表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女の前世がニホンジン? 2 聖妃二千年の愛  作者: さんかくひかる
2 章 マルセル(女勇者の影)
23/184

20 女王と王女

「コンスタンス! なんで弓を引き絞らない!」


 カリマは忙しい国務の合間も、弓の鍛錬を欠かさない。城の中庭には、練習用の的が設置されている。

 旅から帰ったあと、女王は娘に弓の指導を始めた。

 小さな手では、弓を握ることもままならない。

 王女はただ泣きじゃくるだけ。

 中庭を通り過ぎたマルセルは、すぐさま母子の間に割って入った。


「女王様! 王女様に弓を教えるのは良いことですが、大人の弓を持たせても、手を痛めるだけです!」


 カリマはマルセルを睨みつけ「……今日はこれで終わる」と、その場を去った。

 残された小さな王女を、マルセルは宥めた。


「この前見せてくれた花、咲いてますかね」


 宰相はコンスタンスを抱きかかえ、マーガレットの花畑に連れていく。


「俺はね、王女様が教えてくれたこの花畑が好きなんですよ」


 マルセルはコンスタンスをそっと下ろした。

 色とりどりの花が、小さな王女の涙を拭ってくれることを期待して。

 が、残念ながら、事態はマルセルの期待通りにならなかった。


「いやあああああ!」


 王女は泣き叫び、あたり構わずマーガレットの茎をブチブチと、片端からちぎっては捨て、ちぎっては捨てを繰り返した。

 草むらの一角に、無意味に命を奪われた花びらたちが、散乱した。



「カリマ。コンスタンスはまだ小さい。あれじゃ可哀想だろ?」


 マルセルは久しぶりに、夜、女王の私室を訪れた。


「なんだマルセル。せっかく遊びに来てくれたのに、説教かい?」


 宰相は、小さな王女が泣きながら花畑を荒らしたことを話した。


「コンスタンスがそんなことを! やはり、あの者の……違う! あの子はあたしの娘だ。その証を立てないと……」


 カリマの顔がみるみるうちに青ざめてきた。


「おいおい、俺はな、王女様を叱ってほしくて告げ口したんじゃない。もう少し優しくしろって言ったんだ」


「いや、あたしの娘にそれは許されない」


「旅に出る前は、仲良くしてたじゃないか……もしかして、昔の仲間になにか言われたのか?」


 幼馴染の顔をじっとのぞきこむ。観念したのか、カリマは語りだした。


「あいつが……ネールガンド王になったセオドアが、『跡継ぎの教育こそ、王の役目』って言うんだ」


 セオドアは、マルセルそしてエリオンと同じ年齢の剣士だ。

 マルセルは、ラサ村の反撃で、勇者セオドアからその剣裁きを見せつけられた。カリマを含めた七人の勇者の中で最も強いのが、この剣士だろう。それゆえマルセルは、セオドアが苦手だった。


「セオドアさんかあ。あの人って、俺やカリマに冷たくない? こっちから笑って挨拶しても、ムスッとしてるし」


「あいつ、あたしたち勇者の中で一番生まれがいいからね。昔のネールガンド領主の息子で、しかも聖王の子孫なんだって」


「で、カリマ。お前は、生まれのよいセオドアさんに言われたから、コンスタンスに意地悪するのか?」


「あいつの息子はコンスタンスよりひとつ下なのに、もう剣を触らせてるって……」


 カリマは拳を握りしめた。


「おい、セオドアのガキに対抗しようってか? コンスタンスは女の子だろ? 無理させることねえって」


「あたしは勇者だ。あたしの娘なら、同じように強くなれるはずだ」


 勇者の子は強くなければいけない――

 自分もカリマも、十代のときに親を亡くした。それゆえ苦労は人一倍だったが、ある意味親の束縛を受けず、自分の意志で生きることができた。

 しかし、勇者の娘に好きな生き方はできない。


「王女様を鍛えるなら、年に合わせたやり方をしねえと」


「あたしは子供のときから、大人の弓を触ってたよ」


「お前はラサ村一番の弓名人だからな。でもコンスタンスは違う。花が好きな普通の女の子だ」


「冗談じゃない!」


 カリマは、マルセルの肩を鷲掴みにした。


「あの子はあたしの娘だ! あたしと違うなんて許されないんだよ!」



 マルセルは何度もカリマの説得を試みるが、女王はコンスタンスへの態度を変えなかった。

 宰相は大臣たちに「あれじゃ王女様が可哀相だ」と訴えるが、彼らは「次の女王を甘やかしてはなりません」「女王様もようやく自覚された」と、むしろカリマの変貌を歓迎する。


 少しでもコンスタンスの負担を減らそうと、マルセルは子供用の小さな弓と矢を作ってみた。

 城の弓兵から指導を受けている王女に、マルセル特製の弓矢を手渡した。弓兵もカリマの命令なのか、厳しく王女に接しているようだ。


「王女専用の弓矢ですよ。これで上手に弓を引けますよ」


 が、コンスタンスは背中を向けた。


「馬鹿にしないで!」


 マルセルは「まず小さい弓で練習しましょうよ」と王女を宥めるが、頑として聞かない。仕方なしにマルセルは特製の弓矢を、指導した弓兵に預ける。


「あまり厳しくすんな。コンスタンス様がやる気にならねえと、どうしようもねえだろ」


「いくらマルセル様がおっしゃっても、女王様には逆らえません」


 マルセルは、引き下がるしかなかった。



 コンスタンスへの厳しい教育は、弓に留まらなかった。剣や槍の訓練のほか、机上の学問も始まった。数学、詩学、天文、法律、音楽とかつての貴族の教養のほか、エリオンの教えが含まれた。

 どの分野も、厳しいことで定評のある学者たちが、代わる代わる王女の教師を務める。


 マルセルは、カリマ当人や教師たちに手加減するよう進言する。

隙あらば王女を城内の散策に連れ、気晴らしをさせるが、月日が経つにつれ王女の顔は暗くなっていく。

 彼に学はないが、気難しい学者たちの機嫌を損ねないよう、教えを請う。聞いた話をそのまま王女に伝えるも「馬鹿にしないで!」と拒絶された。

 コンスタンスは十一歳となった。



「王女様、こんなところに薔薇が咲いてますよ」


 マルセルは、例によって王女を森の奥の花畑に連れ出した。原っぱに暖かい春の日差しが降り注ぎ、草花を輝かせている。


「ふーん、馬鹿みたいね。こんなところで咲いても、誰も見ないのに」


 コンスタンスは口を尖らせた。

 彼女は女王と同じように、チュニックにズボンと男のなりをしている。ところどころに金色の房が混じったブルネットの巻き毛を、後ろで束ねていた。


「俺たちが見つけてやって良かったですね。薔薇も喜んでますよ」


「私たちが見つけたって、仕方ないわ。どーせ、すぐしぼんでしまうもの」


 王女は美しく育った。が、幼いころの笑顔を見せなくなった。

 緑色と青色のオッドアイが、ラテーヌの宰相をじっと見つめる。なぜかマルセルは恐ろしくなった。

 王女のふっくらとした唇が、ゆっくりと開いた。


「マルセル……マルセルは、私のお父様なの?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ