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彼女の前世がニホンジン? 2 聖妃二千年の愛  作者: さんかくひかる
2 章 マルセル(女勇者の影)
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24 王女の目覚め

 コンスタンスは、裾の短いチュニックとズボンを脱ぎ、ワンピースを着るようになった。

 光が降り注ぐ城の中庭で、宰相マルセルは目を細めて笑う。


「王女様、よく似合ってますよ」


「私、ずっと前から、普通の女の人の服を着たかったの」


「あたしは動きやすい服が好きだけどね。あんたが娘だからといって、あたしと同じ服を着ることもないか」


 カリマは、娘を寂しげに見つめる。一方、コンスタンスは不満そうにワンピースの裾をつまむ。


「うーん、もう少し可愛らしくしたいわ。裾に花の刺繍を入れようかしら?」


 王女は城の渡り廊下へ行ってしまった。


「最近あの子、機織り部屋にこもってばかり、今度の立太子式に着る服、自分で織るって聞かないんだ」


 カリマは腕組みしてため息を吐く。


「あたしのチュニックもおそろいの柄にするって張り切って、勘弁してほしいよ」


「いいことじゃないですか、女王様。王女様お手製の衣、城の誰もが、いやいやラテーヌのみんなが欲しいでしょうよ」


 マルセルは、頭を巡らす。王女は幼いときから花が好きだった。

 美しいものに目がなく、一日中、機を織っても退屈しないようだ。

 そう、そんな女性がいたではないか。


「王女様は、シャルロット伯母さんに似たんですよ」


 カリマの目が見開かれる。


「本当にマルセルはずっと姉ちゃんが……ううん、あの子はあたしに似て欲しかったけどね」


「なに言ってるんですか。似ようが似まいが、カリマ様がコンスタンス様を産んだことは、俺だけでなく、城の誰もが知ってますって」


「そうだね……あたしが娘だと言えば、娘に違いない」


 微笑みを交わす二人の元に、小間使いが呼びかけた。


「女王陛下、ネールガンドから使者がお越しです」


「うわ! セオドアか。コンスタンスの嫁入りを断ったからか。嫌味ったらしい手紙を持ってきたんだろうなあ」


 マルセルは、ソロソロとあとずさりする。


「じゃ、俺はここで失礼します。ワインギルドの親方が、税を下げてくれってうるさいんで」


「はあ? マルセル、あんたも来るんだよ! ネールガンドの使者を宰相が迎えないでどーするのさ!」


「女王様~、俺、セオドア様、苦手なんです~」


 女王は、嫌がる宰相の腕を引っ張り、強引に会見の間に同席させる。

 使者は、にこやかに国王の書状を渡した。

 書状に女王が懸念していた嫌味な文面は見当たらず、第一王子アイザックをラテーヌで学ばせたいとあった。

 大臣たちはネールガンドの策略では? と眉をひそめるが、女王は「セオドアは卑怯な男ではない。コンスタンスは喜ぶだろうね」と、ネールガンドの王子を受け入れることとなった。



 コンスタンスの立太子式を前に、女王は珍しくも幼馴染を部屋に招いた。

 夜、二人は久しぶりに、ワインを酌み交わす。


「マルセルに見せたいものがあるんだ」


 カリマがテーブルの上に置いたのは、小さな弓だった。


「う、うわあ! それ、コンスタンスがちっちゃい時、作った奴だ。余計なお節介だったけどな」


「余計なお節介じゃないよ。よく見てごらん」


 あちこちに傷があり、握りが光っている。一目で使い込まれていることがわかる。


「そうか、コンスタンスはちゃんと使ってくれたんだなあ」


 マルセルの胸が温まってきたのは、ワインの作用だけではない。


「あの子、誰も見てないときにこっそり弓の練習していたって、クロエ婆さんが言ってた。はは、本当はあたしがちゃんと教えるべきなのに」


「カリマは弓の天才だからな。普通の子供に弓を教えるのは、難しいだろ」


 幼馴染の頬が赤く染まってきた。


「あたし、マルセルにひどいことを言ったね。父親面するなって。ごめん。本当に悪かった」


「いや、俺こそお前に言い過ぎた。お前は女王として忙しいのに、母親としてちゃんとしろって」


 コンスタンスが落ち着いてきた今だからわかる。

 マルセルはコンスタンスを可愛がってきた。が、それは純粋な好意だけだったのか? 実の父エリオンへの対抗心から、小さな王女に執着していたのかもしれない。


「いや、あたしがちゃんとあの子の面倒を見られなかったから、マルセルが気にかけてくれた。それだけじゃない。あたしが都を留守にしても、マルセルはちゃんと大臣たちをまとめてくれた。だからあたしは、気兼ねなく外に出られたんだ」


 いつになく、カリマの笑顔が眩しい。小さなランプだけが灯る暗がりの中、幼馴染の女は、太陽のように輝いている。


「へへ、あたし、子供のときから、ずっとマルセルの世話になりっぱなしだ。あたしが姉ちゃんやコンスタンスみたいに織物が上手なら、マルセルにお礼できるけどね」


「そうか。じゃあ、ひとつ頼まれてくれるか?」


「あんたの頼みなら、なんでもするよ。給仕でも部屋の掃除でも」


 今年のワインは上出来だ。だからか、いつになくマルセルの酔いは早く回った。

 目の前には、幼子のように無邪気な笑顔の女王。

 男は静かに希望を口にした。


「お前と寝たいんだ」


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