冷たいお茶会
冷たいお茶会
〜前回までのあらすじ〜
レオン様もお茶も冷たい
「レ、レオン様お久しぶりです!お、お手紙書いたのにお返事がないなんて冷たいですわ〜?」
……何この喋り方、好意を見せつけつつ2人をくっつけようとするあまり謎のモブみたいな話し方になっている。誰か私に国語辞典を貸してくれないか。
今は春のような気温で普通なら暖かい気温の中暖かい紅茶を飲む素敵な時間のはずなのに空気がなぜか吹雪だし気温も真冬のように冷たい。紅茶が冷める。
「……どうした?」
「えっ?」
「また何か企んでいるのか?」
気まず過ぎるのとレオン様があまりにもイケメン過ぎて目がチカチカするので手元の紅茶をひたすら見いたらようやくレオン様の方から声をかけてくれた―――――――のだが、
「……っ」
不用意に見るんじゃなかった。また視線を手元に戻す。
……なに、あの視線。
そう、声をかけてくれた嬉しさからついレオン様の方を見てしまったのだがそこにはこちらを見ているようで全く目に映していないかのような冷たさを孕んだ視線と絡んだ。
嫌われてるなんて可愛いものじゃない。軽蔑、いや嫌悪を超えた無関心さまで感じることができてしまう。
セレナよくここまで嫌われるようなことができたな。なにした。
「今日はいつものように煩わしい歓迎をしなかったようだが俺の気持ちは変わらない。治癒能力が希少で後継のために婚約者になっているのは知っている。だが君が俺に固執するのも見た目や地位に目が眩んでいるだけだ。君も早くほかにいい男を探せ」
紅茶を優雅な手つきでテーブルに置いた公爵はなんともないように言う。
……ていうか、ちょっと待って。
「うざ……」
「は」
「……っ!!!」
やば!!!声に出しちゃってた!?出してたな!
慌てて手で口を押さえるけど多分手遅れ。いや手遅れだ。
「……今なんて言ったんだ?」
確かに私も軽率に発言したのが悪い。そしてやばい、レオン様の目元、切長で綺麗……じゃなくてなんかやばい、目つきが鋭利すぎて人1人殺せてしまいそう、やばい。
「……いえ、おっしゃる通りだなと……」
「…………今日の君はどうしたんだ?悪魔にでも乗っ取られたか?」
……いや逆でしょ!悪魔に乗っ取られたのが今までの姿じゃないの!?なんで少ししおらしくなったら逆に取り憑かれてると思われちゃうわけ!?
レオン様も今までの鬱憤が溜まってたのかこちらはこちらで今まで通りなのか私への批判が止まらない
「君の婚約者になれば他のご令嬢のめんどくさい求婚から逃げられるかと思ったら君のような悪女で行けるなら、と余計にアプローチがすごくなった。挙げ句の果てには性格の悪い女が好みとまで言われていい迷惑だ。実際に婚約者になっても君は過剰な好意を押し付けるだけで顔と地位しか見てないしな」
……なんなのこいつ。ムカつきすぎて思わずティーカップを持ってる手が震える。さっきから聞いていれば人を否定することばっかり!!!肩書き!?地位!?
頭に来て何か言い返してやろうと思った瞬間、自然と体が動いていた。
「ばっかじゃない!?」
「……なに?」
「あんたね!さっきから人のことズケズケ言ってますけどね!あんただって人のこと表面しか見てないんじゃないの!?地位や肩書き!?確かに見てるかもね!けど私はそれだけで人を好きになる人間じゃないのよ!確かに今までの私の態度は悪かったけどそれでも自分を好きになってくれた人に対して失礼じゃなくて!?」
「なっ……!」
「偉そうにご高説を垂れてるけど、ご自分こそ私のこと治癒能力持ちの伯爵令嬢っていう肩書きしか見てないじゃない!見てくれで判断?あんたもだっつーの!!!」
確かに話に聞く限りセレナは性格極悪だし、周りに迷惑かけて悪役令嬢ここに極まれりな人間だったことは知っている。
でも、たとえそれが治癒能力を引き合いにしていようと、きっかけがなんであろうと婚約まで取り付けたいほど好きだった人に対していうことなの?それほどまでにあなたのことを好きだった人に対して自分こそ表面しか見てないのにバッサリ切り捨てるのはどうなわけ!?
頭の中で色んな考えや言葉が渦巻いてるけどうまく頭が回らない。そして尼さんになれるレベルで捲し立てるように言いたいことを言ってしまった私はゼーハーゼーハーと令嬢とは思えない呼吸の仕方でレオン様を見ていた。
……やばい。尋常じゃないほどの冷や汗が体中の色んなところから出てくるのを感じる。
どうしよう、ただでさえ好感度マイナススタートをゼロにするっていうすごく大事な任務があるのにまさかの堪忍袋の尾が切れてその人で簀巻きにされて海に投げ捨てられてもしょうがない状況に追い込まれてしまった。
誰か魔法で3分前に戻して。
心の中でガクブルしながら神に祈っているとレオン様がようやく重たい口を開く。やばい。処刑だ。処刑エンドだ。ストーリー始まってすらないのに。