表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女の前世がニホンジン? 2 聖妃二千年の愛  作者: さんかくひかる
2 章 マルセル(女勇者の影)
20/182

17 受胎

 カリマが都に移って三か月後、女王の口からとんでもない宣言が飛び出した。

 未婚の勇者は子供を身籠ったというのである。


 一同は騒めいた。

 真っ先に大臣たちは、カリマのとなりに控えるマルセルを睨んだ。

 女王の幼馴染であるこの男は、気安く彼女に触れる。夜、二人きりで話し込む様子も目撃されており、多くの者が女王との関係を怪しんだ。


「ち、違う! 俺だって、今初めて知ったんだよ!」


 カリマはケラケラと笑った。


「心配するなよ。あたしは未だに男を知らない。この子に父はいない。私ひとりで身籠った。尊い方から授かったんだよ」


 尊い方と女王の口から聞かされ、大臣もマルセルも、子供の有力な父親候補を思い浮かべる。


「子供は、あと五か月で生まれる」


 大臣たちはマルセルから視線を逸らした。マルセルと女王の今の関係がどうであれ、女王が身籠ったのは四か月前だ。ちょうど魔王が倒された時期であり、マルセルは父親候補から外れる。


「この子は尊い。だからあたしは、城の先にある丘の小屋にこもって産むことに決めた。あとは頼むよ」


 カリマはすっと立ち、広間を突っ切り出ていった。

 大臣たちは、女王を追いかける。真っ先に追いついたマルセルは、カリマに耳打ちをした。


「おい! 聞いてないぞ!」


「悪い、マルセル。丘の小屋を整えてくれよ。あたしが産婆と二人で暮らせるようにね」


「いや、女王の仕事を休むのはいいが、城から出なくてもいいだろ?」


 カリマは首を振った。


「この子は尊いからね。静かなところで産みたいんだ」


 若き女王の決意に、マルセルは頷くしかない。

 処女王懐妊の知らせは、都中に広まった。マルセルや大臣だけではなく、民の誰もが、エリオンの子では? と囁いた。



 カリマが指定した丘は城壁の内側にあるため、普通の民は近づけない。城の裏庭にあたる場所で、城の召使いたちも普段は通らない場所だ。

 マルセルは古びた小屋を修理した。女二人が暮らせるようにベッドやテーブルなどの家具を整える。小屋の周りは板塀で囲んだ。

 女王の住まいができあがったところで、カリマは産婆をマルセルに紹介した。


「マルセル。あたしの産婆、オレーニアだ」


 白髪の巻き毛が目立つ女だった。老婆に見えるが、顔はそれほど老けてはいない。三十過ぎだろうか。大きな布を目深に被り、表情は良く見えない。

 女王に紹介されても、オレーニアは声を発さない。


 この女を、マルセルは知っていた。

 カリマを慕って訪ねてきた民のひとりだ。

 城の門番に邪険にあしらわれていたところを、マルセルが助けたのだ。

 その後オレーニアは、カリマの侍女に雇われた。


 さっそくカリマはオレーニア一人を連れて、修理したばかりの小屋に引きこもってしまった。



 一日で一通りの作業が終わらせた。夜、マルセルは、寝室のベッドでひとりぐったりと仰向けに手足を伸ばす。

 落ち着くと、怒りとも悲しみとも言えない感情がこみ上げてくる。


「やっぱりカリマは、エリオン様とそういう関係だったんだな」


 ラサ村でのエリオンとカリマは仲睦まじく、同じ部屋に寝泊まりしていた。それでもマルセルは、二人の繋がりは清らかなものだと信じていた。いや、信じようとした。

 エリオンその人は誰もが見惚れる美青年だが、男臭さが感じられず、女と生々しく繋がるようには見えなかった。


 そもそも彼は、聖王と聖妃に誓わずに結ばれることを、戒めていたではないか。

 その彼が、一途に慕う娘を身籠らせ、素知らぬ顔を決めこむのはどうだ? いや……エリオンその人は、カリマに子供ができたことなど知らず、今も魔王の城で封印とやらに励んでいるのか?


 魔王城に行ってエリオンその人を探し、カリマにお前の子ができたぞ、と知らせてやろうか……いや、カリマはそれを望まないだろう。

 彼女は晴れやかに、懐妊の事実を告げた。嬉しかったに決まっている。好きな男の子供を産めるのだ。もう、跡継ぎのために、好きでもない男と結婚しなくていいのだ。


 マルセルは腕を伸ばした。

 カリマは、愛するエリオンの子を産む。それもマルセルに前もって相談することなく、いきなり大臣たちの前で打ち明けた。

 二人きりで言葉を交わすときもなく、女王は産婆と引きこもってしまった。


「ちくしょう! 喜べ! カリマが幸せならそれでいいだろ!」


 自分の頭を叩いてみた。指の関節が、毛糸の柔らかさを感じた。

 紺色の帽子を外して眺める。ところどころに穴が開いている。


「シャルロットさん、すいません。せっかくカリマに子供ができたのに……すいません」


 マルセルは、亡き人に謝罪を繰り返した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ