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49 ゴンドレシア七王国誕生

 七人の勇者は魔王城から脱出しようと、通路を進む。

 カリマが「やっぱり戻ろうよ」と声を上げると、フランツ老が反応した。


「そうじゃ! 魔王城のものすごい仕掛け、あれを調べんと」


 セオドアもカリマに同意した。


「それに、ネクロザールの死を明らかにして民を安心させるには、あやつの首が必要だ」


 一同は顔を見合わせ引き返す。

 しかし振り返るや否や、輝く魔王城の通路にたちまち白い霧が立ち込めた。

 カリマの視界から何もかも消え失せ、仲間の姿も見えなくなった。


「あたしはここにいるよ! 誰かいない!? これじゃ、山の中とおんなじだよ」


 カリマの呼びかけに、ホアキンが「カリマちゃーん、そのまま止まって!」と答えた。


「止まっても全然、霧が晴れないよ?」


「いいから。そこでゆっくり回って、どう?」


「あ……あれ? 元の廊下だ」


 先ほどまで立ち込めていた白い霧は、溶けてなくなった。


「でも、このままだと元に戻れないよ」


 もう一度カリマは振り返る。再び視界は霧に覆われた。


「この霧って……」


 女勇者は、七年前に訪れた聖王の古都を思い出す。あのときエリオンは、古都を封印するために白い霧を発生させた。


「ねえ、これもエリオン様の封印ってこと?」


 もう一度回ると霧が消えた。目の前に現れたホアキンが、相槌を打った。

 エリオンは魔王城そのものに封印を掛けたようだ。勇者たちは、ただ一方向に進むしかない。

 ニコスが「魔王の封印に生涯を捧げるとは、史師のなんと高潔なことか」と崇拝の念を強める。


「でもエリオン様、一人ぼっちで大丈夫かな?」


 女勇者は足を進めつつ、エリオンの状況を思い浮かべる。

 玉座の間には、ネクロザールの血まみれの首と胴体が転がったままだ。放置するわけにはいかない。第一、魔王ではなくても、死体と同じ場所に長くはいたくないものだ。


(やっぱり戻らないと……でも、もう戻れない……)


 戸惑いを残したまま、魔王城の城壁にたどり着く。巨大な正門を、セルゲイがゆっくり開けた。


「うわああああ!」「おかえりなさい!」「よくぞ魔王を倒してくれました!」


 やにわに大歓声に包まれた。

 門の前には何百人もの群衆が詰めかけ、魔王を討伐した七人の勇者を讃える。


「え? なんでみんな、魔王のこと知ってるの?」


 カリマの素朴な疑問に、群衆の中からローブをまとう老女が進み出て、笑顔で答えた。


「竜が知らせてくれました」


 女勇者はジュゼッペに「そういうもの?」と問いかけた。


「うん。竜は何でも知ってる。魔法使いにすぐ伝えてくれたんだね」


 勇者たちは群衆に導かれるまま、エレア領主代理の館に招かれ、歓迎の馳走にあずかった。



 何日も続く宴の合間、七人の勇者はゴンドレシアの行く末を話し合った。

 ネクロザールのような暴政はしてはならない。聖王アトレウスは偉大ではあったが、それは千年も前のこと。大陸の隅々に領地が広がった今の時代は、一つの法に縛るより、大陸を分割し各地に適した法で治めるべき――七人は意志を統一した。

 史師エリオンに選ばれ、民を苦しめた魔王ネクロザールを倒した自分たちこそ、王に相応しいとの結論に達する。

 話し合いの中、斧使いセルゲイの統治能力について、セオドアが懸念を示した。


「セルゲイ、お前の故郷ボーグの領地は、我がネールガンドのとなりにある。私が王の代理となって治めてもよい」


 が、この案は他の勇者、なによりセルゲイ本人が強力に反対した。

 セオドアは、ニコスとホアキンを睨みつけた。


「私が信頼されていないことは、あの戦いでよくわかっている」


 魔王の術で唆されたとはいえ、セルゲイとニコス、ホアキンの三人は、セオドアに武器を向け非難をぶつけたのだ。無表情で強い剣士でも、心に傷を負ったのだろう。

 ニコスとホアキンはばつが悪そうに「あのときはすまぬ」「ごめんね、本当に悪かった」とセオドアに頭を下げた。

 セルゲイは「ごめん……でも、おいらは……」と口ごもる。

 居心地の悪い場に、カリマが割り込んだ。


「ここで喧嘩したら、魔王の思う壺だよ。あいつ言ってたじゃん。あたしらがいずれ、王位をめぐって争うって」


 男たちはハッと顔を見合わせた。


「あたしだって、女王なんて全然自信ないよ。だからあたしは、ラテーヌのみんなに助けてもらう」


 カリマは、セルゲイの大きな背中を軽く叩いた。


「セルゲイが王に自信ないなら、誰かに王の代理を頼めばいいさ。でも、代理はセオドアじゃない。セルゲイが自分で、領地ボーグの人たちから選ぶんだよ」


 斧使いの大男は「カリマ、ありがと。おいら、がんばる」と笑顔を見せて、拳を握りしめた。


 前向きな大人たちと対称的に、少年ジュゼッペは自身の即位の正当性に疑問を呈す。


「父ちゃんと母ちゃんを殺した僕が、王になっていいの?」


 カリマが真っ先に反論した。


「当たり前じゃない! ジュゼッペは子供だった! 魔王軍に捕まって無理矢理やらされたんだよ!」


「……じゃあ僕、このエレアの人たちに、昔のこと正直に打ち明けるよ」


 セオドアは「それはならぬ! エレアの民をいたずらに不安にさせるだけだ」と反対するが、若き魔法使いの意志は変わらなかった。


 翌日ジュゼッペは、他の勇者たちが見守る中、エレアの代理領主らの前で、幼いときに故郷に火をかけて滅ぼしたことを告白し、宣言した。


「僕は、死ぬまで火の魔法を使わない。もし使ったら、王位を退きエレアを出ていく」


 エレアの人々は、涙と拍手で少年王の誕生を歓迎した。



 勇者たちは、即位の意志を確認したあと、ゴンドレシアの平和のため、五年に一度、魔王城の前に集まり、大陸の行く末を話し合うことに決めた。

 魔王の予言……王位を巡って争うなど、絶対に実現してはならない。

 再会の約束は、勇者たちの決意の表れだった。


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