とあるカフェにて3
「え?」
聞き間違い……か?いや、聞き間違いだ。この目の前の男は婚約を解消したがっていたはずだ。
「君との婚約は解消しない」
「どういうことですか?パーティーでもおっしゃってたように私との婚約は望ましくなかったのでしょう?婚約破棄は嬉しいはずでは?」
「それはっ……」
思わず言いかけた、と言わんばかりに口を開けて次の言葉を待つもなかなか次の言葉が来ることはない。レオン様にしては珍しく歯切れが悪い。
「俺としてもよくわからないんだ」
「何がですか?」
「……まだ答えたくない」
うん、歯切れが悪い。どうしてそんなに迷っているように見えるのか。
もう完全に飲み切ってしまった紅茶のカップを見つめる。正直ここに連れ出された理由もわからない。ダルケルから聞いた話によるとデートらしいデートはしたことがなく、私から無理やりストーカーまがいのデートはしたことがあるらしい。どんだけ押したんだ。
ダルケルとニーナの話を聞いてもとことん私という人間はレオン様大好き人間でそれゆえに押し付けまくってたらしい。ゲームでは全くわからなかったけど本編始まるまでに色々起きすぎでしょ……。
私はあくまでオタクとして遊んでたけどここの世界のキャラクターは本当にこの世界で生きてるんだなぁ
いまだにゲームの世界でつい物語を見ているような感覚になってしまうけど私自身も、目の前のレオン様もこの世界では普通に生きてる人間だなんていまだに思えない。
推してきすぎたせいで人間というよりキャラに近すぎて以前のセレナのように好意を持てないんだよね。むしろ推しカプのイメージ強すぎてソフィアと一緒じゃないと好きじゃないとすら思ってる。
「レオン様が何に悩んでるかわからないですけど、ご友人に私のことを相談するほど状況には悩んでいたんでしょう?」
「それこそ状況が違うだろう」
「でも……」
うん、まあ中身が違うからね。状況が変わってるのは確か。入学前だから今私と一緒に入るけどあの入学式の出会いがあったらきっとソフィアに夢中になるはず。
レオン様は俺様なところがあるから好きな人にはグイグイ行くんだよね。入学して間もない頃一目でソフィアに好感を持ったレオン様はヒロインが戸惑いつつもカフェとかに誘って遠回しに口説くんだよね。
レオン様が振り回してるように見えて実はヒロインも振り回しているというあの王道様がたまらんのよな……。さすがキャラランキング1位のことだけはある。
「わかった」
覚悟を決めたように頷くレオン様に色んな意味でドキドキしてしまう。わかったって婚約解消のこと……?原作とか話が変わっちゃうけど婚約者がいない方がヒロインとくっつくのはきっと早いはず……!期待に胸を踊らされてレオン様をみていると
「では友人として親密になろう」
「え?」
おっとっと?私きっととんでもない間抜けヅラになってないかい?この目の前の美男子なんて言った?
「俺たちは友人としてはお互いのことを知らなさすぎる。婚約解消もお互いのことを知ってからでも遅くないだろう?」
にやりと不敵な笑みを浮かべてそんなスチルなかったのに……!と真っ先に考えてしまうオタクの性を恨みたい。
……逆手に取られたあああ!!!!!!
ガッデーム!!!友人友人強調しすぎた!ヒロインとの場を整え過ぎようとして裏目に出ちゃったよまさかの仲良し作戦本格始動だよ!
ぐぬぬ……とテーブルの上で拳を振るわせるが目の前の男はなんのお構いもなしに紅茶をおかわりしている。私の分までスマートに頼んでいるところを見ると女性の扱いもうまくて余計に謎の悔しさが募る。
「なるほど……確かに私たちはお互いのことを知りませんでしたよね」
「だろう?まずは過ごす時間を増やしていくことが大事じゃないか?」
にっこりと清々しいほどの笑顔をこちらに浴びるように向けていっそ聖人にも思えてしまうような神々しさで話は終わったと言わんばかりに紅茶を飲んでいる。
さすがゲームでは王子ですら迂闊に手が出せないと言われるまでやり手な公爵、小娘レベルの私が言いくるめられるわけがなかった。シンプルに頭が良すぎるのだ彼は。
この世界では貴族は18になると成人扱いされる。ゲームではレオン様が結婚を待ちきれないと言って18になった瞬間ソフィアにプロポーズまでして婚約まで漕ぎ着けるのだ。つまり今から考えて4年間のうちにくっつなければ私の幸せにもつながらない。
ソフィアに出会った時には15、プロポーズが18……。3年で私無事に推しと推しをくっつけられる……んだよね?
私1人ではどう考えても強大すぎる敵に頭を抱えるが今から作戦を立てれば4年もあるしなんとかなるだろうと腹を括ったのだった。




