【第9話】
次の日、シンの提案で、俺たち8歳9歳のグループは、
昼食に出てくる『酸っぱリンゴ』をポケットに入れて、そっと抜けだし、焼きリンゴの串焼きを食うことになった。
「なあ良いだろう、ブルー」
シンは親分肌なのか、焼きリンゴをほかのガキ共にも食べさせたくて、
俺に許可を求めてきた。
(悪ガキのくせに律儀というか何というか。俺だったら勝手にやってるけどな)
「まあ、別に良いけど。」
「良いけど、って何だよ。俺が教えるのが気に入らないのか? だったらブルーが教えてやったら良いだろ。俺としてはさ、あの甘いリンゴを皆に食わしてやりたいのさ。親分としては。」
「親分としてはね(笑)」
少しからかうように笑いながらシンを見ると、殴る真似をしてきた。
シンはシンなりに、俺に仁義を通しているのだろう。莫迦なくせに。
俺が気にしているのは、そんんことじゃない。
(頭領の存在なんだよ。アイツ、「何故そんな方法を知っていた?」とか聞いてくる筈だからな。
何かうまい理由を考えなければ・・・)
歯切れの悪い俺の腕を強引に掴んで、シンは食堂に向かった。
合流する仲間に囁いている。
「『酸っぱリンゴ』は食わずにポケットに入れて、食後に焚火前に集合な。」
断る奴はいない。シンの奴、よほど幅を利かせていたようだ。
悪ガキ共はシンが囁く『酸っぱリンゴ』の謎より、俺との関係性が気になって仕方ないようだ。
そりゃそうだろう。昨日まで殺し合いかと思うほどの模擬戦をやって、
なおかつ同じ部屋にさせられたんだから。
気にならない訳がない。
どっちが親分か、見定めるようにチラチラ見てくる。
(まあ、あれで勝負がついた訳じゃない。多分、次にシンとやったら勝てない、今の俺では。
串焼きリンゴで仲良くなったと思わせれば、丁度良いだろう)
「えー、皆よく聞け、俺とブルーの模擬戦は引き分けだった。
コイツは勇気のある奴だ、俺はコイツを仲間と認める、それで良いか!!」
皆を見渡すようにデカい声でシンが宣言する。
ここにいる誰もがシンに敵わないのだから反論するわけはない。
(あの模擬戦、引き分けだったのかよ! 俺の勝ちだと思うんだけど)
シンは引き分けという言葉を平然と使いながら、さらに言葉を続けた。
「それでだ、コイツは腕っぷしもまあまあだけど、頭もそこそこ良いらしく、
今からお前たちにすごいことを教えてくれるそうだ。
仲間入りの印としてな。ほら、ブルー後はお前が」
そう言うや否や、俺の腕を取って立ち上がらせた。
「親分のお前が説明するんじゃなかったのかよ。」
俺が小声でそう呟くと、シンは、
「俺じゃうまく説明できない、頼むって。こいつらにも食わせてやりたいんだ。」
(しょうがねーなー、ガキのお守りかよ)
俺は心でそう毒づきながら、ガキ共に串焼きリンゴの作り方を説明してやった。
ガキ共は「マジかよー」とか、「甘くなるわけないだろ」と口々にうるさい。
新しい食い物に夢中でテンションが爆上がりだ。
シンがガキ共に偉そうに説教している。
アニーとオットーだけが、静かにこっちを見てきた。
にっこり微笑んでいる。
大事になったなと少し後悔したが、俺は苦笑いしながらアニーとオットーに軽く手を振ってやった。
ガキ共はリンゴが焼けるまで、それぞれ期待に胸を膨らませて焼ける様子を夢中に眺めている。
(今、チャンスだな)
そう思った俺は、こっそりステータスを表示させた。
所属:グレーシーズンズ(犯罪者ギルド)
立場:見習い
名前:セイ
年齢:9歳
種族:ヒューマン(レベル9)
知力32・体力29・運29
ユニークスキル「正義感」(レベル3)
ユニークスキル「隠ぺい」(レベル1)
ユニークスキル「鑑定」(レベル1)
職業:?????
特殊ステータス:異世界転生者・転移者
特殊ステータス:??????
上がっている。
「正義感」はレベル3だ。確か模擬戦の前後、後はシンに串焼きリンゴを食わせた後だったか?
それにヒューマンレベルも8から9だ。
知力・体力・運も、8歳9歳グループのガキ共と遜色ない。
それどころか、バランスよく上がっている。
(よし!)
つい、ガッツポーズを取ってしまった俺は、慌てて周りを見渡したが、杞憂だった。
ガキ共はもっと騒いでいて、それどころじゃない。
よっぽど、甘みに飢えていただのだろう。
がっつく者、口周りを焼けどする者、歓喜の声を上げる者、それぞれに喜びを体一杯に表していた。
犯罪者ギルド、グレーシーズンズでこんな微笑ましい光景が見られるとは。
俺は何とも言えない気持ちになった。
「ブルー! シン!」
集落中に響くかのような大声が喚起を打ち消した。
一瞬にして静寂となったそ中、シンだけが静かに立ち上がった。
俺もつられるように立ち上がり、声の主であるダンのそばに歩み寄った。
ダンの表情はというと、誰が見てもわかるほど不機嫌だった。
隣にはシューリが静かに立っている。
シューリが低い静かな声で言う。
「頭領がお呼びじゃ、ついて来い。」
シンは震えていた。明らかに怯えている。
こんなシンを見るのは初めてだ。
その時、俺が思ったこと。
それは前世と同じだった。
騙せば良い。裏切ればよい。自分が助かるためには。
何でもやる。それだけだった。




