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「異世界転生 悪党よ大義を抱け」  作者: 風井屋長右衛門
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【第4話】

頭領との攻防戦(口防戦?)を終えたお俺は冷汗をたっぷりとかいたようで、体が冷え身震いをしていた。


ドアが開き、顎髭のおっさんが入ってくる。

おっさんは顎髭をさすりながら、

「俺の名前はダンだ。顎髭のおっさんじゃないからな、覚えとけよ。」


顎髭のおっさんは、案外、人懐っこい笑顔で自分の名前を言った。


(頭領の奴、俺が顎髭のおっさんと呼んだことを早速チクリやがったな。)


「ダンと呼んだら良いのか?」


「ダンさんだろ、普通(笑)」


俺は苦笑いを浮かべながら、汗をかいたから着替えたいと申し出てみた。

ダンは、引き出しから替えの肌着を放り投げると、その後、革製にポーチを俺のベッドの横に

大事そうに置いた。


「こいつはマジックポーチ。聞いたことぐらいあるだろう?」


異世界転生で良くある収納が無限で物を中に入れると、入れた状態を保持したままで、いつでも取り出せる便利アイテムのはずだ。俺は怪しまれない程度に答えた。


「聞いたことはある。収納無限の便利なポーチだろ?」


「ばかやろう、こいつは収納に限界があるマジックポーチだ。収納が無限なのはマジックバッグだ。そんなすげーアイテムをお前みたいな新人に頭領が渡すわけないだろう」


ダンは、少し呆れたように説明してくれた。


「これを頭領が俺に?」


「ああ、珍しいこともあるもんだ。既にお前の名前で登録もされている。

登録者以外が使ってもただのポーチだ。とは言え盗まれないようしっかり身に着けろ。」


「へー、そいつは有難いことで」

俺は少しおどけて見せながら、探りを入れた。


「犯罪者ギルドの頭領という割りには、あの人、親切というか、お節介というか、色んなことを教えてくれたし。よく喋るよな?」


「頭領が良く喋る? お前、よっぽど頭領に目を掛けられているか、怒らせているかどっちかだぞ、それ!」


ダンは驚きの表情を浮かべながらそう答えた。


(ふーん、頭領は普段、無口ということか。それと怒ったときは饒舌になる。

もしくは余程俺に興味があるということか)


「そうなんだ、怒らせないように気を付けるよ。ありがとう。」


俺が素直にお礼を言うと、ダンは、


「ふーん、ちゃんとお礼が言えるじゃないか? 頭領が言うほど、ひねくれてもなさそうだな?

まあ良い。早く着替えて寝ろ。明日から俺たちが鍛えてやるから、覚悟しろ」


そう言うとダンは、椅子を二つ並べてすぐに横になった。


俺はもそもそと着替えた後、ベッドに入った。

気が付けば窓の外は暗がりに変わっていた。うっすら月が出ている。二つだ。

少し重なり合うように並んだ二つの月を見ても、俺は案外冷静だった。


(やっぱり異世界か。)


頭領との化かしあい、異世界を認識した興奮でとても寝付けそうにない。

(少し整理してみるか。)


俺は前世でやっていたように静かに頭を働かせた。


まずは違和感。

頭領の「二つ名」が『赤い彗星』ということ。しかもあの赤のスーツに半仮面。

アイツ自身が異世界転生者で、俺のことも異世界転生者と疑うなら「白い奴とか、木馬」、みたいな言葉を混ぜて様子を見ても良いはずだ。

多分アイツ自身は異世界転生者ではない。ただこの世界に俺以外の転生者がいることは確かだ。

じゃないと、あの格好とあんな「二つ名」を名乗れる訳がないだろう。

誰かがバックいる? あの格好と「二つ名」の出どころが知りたい。


あと、確かアイツは「血は争えんな」と言ったはずだ。

俺は聞き洩らさなかった。ガキをさらってきて悪党に育てると言うくらいなんだから、

恐らく俺の出自、生家も知っているはずだ。いつか突き止めてやる。そこに異世界転生者・転移者のヒントがあるかかもしれない。


収穫もあった。一番の発見は、

ユニークスキル『鑑定』と『隠ぺい』は、言わば相関関係にあるということだ。

今日のやり取りを見る限り、『隠ぺい』はかなり使える。

見破るには『鑑定』が必須なのだろう。

しかし、これはあくまで仮説だ。

見破る、見破れないは、それぞれのレベル差に関係があるかと思ったが、

必ずしもそうではなさそうだ


頭領には、俺のユニークスキル『正義感』、ステータス『異世界転生者・転移者』、

そしてもうひとつ、ステータスの一番下に見えた????の羅列は見えていなかった。


理由はさっぱり分からないが、この三つは、俺がこの世界で生き抜くための

武器にもなるはずだが、足を引っ張る可能性も大いにあるということだ。


いずれにしろ、方針は決まった。

頭領の言葉にヒントがあった。

力をつけること。レベルが上がればさまざまなことが可能になると言っていたはずだ。

レベルを上げて、これらの秘密を隠し続け、人をだまし続けるしかない。

そうでないとこの異世界で生き抜くことは難しいだろう。

誰も信じずに、だ。


「結局、異世界でも詐欺師みたいなもんか、因果なもんだな。

人を騙し、色んなことを隠して、嘘をつき続ける」


(俺は前世で世界を呪っていた。親や兄弟、社会や環境、全てを呪っていた。

俺が悪い訳じゃない。もし神がいるならそいつに文句を言いやがれ。)


俺は一人で毒づきながら、窓を見た。月が重なりつつある。

二つの月は、時間が経てば一つに重なるのだろう。

これがこの世界の真理か。


「嘘もつき続ければひとつの真実になる。」


俺は、前世で師匠だった人の言葉を思い出して軽くため息をついた。

少し大きく息を吸い深呼吸しようとしたが、ダンのいびきがうるさく、眠れやしない。


眠りにつく前に、大きないびきをかくダンに対して少しイタズラ心に火が着いた。


(寝ているんだから、「鑑定」してもバレやしないだろ。ちょっと見てやるか)


「鑑定」


俺はダンの方を見ながら小さく慎重につぶやくと、ダンのステータスが表示された。


所属:グレーシーズンズ(犯罪者ギルド)

立場:副頭領(見習い)

名前:ダン

年齢:25歳

種族:ドワーフ(レベル67)

知力62・体力89・運70

スキル「火魔法」 「土魔法」

ユニークスキル「?????」

ユニークスキル「?????」

職業:鍛冶師(レベル67)


「何だよこれ! ヤバすぎる。」

俺は思わずこぼれた声を抑えるように自分で口をふさいだ。


(グレーシーズンズの副頭領見習いかよ、コイツ。体力89って、無茶苦茶強いってことか?

しかも25歳って同い年かよ、老けてんなぁ。)


荒事が苦手で詐欺師になった俺は、コイツにだけは逆らわないでおこうと決めた。

背中にまた冷や汗をかいた俺は、もう何も考えず寝ることにした。


「明日からやっぱり、さん付けで呼んだ方が良いかも」

そう呟いて俺は眠りに落ちた。

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