっこよさを兼ね揃えた絶妙な塩梅のおかげでとんでもないあざとい仕草になっている。目に焼き付けたい。
当の本人にとってそんな周りのリアクションなど日常茶飯事なのか気にせずに優雅にお茶を飲んでいてほんとどんな姿も絵になる……じゃなくて!
「その……月に一度だったかと思うのですが……」
「そうだな」
「来る頻度が増えたような気がするのですが……ご無理なされてたりとか……?」
「俺が来たいからだ」
「そ、それは……それはそれは……」
いい意味……なのか?眉間に皺がよってる気がするけど訝しまずにはいられない。
でもなんとか好きでも嫌いでもないおもしれー女枠をなんとか勝ち取れそうで安心をする。この調子でいけばきっとそんなに目立たずに入学を迎えられるはず。
「君みたいに面と向かって意見を言う女性が初めてだったんだ。俺の周りには言い返してくるどころか正面から何か言ってくる女はいなかったからな」
「そうなんですね……」
それは多分、あなたが公爵という立場で意見を聞かせる側だからだと思いますよ。あなたに意見できる人間は数えるほどしかいませんよ。特に王族にかなり貢献して伝統と格式高いあなたのお家は公爵家の中でも強すぎなので。
また本音をぶちまけないようにチビチビとティーカップに口をつける。口に何かを入れてないと思わず何か言ってしまいそうだ。
「来週末のパーティーだが君も参加するだろ?」
「え?パーティー?」
初耳すぎて思わず首を傾げる。あったっけ?全然私の記憶にないな……。どんなに記憶を遡ろうとしても転生した初日がむしろこの世界の誕生日みたいなものでそれ以前になにかあっても覚えているはずがない。
「パーティー好きな君がまさか忘れていたのか?」
「あー!来週末のパーティーですね!はい、行きます行きます!」
悲しいかな、これが同調圧力に屈した女である。無理やり笑顔で覚えてますアピールをする。
「俺は行けるかわからないんだが……まあ王子が来るからな。粗相のないように」
「王子!?」
思わず前のめりになってつい顔を近づけてしまうが許してほしい。攻略対象なんだもの!情報が欲しい!
「その……王子様はどんな方なんですか……?」
「俺はたまに顔を合わせれば話すくらいだが真面目だな。国を思うが故に頭が硬いところがあるが優秀な男だ」
「ほうほう」
「あと俺と同じで女嫌いだ。」
……まあ確かそんなキャラだったような気がする。確か周りの理想通りに振る舞うのが疲れてヒロインの前では素でいられる……っていうめちゃくちゃ王道なルートだった気がする。なんとか王子ルートに進まないように私が頑張らねば……。
思わず力が入って目に炎が入る昔ながらの表現のように燃えてしまったがなんとか王子とヒロインの仲を切り裂かなければ。そのためにパーティーで私ができることは……
「……王子が気になるか?」
「え?」
「随分と興味を持つんだな。俺が目の前にいるというのに」
純粋な眼でこちらを見てる王子は背景に薔薇でもあるんじゃないかって言うくらい輝いて見える。いちいち絵になる。スチルですか?
あなたとヒロインをくっつけたいからですとは言えない……!今の私は口をすぼめて不審な顔をしているだろう。だがそうしないとつい何かを言ってしまいそうだ。
「いや……王子様が王家主催以外のパーティーに出るとは珍しいなと……」
多分さっきの口ぶりからすると王家主催ではない……はず。
「まあな。来年魔法学院に入学する14歳の魔力持ちの人間が招待されてるからな」
なるほど……思わず考える姿勢になってしまう。
ということは。他にも攻略キャラがくる……ってこと!?あ、ち○かわみたいになっちゃった。危ない危ない。もしかしてこれは来年レオンとヒロインをくっつけるためにかなり重要なイベントになるのでは……?
と、想いを巡らせてる私にレオン様の視線など気づくことはなかったのだった―――