30 輝ける魔王城
「あれが、魔王の城なの? 信じられない」
曇り空の下で、七人の勇者のうち唯一の女勇者カリマは顔を覆った。
「カリマちゃん、怖いよね。あたしもだよ。あそこにネクロザールの奴がいるなんて」
細身の短剣使いホアキンが、小柄な女勇者の肩をポンと叩く。
「ありがとホアキン」
いつも気遣ってくれる男に、カリマはぎこちない笑顔を返す。
一方剣士セオドアは、憮然と言い放つ。
「なにを恐れているカリマ。ネクロザールは、聖王アトレウス様を騙る卑怯者。さすれば、魔王城のあの様は、驚くにあたらない」
「そ、そりゃそーだけど、でも……」
カリマは、遥か彼方の丘を指す。
そこには古代の神殿とも見まがう、白く輝く城が立っていた。
かつて訪れた聖王アトレウスの古都の城と形は変わらない。が、アトレウスの城は古びて見る影もないが、魔王の城は、暗雲の中、太陽のごとく眩しく光っている。地上に突如現れた天界のごとく。
「あ、あたしは魔王の城というぐらいだから、もっと真っ黒でドロドロしていて……」
彼方の城は、魔王の所業に似つかわしくない清浄そのものを具現していた。
槍使いの中年男ニコスが進み出る。
「城に惑わされるな。ネクロザールが我らの師を苦しめた元凶であることを、忘れてはならぬ」
ニコスの言に、集う勇者たちは力強く頷いた。
彼らの指導者エリオンは、白く輝く魔王城を緑色の眼で静かに見つめていた。
青年エリオンが同志を率い、魔王を倒すべく大陸を巡り、十年が経った。
魔王が直轄地として奪った領地はすべて取り返した。今、領地は村人の自治で支えているが、勇者たちの帰還を待っている。残るは巨大な王城のみ。
最後の戦いを前にカリマが心を震わせていると、城から白馬に乗った鎧の騎士が陣地にやってきた。
勇者たちは武器を構え、エリオンを取り囲む。
「あたしのエリオン様に手出すんじゃないよ」
血気盛んなカリマは、矢をつがえ白馬の騎士に向けた。
「汝がエリオンか。陛下がお前をご所望だ」
騎士はカリマに目もくれず、馬に乗ったままローブの青年に呼びかける。
ニコスは槍を騎士に突き出した。
「ネクロザールが師を望むと言うなら、我らも共に行くまで!」
馬上の騎士は、微動だにしない。
「ならぬ! 陛下は、汝ひとりをお望みだ!」
セオドアが剣を振りかざす。
「魔王に伝えろ! お前の命は風前の灯火! お前ひとりで我が陣営に降るのが筋であろう! なぜ勝者である我らの師匠が、お前に従わなければならないのだ!」
しかしエリオンは、取り囲む勇者たちの輪から抜け出し、「承知した」と白馬の騎士に近づいた。
勇者たちは「なりません!」と、次々に訴える。
ローブの青年は振り向いて、勇者たちに向けて両腕を掲げた。
「静まれお前たち! 私を信ぜよ。私の力で魔王の心を変えてみせよう」
途端、男の勇者たちは「師を信じます!」「魔王とて師匠の心に打たれよう」と、賛意を示し、各々の武器を納めた。
しかしカリマはひとり抵抗した。
「駄目だって! エリオン様! ひとりで行っちゃ駄目だ! だって、あんたは、あんたは……」
女勇者はホアキンに押さえつけられる。
「カリマちゃん、あんたは師匠が大好きだから心配なんだよね」
「好きとか関係ないって!」
「でも、あたしたちの師匠が魔王にやられるわけない。ひとりで魔王ネクロザールを改心させるよ」
鎧の魔王の騎士は馬を降り、エリオンに譲った。勇者たちの師匠は、振り向きもせず白馬に揺られる。
「お嬢ちゃん、わしらの師匠は普通の方ではない」
フランツ老人もカリマを宥める。
押さえ込まれながらカリマはなおも抵抗した。
(なんでみんな、エリオン様を平気でひとりで行かせられる? ああ、わかってるよ。みんなエリオン様の言うとおりにするしかないって。でも、それでも、あの人ひとりを魔王の元に行かせてはいけない! だって、だって……)
一行の中、唯一の女勇者は、馬に揺られながら消えゆくローブの青年に「行くな! 戻れよ!」と叫び続けた。
七年前。カリマの故郷ラサ村は、魔王の派遣する役人の支配下に置かれ、村人は苦しめられていた。
村を終わりのない闇から救い出したのが、エリオンたちだった。
カリマの旅は、彼らに救われてから始まった。




