表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女の前世がニホンジン? 2 聖妃二千年の愛  作者: さんかくひかる
2 章 マルセル(女勇者の影)
16/180

14 決戦を前にして

 一年に一度、エリオンの一行は、ラサ村を訪れた。カリマはマルセルらに笑顔を見せる。彼女はエリオンと親しげに振る舞い、同じ部屋に寝泊まりした。鍛冶屋はその都度、幼馴染のために作った鏃を渡した。

 村は何度か魔王軍の攻撃を受けたが、マルセルらの奮闘で持ちこたえた。そして徐々に魔王軍は弱体化してきた。


 エリオンたちがラサ村を救ってから四年が経った。村にカリマが一人でやってきた。

 幼馴染を村の入り口で迎えたマルセルは、首を傾げる。


「おい、エリオンさんたちはどうした? はは、お前まさか、クビになったのか?」


 マルセルは内心、そうであればいいと願う。


「馬鹿! あたしは、史師エリオン様が束ねる七勇者の一人だよ」


 いつしかエリオンは史師と崇められ、彼の率いる七人の戦士は勇者と呼ばれていた。


「ラサ一番の弓名人がクビになるわけないか。でも他のお仲間は?」


 カリマは唇をキッと引き締めた。


「しばらく村には戻れないから……ホアキンたちみんなも、一旦故郷に帰ったんだ」


 女狩人の真剣な顔つきから、ただごとではないとマルセルは察する。


「魔王から大陸中の領地をあらかた取り返した。これから魔王の都に攻めこみ、城に乗り込むんだ」


 マルセルは目を輝かせた。シャルロットとリュシアンが殺されてから五年、ネクロザール打倒はもう夢物語ではない。


「やったじゃないか! よし、今夜は前祝いだ!」


 鍛冶屋の村長は村中を走り回り、カリマ歓迎の宴を開いた。

 人々は広場で火を囲み、女勇者の冒険譚に耳を傾けた。


「エリオン様はね、間違った伝説を正しく伝え直したいんだって。だから、史師って呼ばれるんだよ」


「大昔の聖王様の都に行ったんだ。すごく大きな壁画があったんだけど、エリオン様が『魔王の邪気の元だ』とおっしゃるから、壊したよ。あれは大変だったなあ」


「聖王アトレウス様はね、聖妃アタランテ様を大切にされて、妾を持たなかったんだ。だから、魔王がアトレウス様の生まれ変わりのはずないって、エリオン様は言ってるよ」


「エリオン様はすごく真面目なんだよ。夫婦になるのは、聖王様と聖妃様に誓ってからだって。あたしも浮気男は嫌いだもん」


 ひたすらカリマは、恋するエリオンを讃えている。マルセルは頷きつつも、疑問を抱く。

 エリオンとカリマはいかにも親しげで、同じ部屋に寝泊まりする仲だ。しかし二人は夫婦として誓い合ったわけではない。

 他人に貞節を押し付ける癖に、カリマと関係するのは矛盾してないか? と突っ込みたくなる。

 しかしカリマの笑顔は、野暮な突っ込みするなよ、と語っていた。



「じゃ、今夜は先生いなくて残念だが、ここで休みな」


 宴が終わると、マルセルはカリマを村長の館の空き部屋に通した。幼馴染のために寝具を整えてやる。


「マルセルはさ、お嫁さんもらわないの? 世話してくれる女はいないの?」


 幼馴染の唐突な問いに、男は目を丸くする。


「はあ? 俺なんかの嫁にさせたら、女に悪いだろ」


「……姉ちゃんの帽子……だいぶくたびれてるね」


 カリマはマルセルの頭に目を向ける。


「あ、ああ、ずっと被ってるから、ないと落ち着かなくてさ……」


 男はすっかり色落ちした毛糸を撫でる。

 ブランケットをベッドの上にかけて「じゃ、ゆっくり休みな」と、マルセルは立ち去ろうとする。

 しかし、チュニックの背中を引っ張られた。


「マルセル、今夜はこっちにいてくれないか?」


 振り返ると、今にも泣き出しそうなカリマがいた。

 マルセルは、幼馴染の心に思いを馳せる。女勇者は、これから魔王の都を攻めに行く。もしかすると二度と故郷に戻れない……決死の覚悟を秘めて帰ってきた。


「昔はよく、同じベッドで寝たよね」


「ははは、俺もお前もガキだったからな」


 そんなふうにすごしたのは、二十年近く前のこと。


「いくら俺とお前でも、そんなことしたらエリオン様に叱られるぞ。そういうのは、聖王様と聖妃様に誓った夫婦だけ許されるんだろ?」


 泣きそうな幼馴染の肩をポンと叩き、二人でベッドに腰かける。


「わかった。お前が寝るまで、ここにいてやるよ」


 男は女の赤毛をくしゃくしゃに撫でる。カリマはマルセルの肩に頭を寄せてきた。


「怖がることはねえよ。お前はひとりじゃない。強い勇者さんがいっぱいいるじゃないか」


 小さな勇者は無言で頷く。


「なによりお前にはエリオン様がいる。惚れあった二人が一緒にいれば、なんも怖くねえ」


 こんな言葉で魔王への恐怖を克服できるわけない、とマルセルはわかっているが、他にかける言葉が見つからない。


「……だからマルセル、ずっと姉ちゃんと一緒なんだね」


「そうだ。俺たち、お前が産まれたときから一緒だっただろ?」


 マルセルはカリマの両肩を強く揺さぶった。


「カリマ、絶対に生きて帰れ! シャルロットさんとリュシアンさんみたいにお前まで死んだら、俺は本当にひとりだ」


「マ、マルセル……あたしを待っててくれるかい?」


「当たり前だ! 魔王をやっつけたら、この村で、先生と結婚式やってやるよ」


「あははは。それは絶対ないって!」


 カリマにようやく笑顔が戻った。


「あたしは村に戻るけど、エリオン様は、教えを広めるために旅に出ると思う」


「そうか。だったらお前も先生に着いていけばいい。今みたいに時々村に遊びに来いよ」


「そうだねえ……でもそしたら、マルセルがひとりぼっちだよ」


 またカリマは寂しげな表情に戻った。


「俺のことは気にすんな。お前がこのゴンドレシアのどこかで生きてくれればいいさ。でも……」


 マルセルはギュッとカリマを強く抱きしめる。


「俺よりも先に、聖王様と聖妃様の元に逝くんじゃねえ。それだけは絶対だ」


「……マルセルが百歳まで長生きしても?」


「当たり前だ。お前は俺より五つも若い」


「無茶言うなよ」


 小さな勇者は男の腕の中で、カラカラと笑った。



 翌朝カリマは、広場で村人に別れを告げる。マルセルは例によって鏃を、他の村人は衣服や食料の乾パンを渡す。

 女勇者は、荷袋を地面に置いて、中身をゴソゴソとあさりだした。


「そうだ、大事なものを忘れてた」


 カリマは、腕の長さほどの木像を取り出した。

 ドレープの豊かなキトンを纏った女性が、月桂樹の冠を被っている。


「これね、聖妃アタランテ様の像。フランツの爺さんが彫ったんだよ」


 マルセルは同じ鍛冶屋として、勇者の中でも特にフランツには親しみを感じていた。


「へええ、あの爺さん、なんでもできるんだなあ」


 聖妃アタランテは、アトレウスと同じように長い髪をまっすぐ垂らし、穏やかに微笑んでいる。聖王が深く愛した慈悲深さが伝わってくるよう。


「聖王様もひとりぼっちじゃ可哀想だろ?」


「教会の聖王像のとなりに置いとくよ」


「今、ゴンドレシア中で、アタランテ様の像を彫ってるよ」


「エリオン様の教えか。あの人は、ただ魔王を倒すだけではなく、もっと大きな考えがあるんだな」


「そうだよ。エリオン様は、お年寄りや子供、体が不自由な人、女の人、弱い者に優しくなければ勇者じゃないって言ってんだ」


 カリマが顔を輝かせている。恋しい人が誇らしくて仕方ないのだろう。


(俺は、なにもかも敵わねえな)


 マルセルは自嘲しつつ、最後の旅に出る幼馴染に手を振った。


(敵わない? 敵わないって、なんだ?)


 男は手を振りつつ、生まれたばかりの感情をどう扱ったらよいのか、頭を巡らせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ