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「異世界転生 悪党よ大義を抱け」  作者: 風井屋長右衛門
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【第5話】

起こされたのは、昼前だった。

太陽の光がまぶしく、すっかり寝過ごしたと思ったが、

グレーシーズンズの連中は、昼前に起きるのが日常だとダンに教えられた。


「悪党は夜働くからな。朝はゆっくる眠るんだよ」


ダンは、口を大きく開いて笑いながら、俺を食堂に案内した。

食堂には、30人から40人程度のガキが三つのグループに分かれて飯を食っていた。


「そっちは、4歳5歳、で、あっちが6歳7歳のグループだ。こっちは8歳9歳だ。

お前は、この8歳9歳のグループに入ってもらう。まずは飯を食え。」


そう言うと、食堂の配膳口に並ばされた。

トレイに乗っているのは、リンゴらしき果物。もちろん皮なんて剝かれていない。

それに黒くて固そうなパンが一切れ。あとは器に入った野菜スープのようなものだった。


ダンの方をちらっと見ると、料理が違う。

肉がついているし、パンも三切れ。トウモロコシも付いている。


「何だよ、ダンは肉付きかよ!」


俺が恨めしそうに小言を言うと、ダンはトレイで俺の背中を小突くと、


「働かざる者食うべからずだ。早いところグレーシーズンズに貢献できるようになれば、

旨いもんがたんまり食えるようになる。しっかり鍛えてやるからな(笑)。

それとあと、ダンさん、な!」


ダンは、念を押すように俺を見ながら席に促した。


(俺と同い年の癖しやがって偉そうに。これだから老け顔のおっさんは嫌なんだよ)


昨晩ステータスを見たことを言えるわけがない俺は、不服そうに席についた。


「良いかお前ら、コイツの名前はブルー。今日からお前らの仲間だ。仲良くやるんだぞ」


ダンが周囲に響くよう大きな声で俺を紹介した。

俺は軽く会釈してから、リンゴをかじった。


「すっぱー、うえぇ。」


リンゴのあまりの酸っぱさに思わず、吐き出した。

それを見た周りのガキどもが笑った。


(新入りは多分、皆これを経験済みなんだろうな、ガキのくせに笑いやがって、覚えてろよ!)


パンは固く、もそもそとマズい。スープも味が薄く、飲めたもんじゃない。

極めつけはこのリンゴだ。とにかく酸っぱすぎる。

全部食えるわけないだろう。

そう思って、隣のダンを見ると既に食べ終えて席を立とうとしていた。


(どんだけ早食いなんだよ、そしてそのリンゴ全部食えるのかよ!)


ダンの早食いのスピードに驚く俺の様子を、前に座っていた二人のガキが、

顔を見合わせて小さく笑い、そしてニッコリとほほ笑んできた。

二人は顔立ちがそっくりで周りよりもひと回り小柄だった。

ダンも席にいないことだし、俺はコイツラの情報を読み取ろうと『鑑定』と心の中で呟いた。


所属:グレーシーズンズ(犯罪者ギルド)

立場:見習い

名前:アニー(双子兄)

年齢:9歳

種族:ハーフリング(レベル12)

知力48・体力20・運30

ユニークスキル「?????」

ユニークスキル「?????」

職業:?????


所属:グレーシーズンズ(犯罪者ギルド)

立場:見習い

名前:オットー(双子弟)

年齢:9歳

種族:ハーフリング(レベル12)

知力48・体力20・運31

ユニークスキル「?????」

ユニークスキル「?????」

職業:?????


(コイツらハーフリングかよ、道理で小さい訳だ。でもって、双子でアニーとオットーって。

頭領の奴、適当に名付けしてやがる)


俺は呆れ顔で双子を見ると、ユニークスキル持ちであることに気が付いた。

相変わらず????表記で特定はできないが。


(ハーフリングって、確か、手先が器用で錬金術か何が使えたような。

でもレベルが低いから発動していないってことか。

年齢にしては知能は高い、しかし知能に比べて体力の低いこと)


体力の低さに同情しつつも、俺はあるカンを働かせていた。

愛想は良さそうだな、表情の豊かさも伺える。しかも双子。

ハーフリングだから、おそらく手先も器用だろう。

詐欺を働くにはもってこいの人材だ。

なんとか手懐けたい。

そう思った俺は、バレない程度に観察することにした。


まずは二人の見分け方。

兄の方は、右の耳たぶにほくろがある。弟は左の耳たぶに同様のほくろがる。

これは見分けやすい。

そして、食が細い!

ただでさえ少ない食事なのに全部食べ切れなさそうな雰囲気だ。

アニーが周囲に気を配りながら、リンゴをポケットに入れた。オットーも倣うように同じ行動を取った。

俺が周囲を観察すると、同じような行動を取っているガキが何人かいた。後でこっそり捨てるんだろう。

確かに酸っぱすぎる。まあ、分からないでもないが。


(飯があるだけでも有難いんだがな…)


俺は前世の幼かった頃の自分を思い出した。

親父は蒸発、兄貴はグレて家には寄り付かず、母親は見知らぬ男を取っ替え引っ替えアパートに連れ込む。

典型的なパターンで、俺が悪の道に手を染めるのはあっという間だった。

あの頃の俺は、食べる物もろくになく常に飢えていた。


(コイツらは双子だから、まだマシだよ。悔しさや、つらさ、悲しみを共有できる)


いつの間にか自分の育った環境と重ねて二人を見ていたが、双子という固い絆を恨めしく思ったのか、コイツらはそれでも恵まれているとさえ思った。

いや、自分にそう言い聞かせた、つもりだった。


<「ユニークスキル正義感」を発動します>


突然の声に驚いた俺は、立ち上がって周囲を見渡した。

誰も反応していない。急に立ち上がった俺を不思議そうに見るガキが数人いただけだ。

俺は怪しまれないように急いで座って、深呼吸をしようとした。

すると、胸のあたりが急に暖かくなって光りにつつまれるような感じがした。

そして、心にまたあの声が響いた。


<ユニークスキル正義感」の助言です>

「リンゴは加熱すると、栄養価がアップしたり、消化が良くなったり、甘みが増したりするよ。

ペクチンの活性化、食物繊維が凝縮され、整腸作用が強くなるだけでなく。オリゴ糖やキシリトールが増えることで虫歯予防にもなるんだ。

外に焚火があるから、木の棒に刺して焼きりんごにしてごらん。」


なんだよこれ、チャットGTPかよ。

しかもフランクな口調だな。ラノベだとこういうのって敬語なんだけどな。


俺は急に聞こえた声に戸惑いながらも、前世の知識を思い出した。

過熱すると甘くなる、確かにそんな話を聞いたことがある。

俺はアニーに分かるよう、一口かじったリンゴをわざとらしくポケットに突っ込むと、目配せして強引に外に連れ出した。


外にあった木の棒にリンゴを刺して、焚火に放り込んだ。

双子のハーフリングは、興味津々に俺の行動を見ている。

不審がるというよりは、興味が勝っている感じだ。


少しすると周囲に甘い香りが漂ってきた。


「頃合いだな」

俺は、木の棒を手に取り、焚火にくべたリンゴを取り出して、「鑑定」と呟いた。

「正義感」の言っていた通り、甘みが増していること、消化に良いことなが表示されていた。


「熱いから気をつけて食べろ」


リンゴを双子の兄に手渡したが、警戒して食べる気配がない。仕方なく俺がひと口食べて見せた。

いわば毒見だ。めんどくさい。


「甘い!」


思わず俺は叫んだ。

双子の方からゴクリとつばを飲み込む音が聞こえた。

その様子を見逃さなかった俺は、焼きリンゴを兄に差し出した。


「甘い、美味しい。」

双子のアニーは、ひと口食べると、オットーに焼きリンゴを渡した。


自分だけで食べず弟に分けようとする姿に、思わず俺は笑みがこぼれた。

胸がさらに暖かく感じた。


「ほら、お前らのリンゴも出せよ、焼いてやるから」


アニーとオットーのリンゴを焼こうとしたその瞬間、またあの声がした。


<ユニークスキル『正義感』がレベルアップします。>


心の中が光り、さらに輝くイメージがした。

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