5
ヴィクトリア伯爵からクラン設立を直接打診されるのは異例だった。
しかし、このチャンスを逃す理由はなかった。
確かにクラン設立の審査は厳しいが、伯爵の支援がある以上、よほどの問題を起こさない限り条件をクリアできるのは間違いなかった。
伯爵が後ろ盾となってくれることで、活動は格段にしやすくなるだろう。
さらに伯爵自身が手続きを支援し、必要な物資や人員の調達まで行ってくれるというのだ。
5人は話し合い、全員の意見が一致。
こうしてクラン『黎明の剣』が誕生した。
クラン設立当初は、毎日が慌ただしかった。
5人だけでは戦闘要員が不足していたため、新たなメンバーを募集し、面接や身元調査に奔走した。
活動拠点となる建物の購入や、必要な物資、備品の調達も並行して進めなければならなかった。
さらに、依頼を受けるために宣伝活動を行い、顧客や業者との打ち合わせを重ねた。
モンスターとの戦闘とは異なる苦労があったが、毎日が活気に満ち、クランは着実に成長していった。
その成長には大きな達成感が伴い、5人は夜遅くまで議論を交わし、時には息抜きとして食事や旅行にも出かけた。
伯爵の全面的な支援もあり、黎明の剣は順調に拡大していった。
伯爵が吟遊詩人を多数雇って彼らの冒険譚を広めたことで、クランの知名度は急速に上昇し、人材の採用が容易になった。
さらに、身元調査や監査、会計といった事務作業も伯爵が手配した人員に任せることができたため、クラン運営は滞りなく進んだ。
装備や活動拠点の調達も、伯爵のシンジケートを通じて割安で手に入り、すべてがスムーズに整った。
また、伯爵が有力者に黎明の剣を宣伝してくれたおかげで、設立当初から依頼が次々と舞い込み、順風満帆なスタートを切った。
伯爵からの恩恵は計り知れなかったが、彼女は「これらはすべて先行投資」とし、「将来、借りを返してくれればそれでいい」と微笑んだ。
なぜ伯爵がこれほどまでに尽力してくれるのか、5人には全く見当がつかなかった。
しかし、忙しくも充実した日々の中で、その疑問は次第に薄れていった。
だが、この世界で全てが無償で与えられるわけではないことを、彼らはまだ知らなかった。