勉強会編2
重厚な扉を押し開けた瞬間、空気がビシッと張りつめた。煌めくシャンデリア、光を反射してキラキラと輝く石畳、そして腕を組んで談笑する貴族たち――まるで舞台のセットに迷い込んだ気分だ。もはや私の知ってる勉強会とはかなりかけ離れてるな。こういうのって誰かの家に招かれて狭い部屋で和気藹々とやるものじゃないの?
「ここが……戦場……!」
思わず呟く私の声は、もちろん誰にも届かない――はずだったのだが。
「負けん気が強いとは言え戦争は起こすなよ?3カ国分の人間が来てるからあながち冗談にはならないぞ」
聞かれてた。そしてこのめちゃくちゃいい声は……
「ノア様!?いつからそこに」
「君がガチガチの姿勢で馬車を降りてからだ」
「それって最初からじゃないですか!」
「ふっ……」
ノア様は耐えきれない、と言った表情でクスクス笑う。完全におもちゃ状態である。
今日のノア様の格好はフォーマルとカジュアルの真ん中でマントはつけておらず、瞳と同じの深いブルーを身に纏っている。
「2人の世界でいるところ悪いけど俺もいるよ?」
ノア様の後ろから来たのは今日も相変わらずノア様とは別ベクトルのイケメンポニーテール。リアム様だ。今日も遊び人のような色気がある。ほんとに同い年か?
イケメン2人にグイグイと押され神秘的な廊下を歩いていく。
「この間は2人でデート行ったんだって?セレナちゃん俺は誘ってくれないの?」
気づけば手を取られていてそのまま手の甲にキスをされる。
「……!」
ボッと顔が赤くなるのを感じる。体温がかなり上がるのを感じながら口をぱくぱくさせる。くっ……!こう言う時キャパオーバーして何も言えなくなる自分が悔しい……!
ノア様がその手を奪いさりげなく腕を組まれる。
「お前は黙ってろ。……セレナ、この間は楽しかったな?」
同じ笑顔とは言え今度は明らかに揶揄いたい様子がわかる。整った顔を寄せられるとそれだけでもドキドキしてしまい思わず顔を背ける。あれから会ってなかったからどんな顔すればいいかわからない私は正面から顔を見れずそのまま下を向いてしまうがノア様はマイペースに席まで連れて行ってくれる。
「どうぞ?」
顔を背ける無礼をしつつも椅子を引いてエスコートされおそるおそる腰を落とすとすぐ隣に椅子を近づけて隣にノア様が座った。……そこに座るの!?まじもんのホストじゃん!行ったことないけども!と、美形の近さに震えていると、私たちに影がかかった。
「おい」
「レオンか。あっちが空いてるぞ」
「……」
何このデジャヴ。この間もやりましたやんこの流れ。乙女ゲームはこういうの好きなの?なんでこうも主要人物たちがぶつかり合うわけ?そして今日来ると聞いていないんだが?
「婚約者に何か用か?」
「またこのやりとりか?婚約破棄したいと何度も言っていただろうに。口説いていいよな?」
「セレナちゃん人気じゃん。じゃあ俺も立候補しよーっと」
バチバチと魔法を使ってもいないのにお互いの視線から電流のようなものが流れている気がするしリアム様は呑気に手を挙げている。意味わからないから下げなさい。これって普通ヒロインを取り合う時の流れであって悪役令嬢を挟んでやるやり取りではないんだけど……。しかも1人ちゃっかり人気者が好きっていうみんなが好きなもの自分も好き、っていうミーハーも混ざってるし。
「お前と違ってデートに行ったら楽しくてな。このまま俺のものにしたい」
「……そんなすぐにできるわけないだろう」
元から注目されてたのか周りの人の視線が突き刺さる。大規模ではないとは言えそこそこ人がいるから言い争っていたらあっという間に目立っているので思わず仲裁に入る。
「あの……2人とも落ち着きませんか?」
「じゃあ考えてはいるんだな?」
「……!別にお前にはっ」
「2人とも必死になって面白いなぁ」
「いい加減にしてください!」
喧嘩をやめない2人(悪ノリしてる1名)に思わず説教をしてしまう。
「2人ともよくわからないことを言って騒ぐのはやめてください!あと!婚約破棄とか誰と結婚するかは私が決めます!リアム様も止めてください!」
子供を叱りつけるように捲し立てたが3人とも状況がよく飲み込めずポカンとしている。周りの生徒も驚きで固まっている。
「……?」
「ふっ」
沈黙を破ったのは相変わらず実はこの場で1番偉いノア様である。流石の肝っ玉。
「俺らに媚びない姿が……な。お前もそうなんだろ?ま、セレナ嬢の勇気に免じてここは静かにしよう」
「……」
ノア様はともかくレオン様がなんとも言えない表情で苦しそうな顔をしているのが目に入る。少し前から歯切れ悪いんだよなぁ……モヤモヤしているとパッとライトがついた。
「皆さま、お揃いですね」
優雅で落ち着いた声が響く。振り返ると、主催者であろうリディアが笑顔で壇上に立っていた。
「本日は、私が主催いたしました勉強会にお集まりいただき、誠にありがとうございます」
リディアの上品な物腰に、会場が自然と静まる。テーブルごとの談笑も一瞬途切れ、視線が彼女に集まった。見渡すと50人にも満たない人数が大きい広間に集まっておりグループ単位でテーブルを囲っている。
扇子を軽く開き、ゆっくりと視線を巡らせて微笑むリディアは、堂々とした威厳と優雅さを兼ね備えている。
「この勉強会は、入学前に皆さまが交流を深め、協力し合える機会と勉強をするためのものです。どうぞ気楽に、楽しんでくださいね」
小さな拍手のあと、それぞれのテーブル同士の自己紹介もあっという間に済んだ。
早速基礎魔法の練習が始まり各々テーブルで練習をすることになったのだが―。




