表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウィリアム英雄譚  作者: すしタマゴ
第1章 すべての始まり
6/23

6

「なあヴァルター、俺たちはどこで間違えたんだろうな」


ぽつりと、口から心がこぼれる。

途中までは、全てがうまくいっていた。

けれど、いつからか歯車が狂い出した。


組織が大きくなるにつれ、俺たちの役割は変わっていった。

最前線でモンスターと戦う機会はめっきり減り、増えたのはクラン幹部としての業務だった。


貴族や商会長、軍関係者への顔売り。

有力者のパーティーに顔を出し、慣れない舞踏会に参加。

クランメンバーの管理業務に忙殺され、次第にお互い疎遠になっていった。

胸に抱いていた熱はいつの間にか冷め、単調な業務で心は固くなっていった。


お互い、立場と責任が重くのしかかるようになったからだろうか。

以前のような無謀な挑戦や、バカなことができなくなっていった。


でも、大人になるって、そういうことなんだろう?

これは成長なんだよな?


クランメンバーにも生活があり、守るべき家族がいる。

顧客は様々な依頼をしてきて、その期待に応えなくてはならない。

伯爵のメンツを潰すわけにはいかない。

失敗が怖くなった。

失敗をするたび、今まで積み上げてきたものが、全て崩れてしまうような感覚に襲われた。

もちろん、失敗は誰にでもある。

失敗はお互い様で、他のメンバーでカバーすればいい。

でも、いろんな責任や期待が、ずっしりと重くのしかかっているのが分かった。


部下の成功は自分の手柄。

自分の失敗は、部下の責任。

いっそ、鬼になれたら、もっと気が楽だったかもしれない。


鏡を見るたび、目の下の隈が深くなっていくのが分かる。


知るべきではなかったのかもしれない。

ここに来るべきではなかったのだろうか?


分かっている。

疲弊する俺を守るために、お前はわざとクランから俺を外したんだよな。


だって、お前はあの時、俺のことを「ウィリアム」と呼んだ。

いつもの「ウィル」ではなかった。

親しい友は、俺のことを「ウィル」と呼ぶ。

それは、俺たちだけの合図だ。


嘘や、裏側に何かがあるとき、お前はいつも「ウィリアム」と呼ぶ。

お前は一体何を見た?

何を知ったんだ?

本当に助けを必要としているのは、お前の方なんじゃないか?

だから俺を遠ざけたんだろう。

でも、それでお前は助かるのか?

なあ、ヴァルター。


「俺たちだけ強くても、どうやらダメらしいな...。」

これほど、力を欲しいと思ったことはなかった。

現実の前で、自分が無力だと気づいたとき、人は何をするべきなのだろうか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ