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彼女の前世がニホンジン? 2 聖妃二千年の愛  作者: さんかくひかる
2 章 マルセル(女勇者の影)
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22 再び結婚騒動

 カリマの憂鬱の原因を聞き、マルセルは文字通り腰を抜かした。


「セオドアと結婚!?」


 剣士セオドアは、魔王にとどめを刺した勇者で、大国ネールガンドの王となった。

 彼は聖王の末裔という高貴な血筋を誇りにしているのか、田舎の平民であるマルセルやカリマにあたりが強い。マルセルは数えるほどしか会っていないが、誇り高い勇者が苦手だった。


「あいつ確か、魔王討伐後、故郷の城で、幼馴染と結婚したんだよな?」


「そうだよ。会合に王子アイザックを連れてきた」


「おかしいだろ! あいつ、カリマに冷たく当たり散らし、子供までいるのに、結婚しろだと!? そんなやつ、お前の弓矢をお見舞いしてやれ!」


 カリマはため息を吐いた。


「そうもいかない。コンスタンスが喜んでいるからな」


「な、なんでコンスタンスが?」


「アイザック王子はコンスタンスよりひとつ年下だが、剣技が見事でな。しかも実に礼儀正しい美少年だ。すっかりコンスタンスは舞い上がっている」


「え、じゃあ、け、結婚って? コンスタンスの?」


「セオドアが、コンスタンスをアイザック王子の妃としてネールガンドに迎えたいって、うるさいんだ」


 ラテーヌの女王はこめかみに指をあててグリグリと回す。

 マルセルは、カリマ本人の結婚ではないことに安堵するが、再び怒りの炎を燃え上がらせる。


「待ってくれよ! コンスタンスは子供じゃないか! 結婚なんてずっと先だろ! やっぱりセオドアのヤローは、おかしい!」


「……大臣達に相談してみるよ」



 政に長けた大臣達は、コンスタンスの年ならそろそろ婚約してもおかしくない、と言い出した。

 大国ネールガンドの王子なら、王女の相手に相応しいと、好意的な意見も出た。


「しかし、王女殿下は唯一の跡継ぎ」


「セオドア王は、史師エリオン様の血筋かもしれない王女様を取り込みたいのでは?」


「王女様だけではなく、我らラテーヌ国そのものを取り込みたいのかもしれんな」


 大臣のひとりがテーブルを叩く。


「まだ間に合います。王女様が嫁がれる場合に備え、一刻も早く、陛下は結婚しお子を儲けるべきです!」


 とっくに終わったはずの結婚問題が蒸し返され、宰相は目を剥いた。


「冗談じゃねえ! なんで女王様が結婚しないといけねーんだ! コンスタンス様はどこにも行かせねー!」


「しかし閣下。セオドア王の指揮のもと、ネールガンドの兵士は強者ぞろい。無碍に申し出を断るのもいかがかと」


 マルセルら大臣たちが唯一の王女の結婚について、争っていたときだった。


「私、ネールガンドに行きます!」


 少女の叫びが広間に響いた。



「コンスタンス! ここはあんたの来るところじゃない! 槍の鍛練はどうした!」


 王女は首を振った。


「私、ネールガンドへお嫁に行きます! それでいーでしょ?」


「それはあたしたちが考える。あんたのやることは、勇者の娘に相応しい力を着けることだ」


「どうして? 私のことなのに、私が決められないの?」


 カリマは立ち上がり、コンタンスの肩を掴んだ。


「コンスタンス! 出て行け! あたしたちの邪魔をするな」


「もういい! 私なんかどーでもいーんでしょ!」


 王女は泣き叫び、走り去った。


「待ってくれよ! コンスタンス!」


 マルセルは椅子を蹴飛ばし、王女を追いかけた。



 コンスタンスはあっという間に、林の中へ消えてしまった。

 マルセルは、木の幹で佇む王女の腕を捕らえた。


「はぁ、はぁ、王女様、脚が速いですね。さすが女王様の血だけある」


「離してマルセル! 私なんて、いなくなればいーのよ!」


「悲しいこと言わないでください。俺、王女様がいなくなったら、どーしたらいーんです?」


「知らないわよ! アイザックはね! 私が可愛いって、きれいだって、だから一緒にいたいって言ってくれたの! セオドアおじさまも、今すぐネールガンドに来てほしいって!」


 そこまでネールガンド国は乗り気なのかとマルセルは驚く。そっとコンスタンスの手を離した。


「ネールガンドは、私を認めてくれたの! だから、私、ネールガンドに行くわ! 今の私を必要としてくれる場所にね! こんな国、出てってやる!」


「そりゃ困りますって! 王女様がいなくなったら、誰が次の王様やるんです?」


「私より強い人、賢い人がやればいーのよ!」


「駄目だって! いくら強くても賢くても、ネクロザールみたいな奴が王様になっていいんですか?」


「え? ネクロザール? そ、そんな……」


 伝説の魔王の名を耳にした王女は、動けなくなった。


「やつは、自分が聖王の生まれ変わりだとみんなを騙した……偽物の王だった……俺たちには本物の王様が必要なんです」


 コンスタンスは、ブルネットの髪を揺らした。


「いいえ、私は偽物よ! だって、お母様とは全然似てないの! ええ、偽物……ねえ、マルセル……」


 コンスタンスの薔薇色の頬から、みるみるうちに血の気が失せる。


「私は偽物……つまり魔王ってこと? 私は魔王なの?」


 マルセルの顔も青くなった。

 この王女は、なにを言っている?

 王女がどういう理屈でそんな結論に達したのかわからないが、マルセルの言葉の選択が間違っていたらしい。


「変なこと言わないでください! こんな可愛い王女様が、魔王のわけないでしょ!」


「魔王!? 冗談じゃないよ!」


 女の鋭い声が林に響いた。


「カリマ!」「お母様!」


 ラテーヌの女王が、唇を噛み締めて二人を見つめていた。


「コンスタンス、偽物なんて悲しいことを言わないでくれ」


 落ち葉をシャクシャクと踏みつけ、女は娘に近づく。


「私は未だに、矢が的に届かないのよ! 偽物の王女は魔王になってしまうのよ!」


「弓矢なんて関係ない! あんたはあたしの娘だ!」


 カリマは娘の腕を取り、強く抱きしめた。


「あんたを絶対、魔王なんかにさせるもんか!」


「お、お母様……」


 王女の声が震えている。


「アイザック王子のこと好きなのかい?」


「た、多分……」


 王女の頭は、小鳥が麦を啄むようにカクカクと動いた。


「わかったよ。ネールガンドにお嫁に行きな」


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