13 旅立ち
村人がエリオンたちを見送る中、カリマは彼らの仲間になりたいと願う。村人は騒めき「危ないことよしなよ」と警告する。
しかしカリマは譲らない。
「荷物運びだって飯炊きだってする! みんなのやりたくないこと、あたしにやらせてくれ!」
カリマが男たちの仲間になる……マルセルは当惑するばかりだ。
「お、おい! なに言ってんだよ! 村はどうする!?」
「村は、マルセル、あんたがいるから大丈夫だ。あたしは、姉ちゃんの仇を取りたい!」
狩人の娘は、村人に訴えた。
「今日、館を取り戻しても、どうせ統一王……ううん、魔王の兵がまたやってくるんだろ? だったら、統一王、じゃない魔王を倒さないと意味ないんだよ!」
エリオンは、カリマの肩を優しく撫でた。
「お前は賢い娘だ。が、我らの旅は想像以上に危険だ。お前は魔王に挑む前に、命を落とすかもしれない。二度とこの村に帰れなくてもよいのか?」
女狩人は大きく頷いた。
「ここで待ってるなんて嫌だ! たとえ失敗しても、姉ちゃんのためになにもしない方が辛いんだよ!」
マルセルは、カリマの意志は動かせないと悟る。
「わかったよ。じゃあ俺もお前と一緒に行く」
カリマは幼馴染に寂しげに笑った。
「駄目だよ。行くのはあたし。あんたはラサ村に残るんだ」
「な、なんでだよ。俺たち……お前が生まれたときからずっと一緒じゃないか」
狩人の娘は首を横に振った。
「あんたまで村からいなくなったら、誰が村を守るんだい? また魔王の兵はやってくる。マルセルは武器をいっぱい作って、やつらを追いだすんだ」
村人は次々に「マルセル、あんたは寂しいだろうが、こうなったらカリマを見送ろう」と、鍛冶屋の説得にかかる。
マルセルはついに幼馴染の決意を受け入れた。
「エリオンさん。じゃあカリマのこと、頼みます……だから……こいつが無事にラサ村に戻れるよう、守ってください」
マルセルの懇願に、剣士セオドアが反応した。
「それは断る! 我らは師を守るために集った! 守られる者には用はない!」
槍のニコスが続いた。
「マルセルよ。友を案ずる気持ちはよくわかるが、セオドアの言うとおりだ」
場の空気が凍りつくが、和ませる者がいた。短剣使いのホアキンが微笑んだ。
「二人ともお堅いなあ。こんな可愛い子を前にそれはないんじゃない? マルセル、あたしがカリマちゃんを守ったげるから、心配しないで」
ホアキンがカリマの肩を優しく抱いた。
「あ、だ、大丈夫だって!」と、カリマは頬を染める。
マルセルは別の意味で不安になってきた。カリマはいつも男のなりをしているが、シャルロットの妹だけあって、美しく育ってきた。こんな男どもの中に入り込んで大丈夫か?
と、エリオンが進み出た。
「マルセルよ。残念ながらカリマの命の保証はできない」
鍛冶屋は覚悟を決めた。
「しかし、お前の大切な友の貞操は、私が守ってやろう。この男たちが美しい狩人に近づかないようにな」
「えー師匠! 悲しいこと言わないでよ。むさ苦しい男の中に、ようやく女の子が来てくれたのに」と、ホアキンが抗議する。
ブルネットの巻き毛が美しい青年が微笑んだ。カリマの頬は、ますます赤みを帯びてくる。
マルセルは(この爽やかな師匠が、一番危なさそうだなあ)と不安を覚えるが、村人と共に、カリマの旅立ちを見送った。
カリマは、エリオンたちに加わるため、ラサ村から旅だった。
残ったラサ村の人々は、鍛冶屋のマルセルを村長に推した。
マルセルは「俺の柄じゃねえよ」と一度は断るが、「カリマは命をかけて頑張ってるんだぞ」と説得され、渋々引き受けることとした。
成りたての若き村長は、フランツ老人の教えのとおり、村の周りに防壁を巡らし、魔王の軍勢と戦えるよう装備を整えた。
そしてマルセルを中心に、人々は戦いに向けて日々鍛錬に精を出す。
村を取り戻してから半年後、エリオンの警告通り、ラサ村は、魔王の軍勢に襲われた。
しかし防壁と鍛錬の成果が現れ、犠牲者が二人出たものの魔王軍を追い払うことができた。
ラサ村を魔王の役人から取り戻してから一年、エリオンの一行が再び村にやってきた。
若き村長が出迎えると、一行の中からカリマが進み出て笑顔を向けた。
「マルセル! 元気!?」
幼馴染に肩をバシッと叩かれた。
「カリマ! まさか、魔王を倒したのか?」
「あははは、そんなわけないだろ」
女は声を潜めて鍛冶屋の耳元で囁く。
「魔王軍がまたトゥール村を狙っているんだよ。だからあたしたちが森で待ち伏せして、やっつけようってわけさ」
「そうか。じゃあ、今日はゆっくり休んでくれ。少ないが乾パンを持っていけ」
「助かる!」
カリマは、エリオンたちの元に戻った。
と、師匠の腕を手に取り、とろけるような笑顔を見せる。
「ねえ、エリオン様あ、あたしが村を案内したげるね」
マルセルが一度も見たことのない、どこか艶めいた顔だ。
男は今まで幼馴染を愛らしく思ってはいたが、女の色気を感じたことはなかった。
後ろに控えていた剣士のセオドアが眉をひそめる。
「カリマ、師匠に馴れ馴れしすぎるぞ!」
「えー、だめえ? エリオン様あ、あたしのこと嫌い?」
ローブの青年は微笑み、カリマの頭にそっと触れた。
「カリマ、お前はそのままで良い」
中年のニコスは「セオドア、師が許されるなら、口出しは不要だ」と嗜める。
細身の男ホアキンはニヤリと笑う。
「カリマちゃん、師匠にぞっこんだもんねー。わかるなあ。男のあたしでも、師匠にはゾクっとさせられるし」
勇ましい狩人が真っ赤に顔を染める。
「へへへ~、いいでしょ!」
エリオンはカリマの赤い頬に指を滑らせる。
「カリマよ。そなたは私にとって、心許せる女だ」
若い男女が微笑みを交わす。
マルセルは、男まさりの幼馴染が恋を覚えたことに安堵すると共に、置いていかれたような寂しさを覚える。
魔王討伐の一行でも、カリマとエリオンの関係を苦々しく思う者、温かく見守る者、それぞれいるようだ。
村長のマルセルは、一行のため館に泊まる部屋を用意した。カリマはボソッと「あたしとエリオン様は同じ部屋でいいから」と囁く。
「えっ! あ、まあいいけど」
「変な誤解するなよ。あたしがエリオン様のお世話をしているから、都合いいんだよ」
「べ、別に……誤解なんて……」
エリオンとカリマの仲がどこまで進んでいるかは気になるところだが、少なくとも心は通じ合っているのだろう。
爽やかで中性的に見える青年も、女を特別扱いする。まあ自然なことだな、とマルセルは自らに言い聞かせた。




