ダブルデート編
――ダブルデートをご存知だろうか?
そう、前世でも存在していた言葉、本来カップルがデートをするのは言わずもがな。ただそこにもう1組カップルを追加してしまうことで友達と恋人どっちとも過ごしちゃおうという贅沢な代物なのだ。
ちなみに私は前世では一度もしたことがない。ダブルデートって仲良い友達にも彼氏同士もOKを出さないと実現できないからなかなかにハードルが高いのである。
と、まあ一通り前置きはさておき――
「ダブルデートかあ……」
「面白……大変なことになってますね」
「面白いって言おうとした?」
相変わらず人の血が通ってなさそうなダルケルを一瞥し、良心があるニーナに意見を求める。
「お嬢様には婚約者がいますしそれを理由にお断りすればいいのでは?」
「それができれば苦労しないのよおおお!」
「まさかノア様からデートに誘われるなんて人生何が起こるかわかりませんよね」
あははと呑気に笑いながら私の紅茶を入れているところを見ると、仕事はちゃんとこなすが人の気持ちを相変わらず考えられない相変わらず残念な護衛である。誰か彼に人の心を。
そう、悩んでる理由はダブルデートの申し込みがノア様からということ。ツッコミどころが多すぎる。
「やはりあのパーティーでお嬢様のことをお気に召されたということでしょうか?」
ニーナも簡単に支度を仕上げをしながら心配そうに声をかけてくれる。ブラッシングしてるところから心なしか優しさが伝わってくるような気がする。ニーナ優しいニーナしか勝たん。推しカプ幸せにしたらニーナたん推すからね。
「まあ私もノア様とお会いしたのは入学前パーティーのあの日が初めてだけど……」
心当たりがないわけではない。なぜなら言い寄られているところを食い止めたからだ。というか食い止めるどころか物申してしまったので彼の中で私がおもしれー女枠になってしまった可能性は否めなくない。
少女漫画でいう学校1のイケメンを何故か知らないヒロインがイケメンと衝撃的な出会いをなぞってるのかと思ってしまうくらい王道展開を繰り広げている気がする。もう私自らおもしれー女になろうとしてない?
「でも私は一応レオン様と婚約してるのよ?ダブルデートなんて行っていいのかしら」
「手紙にはなんて書いてあったんでしたっけ?」
先ほど途中から白目を剥きながら読んだ手紙に視線を移す。ほんとこの手紙読めば読むほど現実かわからなくなってくるわ……。というか王族ってほんとこんな奔放な人しかいないの?
手紙をテーブルの上に広げるとダルケルとニーナも覗き込む。
「えっと、」
「最初の挨拶も面白いこと書いてますね」
「親愛なるセレナへ……?」
そう、この手紙はなんと事情を知らない人が見たらラブレターのように見えてしまうのである。ちょっと恥ずかしいので読み返すのもドキドキしてしまう。
というか一応攻略キャラとこんなに親しくなってもいいものなの?
「あ、デートの誘いここら辺からですね。『ところで王立植物園できたのは知ってるか?この間のお礼も兼ねて一緒にどうだろうか。君が好きそうな場所なんだ』」
「すごい。こんなにスマートにデートに誘うなんて女性なら全員ドキドキしてしまいますね」
少し頬を染めながら胸の前で手を組んでうっとりしながらニーナが言う。あなたこう言うのが好きなのね。
「続きは――……『従姉妹と一緒に居合わせた婚約者にも君の話をしたら大層興味を持っていてね。2人で俺を通して会いたいって言うんだ。紹介したいからダブルデートのつもりで来てくれればいい。月末の休みで行かないか。』」
「この書き方断れませんね」
「でしょう!?」
くわっとニーナを見る。眼球が乾きそうだ。そう、この手紙断らせる気がサラサラないのだ。今の段階ではノア様は男爵令息なのだが、本当の正体は王子。つまり実質身分はあちらが上なのである!断りづらいわ!断ったら正体を明かした後に言われそう。
読めば読むほど頭痛がしてしまう手紙である。呪物かな?
「これのさらに断れないところってノア様は私がレオン様と言う婚約者を知りながらも誘ってきているからそれを理由に断れないのよ」
「確かに気にしてないってことですもんね」
「しかもノア様に私との婚約も嫌なようなことを言っていたらしいし、きっとレオン様を理由に断るのは無理ね」
「レオンに相手されないなら俺が相手するが?くらい言っちゃいそうですね」
「うわ、めちゃくちゃ言いそう」
眉間に皺が寄る。どう頭を捻ってもこの強敵を退ける方法を持ち合わせていない。もはやOKを出すしかないのだがなんとか足掻きたい気持ちもある。
「レオン様に相談しても行って来ればいい、とか言われちゃいそう……。」
思わずため息をつきそうになる。
多分ダブルデートに行ったところでレオン様自身何とも思わないはず。そしたら事後報告でサラッと言うくらいでいいかな。むしろ浮気をしたとか言って婚約破棄の理由になるかもしれない。
あまり原作ストーリーが始まるまで攻略キャラと関わりたくないけどここまできたらしょうがない。何かあった時のために情報を集めるくらいの気持ちで行くか。
ジメジメとした気持ちを入れ替え、テーブルに置いてある新しい便箋を取ってペンを握る。
――今思えばここが分岐点だった。
謎の風邪で更新が遅れました。




