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彼女の前世がニホンジン? 2 聖妃二千年の愛  作者: さんかくひかる
2 章 マルセル(女勇者の影)
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23 親子の絆

 マルセルは自分の耳を疑う。

 今、カリマは娘に「嫁に行きな」と言い切った。


「ちょ、カリマ! そりゃまずいって!」


 マルセルは、夜、カリマと二人きりのときは幼馴染として接するが、昼間は彼なりに臣下として振る舞っている。しかし今は、驚きのあまり、女王に対する礼儀を忘れた。

 カリマは、マルセルの言葉遣いなど気に留めず、コンスタンスの身体を少し離して微笑んだ。


「あたし忘れてたよ。あんたが産まれたとき、ただ幸せになってほしいって願ったこと」


「幸せ?」


 コンスタンスのオッドアイが大きく揺れた。


「あんたには、好きな男と夫婦になってほしかった。あたしにはできなかったから」


「お母様は好きな人と夫婦になれなかったの? 私のせい?」


 女王は寂しげに笑う。


「あんたを不安にさせてごめんね。あんたにはエリオン様の血が流れている。あたしはあんたを、エリオン様から授かったんだ」


 マルセルは大きく唾を飲み込んだ。カリマは、公式の場ではもちろん、マルセルと二人でいるときですら、コンスタンスがエリオンの娘と断言したことはなかった。


「お母様、私のお父様は、やはりエリオン様なのね。どうして教えてくれなかったの? 私、お父様が誰かわからなくて、すごく怖かったのよ!」


 緑と青の眼から、涙があふれてくる。


「すまなかったね。どうしても言えなかった」


 カリマは娘の涙をそっと拭う。


「男と女は、聖王様と聖妃様に誓う前に夫婦になってはいけない。エリオン様の教えだ。コンスタンスも知っているだろう?」


「はい。人間は、馬や牛とは違いますもの」


 マルセルはぎょっとするが、十一歳の聡明な王女は、人間も他の動物と同じように、交尾で子供ができることを理解しているらしい。


「あたしはね、どうしても言えなかった。エリオン様が、自分で教えを破ったことを」


 そんな理由で、コンスタンスの父を明らかにしなかったのか? 彼の教えを守るため、娘を不安にさせたのか?

 マルセルとしては、呆れるしかない。カリマがエリオンへの愛を貫くためかと思うと、悔しくもある。


「どうしてお母様とエリオン様は、教えを守らなかったの?」


 慌ててマルセルは、割り込んだ。


「あ、あー王女様、それは、えーと、その……」


 大人の男女にはよくあることだが、十一歳の少女にどう説明したらいいのだ?


「それを言われると辛いなあ、あはは」


 動揺するマルセルに対し、カリマは屈託なく笑う。


「人間も、馬や牛と同じなんだよ。でも、人間は動物のままでは幸せになれない。エリオン様は、それを戒めているのさ」


 女王は娘の肩をポンと叩いた。


「エリオン様には使命がある。だからあんたの傍にいることはできない。でもね、あんたを授かって嬉しそうだった。あんたの幸せを願っていた。ううん、今も願っているよ」


「え? じゃあ、お父様……いえ、エリオン様は私のことを知っているの?」


 カリマは目を細めて優しく微笑む。


「コンスタンス、あたしもあんたに幸せになってほしいんだ。だから、ネールガンドに行ってきな」


「お母様、いいの? 私、ネールガンドに行っても?」


「あたし、セオドアは好きになれないけど、息子のアイザックはいい子だ。あんたは幸せになるよ」


「お母様!」


 コンスタンスは、母親に抱きついた。

 カリマは、娘のブルネットの巻き毛を優しく撫でる。


「だから、あたしもあんたと一緒にネールガンドへ行くよ」


「へっ!?」「えええっ!」


 女王は満面の笑みを浮かべる。彼女の娘と幼馴染は、口をぱっくりと開けた。



「あんたが産まれたとき、決めたんだ。ずっと傍で守ろうって。だから、あんたの嫁入り先に、あたしも着いていくさ」


 マルセルは、母子の対話に割って入る。


「冗談じゃねえって! 女王様と王女様がいなくなったら、誰が王様やるんです!」


 女王は思わせ振りに笑う。


「マルセル、あんたが王様やればいい」


「はぁ? そりゃ駄目でしょ? 大臣たちが納得しませんって!」


「あんた言ったよね? あたしが次の王様を決めればいいって。あたしの決定に誰も文句言わないって」


 揉めだした大人二人に、少女が抗議した。


「私も絶対嫌よ! 嫁入り先にお母様が乗り込むなんて、恥ずかしすぎる!」


「コンスタンス。言っただろ? あたしはね、死ぬまであんたを傍で守るよ」


 もう一度カリマはコンスタンスを強く抱きしめる。

 王女の目尻がキラっと光った。


「お母様、私……」


 抱き合う母と娘を目の当たりにし、マルセルの胸に熱いものが込み上げてくる。

 王女はそっと母から離れ、口を結んだ。


「わかりました。それなら私が、ラテーヌに残ります」


「アイザック王子が好きなんだろ?」


 少女は少し意地悪く笑った。


「……アイザックに来てもらえばいいわ」


 女王は目を細めて、コンスタンスの頭を撫でた。


「わかった。それなら、あたしがネールガンドに乗り込んで、あのセオドアに頭を下げてお願いするよ」


「やだ! お母様、それも恥ずかしいからやめて! 私が自分でアイザックにお願いします!」


「そうか。じゃあ、がんばりな。子供の恋に、親がしゃしゃり出るもんじゃないね」


 カリマがパンっと手を叩いた。


「コンスタンス、あらためて聞くよ。あんた本当に、一生をラテーヌに捧げる覚悟はあるかい?」


 王女は宣言した。


「私、お母様みたいな女王になれないし、マルセルの方が王に向いていると思う」


「王女様! やめてくれ! 俺にはぜーったい王様なんて無理だ! 俺の言うことなんか誰も聞きゃあしない!」


 コンスタンスはクスッと笑った。


「でもマルセルが可哀想だから、私、ラテーヌの女王になります。魔王にならないよう、がんばります」


 女王は娘をもう一度強く抱きしめた。


「大丈夫だ! あたしがあんたを魔王になんかさせない!」


 親子はもう一度硬く抱き合いすすり泣く。

 マルセルは顔をほころばせた。と、枯れ葉がカサカサと崩れる音がいくつも重なって聞こえる。

 振り返ると、いつの間にか大臣たちが追いかけ集まってきたようだ。

 誰もが笑顔で大きく頷いている。

 彼らに気がついたカリマは、コンスタンスを抱きしめたまま高らかに歌った。


「みんなに伝えないとね。この子を次の女王にするって」



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