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「異世界転生 悪党よ大義を抱け」  作者: 風井屋長右衛門
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【第1話】

頬をなでる風が冷たい。朝日が昇る頃、この集落に似つかわしくない優しい風が吹く。


集落のある谷底から崖沿いに上ったこの高台は俺が一番気に入っている場所だ。


「おはよう、シン。しっかり見張れよ」


「ああ、相変わらず早起きだな」

監視当番のシンは寝ぼけ眼をこすりながらこっちを見た。


俺は高台の平らな岩にそっと腰を掛けた。

(あれから4年経ったぞ、セイ)

俺はこの4年間の生活を振り返りながら、そう呟いた。


俺の名前は神山清人カミヤマセイト。25歳。しがない元詐欺師。自分でいうのも何だが、ゲスの極みのような人間だった。

そして25歳の時、ゲスにふさわしい最期を迎え、生命を落とした。

死んだはずだった。

しかし、なぜか俺は目を覚ました。そう、こどもの身体で。セイとして転生していた。


後で知ったのだが、セイは、9歳の誕生日を迎える3日前から高熱を出して生死の境を彷徨っていたそうだ。


俺の所属しているグレーシーズンズは犯罪者ギルドで悪党の集団。(連中は義賊を謳っているが。)

国中のさまざまなガキをさらって来て悪党として育てる。

多くのガキ共は物心つく前に連れてこられるから、生家の記憶などなく、逃げようもない。

ガキ共はここで悪党として生きるしか残された道はないのだ。ガキ共が将来に夢や希望をいだくことはない。

腹いっぱい食べること、ただ、ただひたすら生き抜くことだけが全てだ。

だからか総じてここのガキ共は図太く精神的にタフだ。


誰がどこからさらわれてきたかとか、そんな話はもちろんご法度だ。

さらわれてきたガキ共は、頭領が新たな名前を決める。

そんななか、どうやら俺だけは異例のパターンのようだった。


まず、さわられてきた年齢が9歳と高めであること。

9歳にもなると生家の記憶や自分の名前を憶えており、逃亡されると組織の存続にかかわるからだ。

加えて、さらわれてきたセイ、俺は高熱で生死を彷徨っていたということ。

ここでは医療行為のような金のかかることは幹部クラスにしか施されないらしい。

そんな中、手篤い看病がなされていた。


俺がグレーシーズンズに来た状況そのものが異例中の異例だったようだが、

さらに異例だったのは、目を覚ました後に頭領とサシの面談が行われたことだった。


目を覚ましたのは小さな部屋の粗末なベットの上だった。


「うーん、うう。」


神山清人として死んだはずの俺は、自分が生きていることにまず驚いた。

そして横にいる二人のおっさんのいで立ちにまた驚いた。

(ヨーロッパ中世の感じか? どこだここは?)


「おい、目を覚ましたようだぞ」

顎髭の男が大きな声で叫んだ。


「うむ。では頭領をお呼びしよう」

腰にソードを下げた白髪の老人がそう言って立ち上ろうとした瞬間、俺は本能的にマズいと思い、


「うああ」


大げさに叫んで頭を押さえて気絶したふりをした。

(「頭領?」コイツらカタギじゃないのか? 状況を整理する時間がほしい)


「薬の影響じゃろうて。もう少し様子を見るしかないな。儂は頭領に報告してくる。お主はそばでしっかり見張っておれよ」

白髪の老人はそう言って、席をゆっくり立ちあがり、顎髭のおっさんに声をかけて部屋を出ていった。


顎髭のおっさんはというと不満そうでもなく、少し俺の顔を覗き込んだ後、腕組みをして早々に居眠りを始めた。


(やばかった、とにかく何かやばい状況だということはわかる。ひとまずは回避したが、恐らくそんなに時間はないぞ。)


俺は顎髭のおっさんに気づかれないよう、自分の身体をさすってみた。

身体の妙なサイズ感を感じていたからだ。小さい。明らかにサイズが小さい。

枕元にあった洗い桶に映った自分の顔を見た。髪の毛が青い!? 明らかにガキの顔だ。目も青い。

そして身に着けている服、窓の景色、周囲の建物を見てすぐに気が付いた。

巷で流行っているラノベの異世界転生だ。いや異世界転移?どっちだこの場合は?


(転生か転移か、そんなことより。ありえない、死んだはずじゃ。)


少し考えた後、ラノベ好きだった俺はお決まりのセリフを小さく呟いていみることにした。


「ステータスオープン!」


言うや否や、目の前にステータスが表示された。


所属:グレーシーズンズ(犯罪者ギルド)

立場:見習い

名前:セイ

年齢:9歳

種族:ヒューマン(レベル7)

知力9・体力9・運15

ユニークスキル「正義感」(レベル1)

ユニークスキル「隠ぺい」(レベル1)

ユニークスキル「鑑定」(レベル1)

職業:?????

特殊ステータス:異世界転生者・転移者

特殊ステータス:??????


(やっぱり異世界なんだ)


驚きよりも冷静さが勝った。なぜならそう時間がかからないうちに頭領が来るはずだからだ。

今すぐ、出来ることをやれ!

自分にそう言い聞かせながら、俺は自分の能力値に目をやった。

当然だ。異世界転生はチート能力が、モノを言う。


「低い!」思わず声が漏れた。


体力、知力一桁後半。ほかの人間のステータスを見た訳ではないが、一桁後半は、おそらく低いはず。

運はまだマシな方か?


(年齢は、9歳! ガキじゃないか・・・。)


あまりに凡庸なステータスと、9歳という年齢に愕然とした。


スキル欄はせめてもの救いか、ユニークスキルが3つ表示されていた。

一つめはユニークスキル「正義感」。何だこれは?

もっとこう、大賢者とか、勇者とか、そういう具体的なモノじゃないのかよ。何なんだ、正義感って。


二つめは、ユニークスキル「隠ぺい」。どう使うかよくわからんが、元詐欺師の俺にはぴったりのスキルだ。


三つめは、ユニークスキル「鑑定」。


それぞれレベル1。能力値自体は低いが、ユニークスキル3つはチートの部類じゃないだろうか。


それ以外のステータスに目をやると、俺はつい大声を上げてしまった。

「犯罪者ギルド所属!? 何の冗談だよ!」


思わず大声を上げた。ここは犯罪者ギルド?

顎髭のおっさんが眠い目をこすって目を開けようとしている。


(犯罪者ギルドでユニークスキル「正義感」はまずいだろ!!)

この世界で生きていくためのチートどころか、この大きな矛盾がハンデになることを容易に想像した俺は、良くわかりもしなかったが、

「ユニークススキル「隠ぺい」使用。ユニークスキル「正義感」を非表示。」と小さくつぶやいた。


ステータスからは、ユニークスキル「正義感」が非表示になった。

ほっとした瞬間、


「おお、目を覚ましたようだな。頭領をお呼びしないとな。」


顎髭のおっさんには、俺のステータスは見えていないのか?

よくわからんが隠すに越したことはない。俺は小声で「ステータスクローズ」とつぶやいた。


ステータスがクローズされるその時、「異世界転生者・転移者」という文字と、

その下にもうひとつ、????と表示された文字の羅列に気が付いたが、時にすでに遅しだった。


ドアが開き、先ほどの白髪の老人と頭領が部屋に入ってきたのだ。


(ステータスの下に表記されていた文字は、「異世界転生者・転移者」、そしてもうひとつの?????は何だ? やっぱり異世界に転生している。どうする?)


混乱状態の俺の前に姿を見せた頭領を見て俺は思わず大声を上げてしまった。


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