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57 王たちの語らい

「みんな元気?」


 カリマは、輝く青空のもと、かつての仲間に笑顔を向けた。王となった勇者たちは、当初の話し合い通り、魔王を倒してから五年後、魔王城の前の広場で再会した。

 ガウラの王となったホアキンが、カリマに会うなりいきなり肩を落とした。


「あああ、カリマちゃんがお母さんなんて、あたし落ち込む」


 ラテーヌの女王は、四歳となった王女コンスタンスを、長旅に連れてきた。


「……ホアキンこの前、お妃様迎えたよね? うちの大臣にお祝い持たせたけど、お妃様が背の高い美人で、さすがガウラの王様だと感心してたよ」


「い、いや……カリマちゃんに振られちゃったからさ。さあ王女様、このホアキンの元へお越しくださいませ」


 ホアキンはコンスタンスを抱き上げた。しかし小さな王女が「こわい!」と露骨に拒否したため、王は泣く泣く小さな王女をカリマに返す。


「大抵の女の子はあたしが抱きしめると喜んでくれるのに、ますます傷つくわ」


「あはは、ホアキン。この子、城から出るのも初めてで、慣れてないだけだよ」


 カリマは王女の背中をポンポンと叩く。

 エリオンが出ていってしばらく、コンスタンスはカリマも含めて誰にもなつかず泣いてばかりだった。

「かあさま~」と笑顔を向けてくれるまで、一年もかかった。


「おい、この集まりは、旧交を温めるものではない。ゴンドレシア大陸の平和のために、我らは集った」


 セオドアが、カリマとホアキンを睨みつける。


「セオドアよ。相変わらず、お前さんらしいのう」


 フランツ老が、剣士の背中を軽く叩く。


「それより、魔王城がこれじゃあ、近づくことは叶わんのう」


 老王が顎で示した先に、かつての戦いの場があった。

 空は眩いばかりに晴れているのに、魔王城の周りには白い霧が立ち込めている。

 カリマは、コンスタンスに霧の塊を見せた。


(エリオン様、あなたの娘は大きくなったよ)


 カリマは娘に微笑みかける。


(コンスタンス、あんたの二人の親は、あそこにいるよ。お母さんは、あんたが赤ちゃんの時、育ててくれた。お父さんは悪い奴だった。でも、お母さんを一生懸命守ってたよ……)


「我らの師匠は、生涯を魔王の封印に捧げるつもりか……最後に史師に感謝を伝えたかった」


 ニコスの無念が王たちに伝わったのか、一同は俯いて目を閉ざす。


(あたしはエリオン様と三年間も一緒に過ごせた。でもみんなはあんな別れ方で終わっている……辛いよね)


「ねえジュゼッペ。竜からエリオン様にお礼の言葉を伝えることはできない?」


「エリオン様に竜は見えないから、無理だよ」


 二十一歳となった青年は、この五年間で背丈だけではなく胸板が厚くなり、早くも王者の風格が備わっている。

 気落ちするカリマの肩を、若き王が軽く叩いた。


「でも竜は、エリオン様を案ずる必要はない、と言ってるよ」


 一同は、安堵の声をもらす。

 セルゲイが空に向かって「エリオン様あ、ありがとう。おいらたち元気だあ」と呼びかけた。


(どんな形であれ、エリオン様は今、好きな人と二人きり……女として幸せなのかもしれない)


 ガウラの王ホアキンが、カリマに抱きかかえられた王女コンスタンスの頭を撫でた。


「それに、あたしたちにはこの子がいるじゃない」


 小さな王女のブルネットの巻き毛に、青と緑のオッドアイ。誰も口には出さないが、カリマとエリオンの親密な関係からして、王女の父親は一目瞭然だ。


「えへへ、あたしはね、尊い方からこの子を授かったんだ」


 ニコスが目を細めた。


「きっと、偉大な女王になるだろう。しかし……」


 アルゴスの王となった槍使いは、悲し気に目を細める。


「史師とカリマ殿はやはり……いや、なんでもない……」


 ニコスはまだ独り身だ。彼の苦しさを軽くしてやりたくとも、いまさらエリオンが女だと打ち明けるわけにはいかない。

 セオドアが割り込んだ。


「本来なら王たるもの、史師の教えの通り、聖王と聖妃に誓ってから、王妃または王配を迎えるべきだろうが……まあ、カリマの場合はやむを得ない」


 女王は口を捻じ曲げた。


「やむを得ないってどういうこと? あたしの娘を馬鹿にするのか?」


「そうは申していない! ただ我らは民の規範として、己を律するべきであろう」


「あたしはエリオン様の教えを守ってますけど」


 男女は誓いを立てる前に触れあってはならない……史師の教えであるが、その史師が自身の教えを破った可能性について、誰も触れることはできない。

 ネールガンドの王は咳払いをした。


「……ともあれ次の王を産み育てることは、王の重要な責務だ。その点、カリマは責務を果たしていると言えよう」


 カリマは我が子を地面に降ろして立たせた。四歳ともなるとずっと抱えているのは、勇者といえども骨が折れる。

 王女コンスタンスは、とことこ歩き、よりによってセオドアの足にすり寄った。


「コンスタンス! そのおじさんは危ない奴だ! こっちに戻れ!」


 女王は慌てて我が子の元に駆け寄るが、遅かった。


「これはこれは王女様」と、セオドアはコンスタンスを抱き上げる。


「セオドア! コンスタンスはすごい人見知りなの! 泣くからすぐ降ろして!」


 が、当の王女は始めて出会った男の腕の中で、はしゃいでいる。


「おじさま、おじさまあ」


「王女様。いつか私の息子に会っていただけませんか? 遊んでやってください」


 ホアキンが「うそ! あたしのことはあんなに嫌がってたのに」と嘆く。

 フランツ老王が、はしゃぐコンスタンスの頬を突っついた。


「セオドア、お前さんのことじゃ。息子を厳しく育てとるんじゃろ?」


「さほど厳しくはない。ようやく剣技を教えはじめたところだ」


 カリマは目を剥いた。


「えっ! もう剣を? まだ三つで、コンスタンスより下だよね?」


「当然ではないか。我が子アイザックはいずれ私の跡を継ぐ。剣技も政も私を超えてもらわねば、民が不幸になるだけだ」


 コンスタンスは、セオドアからカリマの腕の中に移ってきた。

 史師エリオンの面影を残す愛らしい娘。城の誰もが王女を可愛がる。

 カリマは、自分が父母に躾けられたように、娘が悪いことをしたら叱っている。貴族としての教育は、ラテーヌ領主に仕えていた侍女頭のクロエに任せている。

 それだけでは駄目なのか?


「あたし、この子に弓を教えるなんて、考えたこともなかった……」


 項垂れるカリマにホアキンが笑いかけた。


「カリマちゃーん。コンスタンスちゃんは女の子よ。なによりも愛嬌が大切! 今のまま真っすぐ育てて、立派なお婿さんを迎えればいいのよ」


「う、うん……あたしはこの子に幸せになってほしいんだ」


 セオドアが声を張り上げた。


「お前はわかってない! 我らも我らの子も幸せを求める立場にはない! 民を幸せにするのが我らの務めではないか!」


 ホアキンが口を捻じ曲げる。


「なに言ってんのよ! 王が幸せにならなくて民が幸せになるわけないでしょ!」


 ゴンドレシアの王たちは、王の幸せについて議論を戦わせた。

 見かねたのか、ジュゼッペが仲裁に入る。


「いい加減にしてください!! 魔王城に入れないことが分かったのだから、今後のことは、僕の城で話し合いませんか?」


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