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「なあヴァルター、俺たちはどこで間違えたんだろうな」
ぽつりと、口から心がこぼれる。
途中までは、全てがうまくいっていた。
けれど、いつからか歯車が狂い出した。
組織が大きくなるにつれ、俺たちの役割は変わっていった。
最前線でモンスターと戦う機会はめっきり減り、増えたのはクラン幹部としての業務だった。
貴族や商会長、軍関係者への顔売り。
有力者のパーティーに顔を出し、慣れない舞踏会に参加。
クランメンバーの管理業務に忙殺され、次第にお互い疎遠になっていった。
胸に抱いていた熱はいつの間にか冷め、単調な業務で心は固くなっていった。
お互い、立場と責任が重くのしかかるようになったからだろうか。
以前のような無謀な挑戦や、バカなことができなくなっていった。
でも、大人になるって、そういうことなんだろう?
これは成長なんだよな?
クランメンバーにも生活があり、守るべき家族がいる。
顧客は様々な依頼をしてきて、その期待に応えなくてはならない。
伯爵のメンツを潰すわけにはいかない。
失敗が怖くなった。
失敗をするたび、今まで積み上げてきたものが、全て崩れてしまうような感覚に襲われた。
もちろん、失敗は誰にでもある。
失敗はお互い様で、他のメンバーでカバーすればいい。
でも、いろんな責任や期待が、ずっしりと重くのしかかっているのが分かった。
部下の成功は自分の手柄。
自分の失敗は、部下の責任。
いっそ、鬼になれたら、もっと気が楽だったかもしれない。
鏡を見るたび、目の下の隈が深くなっていくのが分かる。
知るべきではなかったのかもしれない。
ここに来るべきではなかったのだろうか?
分かっている。
疲弊する俺を守るために、お前はわざとクランから俺を外したんだよな。
だって、お前はあの時、俺のことを「ウィリアム」と呼んだ。
いつもの「ウィル」ではなかった。
親しい友は、俺のことを「ウィル」と呼ぶ。
それは、俺たちだけの合図だ。
嘘や、裏側に何かがあるとき、お前はいつも「ウィリアム」と呼ぶ。
お前は一体何を見た?
何を知ったんだ?
本当に助けを必要としているのは、お前の方なんじゃないか?
だから俺を遠ざけたんだろう。
でも、それでお前は助かるのか?
なあ、ヴァルター。
「俺たちだけ強くても、どうやらダメらしいな...。」
これほど、力を欲しいと思ったことはなかった。
現実の前で、自分が無力だと気づいたとき、人は何をするべきなのだろうか?