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ウィリアム英雄譚  作者: すしタマゴ
第1章 すべての始まり
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「ウィリアム、お前にはクランを脱退してもらう。これはリーダーとしての判断だ。」


長年の友であるヴァルターから告げられ、ウィリアムは所属していたクランから追い出された。



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「はぁ、まいったなー...」


一人の男が途方に暮れている。

彼の名前はウィリアム。

親しい友人は彼の事を「ウィル」と呼ぶが、今はただの無職である。

彼はたった今、自分の古巣を追い出されたばかりだ。

路銀に困っているわけではない。

自分がクランから追い出された事に、ひどくショックを受けている。

しかしそれと同時に、今まで仲間と共に過ごした思い出が走馬灯のように流れる。


彼はウィリアム。

A級冒険者であり、今最も勢いのあるクラン「黎明の(つるぎ)」のメンバーだ。

いや、元メンバーだ。

なぜこうなってしまったのか分からない、いや考えたくもなかった。

自分達は、どこかで道を踏み外してしまったのだろうか。

選択を誤ったのだろうか。

彼は今までの思い出にひたると同時に、自分達が歩んだ軌跡を振り返っていた。


彼はレグナス大陸の南方に位置する、オルドリア王国で活動する冒険者だ。

しかし幼少期の記憶は無く、両親もいない。

彼は戦災孤児だった。

レグナス大陸は今、戦禍に見舞われている。

そこで起きているのは、人間とモンスターとの生存競争である。


レグナス大陸では魔物や魔獣が跋扈し、至るところで人間を食い潰している。

人間とモンスターとの間では、絶えず戦いが繰り返されている。

頻繁にモンスターの大量発生、すなわちスタンピードが発生し、多くの村や都市が飲み込まれた。

多数の死傷者と共に、身寄りの無い孤児を生んだ。


彼も、そのうちの一人だと思われる。

というのも、彼は幼少期の記憶が無い。

恐らくモンスターに襲われた際に何らかのショックを受け、過剰なストレスに対する防衛反応のためか、記憶が存在しないのだ。

しかしそれは、何ら珍しい話ではなかった。

特にこの大陸では、ありふれた日常の一つである。


しかし彼には幸運があった。

1つ目の幸運は、彼に戦う才能があったこと。

2つ目の幸運は、彼が良い仲間に巡り合ったこと。


オルドリア王国では国策として、彼のような戦災孤児を保護する孤児院を運営している。

もちろんタダで助けるわけではない。

孤児に対して教育プログラムを施し、才能のある者を早い段階で見極め、有効活用するのが狙いだ。

この大陸では、人間こそが貴重な資源なのである。

モンスターとの頻繁な戦闘により、軍などの治安維持要員の損耗は激しい。

優秀な人間には多くの機会が与えられ、実力次第では出世や栄光が掴める。


彼は教育プログラムによって最低限の知識と戦闘技術を身につけ、冒険者として活動を始めた。


冒険者とは、レグナス冒険者互助組合、通称『ギルド』に登録した組合員の事を指す。

ギルドは各国に支部が存在し、各支部はネットワークで繋がり情報共有を行なっている。


ギルドはの業務内容は多岐に渡るが、主には依頼主と冒険者との仲介を行う。

具体的には、依頼主が魔物や魔獣などの討伐依頼をギルドに申請する。

そしてギルドは討伐依頼を冒険者に対して斡旋し、依頼を達成した冒険者にはギルドを介して依頼主から報酬が受け渡される。

ギルドは仲介料として、報酬の一部を受け取る。


他には受付業務や新人冒険者への研修を実施したり、依頼主の支払い能力の有無を調査、討伐対象の脅威度の調査および判定、素材の買取、冒険者の財産を預かる預金業務などなど...冒険者の活動を支援するための業務全般を担っている。


ギルドの主な存在意義は、雇用確保と治安維持である。


職の無い人々を放っておけば、彼らは生きるために仕方なく盗賊や犯罪に手を染めるようになる。

失業者が増加すれば、治安や経済の悪化は避けられない。

国家にとって、雇用の維持は悩ましい問題であった。


そこへギルドは身寄りの無い人々への雇用の受け皿として機能する。

特筆する技能が無くても、基本的に誰でも冒険者として登録して活動することが可能である。

討伐依頼を通じて魔物や魔獣を間引く事によって、治安も保たれる。

それに貧困層の人々を冒険者として利用することで、()()の間引きも行うことができる。


表向きには夢と希望を与え、裏では人間の口減らしも兼ねている。

こうしてギルドは様々な思惑のもと大陸に普及し、各国に支部が設置される事になった。


ウィリアムは付与術師として冒険者の活動をスタートした。

しかし付与術師は非常に地味な職業で、マイナーどころか蔑まれている職業だった。


付与術師の主な役割は、味方の強化と敵の弱体化だ。


例えば敵に対してデバフをかける場合は、敵の身体能力を低下させたり、あるいは装備を脆くして攻撃力・防御力を低下させることができる。

あるいは味方に対してバフをかける場合は、味方の身体能力を向上させたり、装備を強化することで攻撃力・防御力を強化することができる。


肉体や装備など、物理的に存在する実体に対してバフ・デバフをかけるため、魔力の消費量が非常に少ないのが強みとされている。

例えば魔術師の場合は体内にある魔素を利用して、炎や水などの現象を無から物理的に生じさせる必要があるため、魔力の消費量が多くなる。


しかし、付与魔術師には以下のデメリットが存在する。


まず、バフ・デバフのかけ方が非常に難しい。

例えば肉体に対してバフ、あるいはデバフをかける場合は、筋肉・腱・骨などに対して適切な強化を施す必要がある。

もし筋肉のみに強化をかけると、強化された筋力に対して腱や骨の耐久力が足りず、最悪の場合は自らの体を破壊する事になる。

バフのかけ方に失敗し、腱を切断したり骨が砕ける冒険者が後を絶たない。


そして身体能力を強化するという事は、平常時と体の可動域などが異なり、自身が培った感覚とのズレを生みやすい。

半歩踏み込んだつもりが思いのほか勢いが余り、モンスターに接近しすぎて死亡してしまった、というギャグみたいな死亡事例が頻繁に発生する。

つまり身体能力の強化に合わせて、触覚や視覚など五感も漏れなく強化する必要がある。


さらに装備品を強化する際には、その装備の構造や材質などの特性を把握した上で強化する必要がある。

ヘタに強化すると効果が無いどころか、かえって装備品の歪みや劣化を招く。

つまり付与術師には一流の観察眼が求められる。


そして最大のデメリットが、とにかく地味という事である。

付与術師は自身が直接戦うのではなく、味方を強化する、あるいは敵を弱体化させて支援する戦いになる。

つまり戦闘における成果が分かりにくいのだ。


実際に敵モンスターを倒すのは、付与術師のようなサポート職ではなく戦士や魔術師などの戦闘職である。

成果に対して、付与術師がどれほど貢献したのか非常に分かりにくい。

付与魔術のおかげで勝利したのかもしれないし、そうではないかもしれない。

そのため、付与術師がパーティーの分け前を減らされるのはよくある話だ。

そもそも、最初から付与術師の加入をお断りしているパーティーも多い。


ウィリアムも例に漏れず、最初のパーティーメンバーを集める際に苦労した。

ただでさえ死亡率が高い冒険者稼業。

効果があるか無いか分からない付与術師、それも実戦経験の無い新人を入れたがるパーティーなど皆無だった。


付与術師は後衛職のため、前衛職がいなければ真っ先に死んでしまう。

パーティーを組めないという事は死活問題だった。


そんな時に声をかけてくれたのが、ヴァルターだった。

彼は精悍な顔立ちの青年で、剣士として活動していた。

前に所属していたパーティーで方向性が合わず、対立の末に自ら脱退を申し出たそうだ。


これが2人の出会いだった。

お互いに不思議と馬が合い、ウィリアムとヴァルターはたった2人で初期パーティーを結成した。


通常、パーティは3人〜7人程度で結成するものである。

パーティーを組むメリットは、生存率の向上だ。

頭数が多いだけで、モンスターとの戦闘が格段に楽になる。

前衛と後衛で役割分担を行う事でお互いの弱みをカバーし、巧みな連携によってモンスターを仕留める。


人数が増える分、報酬の分け前や方向性の違い、連携の難しさなどの課題は生まれるものの、ほとんどの冒険者はパーティーの一員として活動する。

特に高い練度のA級冒険者パーティーは、圧倒的な戦力を誇る。

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