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「悪魔使い」で嫌われたはずが、神龍の使いに好かれてます 下

趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。


片方が片方を救う展開が好き、多分王道だけれど好き。

憎いほど、天気は快晴だった。自由を手に入れた、あの日のように。


怖いもの見たさ重視の公開処刑とあって、人々は会場に集まっていた。国家万歳、王族万歳という思考の国民は、国家転覆を企てた悪魔使いに厳しい目を向ける。罵詈雑言は控えるよう注意されていたが、血の気の多い者は乱暴な言葉をずっと吐き続けている。


その様子を王宮のバルコニーにて、第三王女マリー、そしてポスター家当主は見ていた。他人事のように冷めた目で、そして計画が上手くいきほくそ笑んで。


用意されたのは、今まで様々な罪人の首をはねてきたギロチン。そこに1歩、また1歩と、ジェイは近付いていた。魔術封じの手錠をジャラジャラと鳴らし、足枷を引きずって歩くのは、意識しなくとも遅くなる。それなのに早くしろだのさっさと死ねだの、非難する声がちらほら上がっていく。



(・・・僕はいつもこうだったなぁ、1人でいるから色んな噂を押しつけられて。でもどうせ関わらないからいいやと、全部流して。


好きな魔術にのめり込んでばかりで、周囲も全く見られない。人からの期待なんかそっちのけで、自分のやりたいようにやって。それで主席って皮肉だよね。


これは全部報いだ、今まで独りよがりで逃げてきた自分への。だから今更、いわれの無い罪を弁明する気にもなれない。もう良い、うんざりだ。早く終わらせよう。


あぁ、でも、最期に・・・・・・グレンに、ありがとうって言いたかったなぁ)



脳裏に浮かぶ孤独な過去、楽しかった思い出。少しでもこれから死ぬ現実から、目を背けようとしている。


そんな彼は気付いていない。


周囲のざわめきは、処刑されるジェイから・・・・・・次第に、晴天の空へと移っていたことなど。


丁度太陽を横切るように、複数の影が頭上を横切っていく。影は1つ、また1つと多くなっていき、俯いていたジェイもなんとなく察していた。何かあったのかな・・・そんな軽い思いでふと、一瞬だけ天を仰ぐ。


・・・・・・赤い、ドラゴン。


様々な色の龍が空を飛び交うだけでも、ここでは物珍しい。だが、彼らを率いるように飛ぶ赤いドラゴンは、ジェイの目にすぐ入ってきた。


龍の国に導いてくれた、あの赤いドラゴン。


龍の国に着いてからも隣にいてくれた、あの赤い龍人。


人見知りの自分を受け入れて、引っ張ってくれた、彼・・・・・・。


羽ばたきの強風と轟音で、ジェイの周囲から人はいなくなった。ギロチンも見えなくなり、代わりに赤いドラゴンが、ジェイの行く手に現れた。兵士が慌てて追い払おうとするが、翼を広げて腕を振り回し、咆哮を上げれば怯えて距離をとっていく。やがてジェイは、赤いドラゴンとだけ相対する形になる。


そっとドラゴンの頭が、ジェイの前に出てきた。手錠で動きにくい手を必死に動かそうとすると、逆にドラゴンの頭が近付いてくれる。


「・・・・・・グ、レン?」


「ジェイ!ジェイ、悪い・・・。ここを探し当てるのに時間がかかって・・・!お前には本当に、辛い思いさせちまった・・・。でも、何とか間に合った。お前の処刑なんか、絶対に許さねぇ・・・!」


「・・・・・・!」


こっちに連れ去られてから、ずっと否定される言葉しかかけられなかった。だからずっと、自分は不要だと錯覚していたのだ。自分は罪人、生きていても仕方ない。それだけが頭を支配していた。


だが、グレンは・・・助けに来てくれた。危険を冒してまでここまで来てくれた。そこまでして、ジェイを捨てずにいてくれた。


この時、初めてジェイの瞳から涙が落ちた。まだ生きたいと、本気で願った。


「で、でも・・・無理に動けば、そっちが危険に・・・」


「安心しろ、既に手は打ってある」


そう言って1度ジェイから離れたグレン。人の姿になり、王女達がいる側に向けて話し出す。


「お初にお目に・・・なーんて、へりくだった言い方なんてしないぞ、俺は。そっちの国とは繋がる気も何もねぇし、従属するつもりもねぇ。オメェら、何をしでかしている?」


「な、何ですの!?わ、我が国を蝕む犯罪者を処刑しているだけですわ!」


突然の乱入者に混乱した頭で、第三王女が決死に反論する。だがグレンはクツクツ嗤うばかり。


「テメェは利己的に理由を付けて、命を奪うのが得意なようだな」


なっ!?とうろたえたマリー王女に、グレンは畳みかける。睨むだけで殺しそうな、威圧感を出しながら。


「馬鹿王女のマリー、ポスター家の馬鹿当主。お前らのせいで何頭もの子供ドラゴンが犠牲になったと思っている?密猟者どもと繋がり、利益を貪り尽くしていた。貴様らの利益の3割は、その密猟関連で稼いでいたそうだな」


「ば、馬鹿なっ!?何故よそ者が、我が家の財政なんぞ・・・ハッ!?」


当主が口を閉ざしたが、その物言いは真実を言っているようなものだった。


「そうかそうか、認めるか。テメェらがドラゴンの密猟者と繋がり利益を得てたのに、ジェイが密猟者を裁きまくって損益出ちまったから、コイツを消して取り戻そうってか?


どれだけ屑だよ。罪を着せて悪を仕立てて、自分たちの手を汚さず消そうとするとか」


ザワザワと、民衆が騒ぎ出した。龍人だ、龍の国にしかいない希少種だ。さっきの話は本当か?だとすると国際規定に違反する。そういえばマリー王女、龍の素材を使った衣服や装飾品を好まれてたな。資産に見合わないくらい所有していたが、もしや・・・・・・。


次第に攻撃的な視線は、第三王女とポスター家当主に向けられていく。


「ま、待て!ここはフェルスタン王国、他国の龍人が我が国の司法事情に関与するな!!」


悪あがきのように、ポスター家当主が怒鳴り散らす。が、グレンは全く動じない。


「話を変えるな、と言いたいところだが・・・今の言葉に、訂正は無いな?」


むしろニヤリと笑うグレンに対し、「当然だ!」と威張っている。すると彼は、手錠やら足枷の付いたジェイを軽々と持ち上げたではないか!


「ならばジェイを貴様らが裁く権利は無い、彼は龍の国の者なのだから」


「はぁ!?」


「ジェイムズ・ポスターは知らん、だが少なくとも()()()は龍の国にて暮らす魔術師だ。ドラゴンを密猟から守り、龍の国に平穏をもたらす者。そして・・・俺の大切な者だ」


ギュッと抱き寄せられ、思わず息を呑む。色々な衝動から、ドクドクと緊張が止まらない。


「ば、バカ言え!そやつは我がポスター家の出来損ないだ、国家転覆を企てた悪魔使いだ!この国に不利益をもたらす恐れのある以上、我らが責任を持って処分し・・・」


「既に勘当しただろ、そして俺はジェイに不利益などもたらされていない。ならお前達で手間をかけて処分するより、俺たちに寄こせと言っている」


あまりにも強引な理論だが、今まで数多のドラゴンを密猟されていたのだ。ここまで言論攻撃で収まっている方が怖い。空を飛び交う他のドラゴンたちも、屈服しろと言わんばかりに咆哮を上げている。


「この無礼な龍人め!フェルスタン王国に対して刃向かおうなど、数世紀早いわ!!」


「そうですわよ!いくら龍の国とはいえ、わが王国より幾分も格下でしょう!?我ら王族の顔に、よくも泥をつけて・・・」


「既に汚れきっているだろう」と聞こえた低い声。ハッと見れば、フェルスタン王国の現国王が、2人の背後からヌッと現れていた。


「これは何だ?私の知らぬ内に司法を勝手に独占した挙げ句、ろくに裁判もせず処刑しようとしているではないか。ましてや自らの手を汚し続けようと企てるなんぞ、言語道断だ」


「お、お父様!誤解です、彼はとんでもない悪人で」


「戯け、既に龍の国の神龍より話がついておるわ!貴様らが密猟者と繋がり、不当な利益を得ていると!」


えっ、とジェイは思わず間抜けな声が出た。龍の国は、フェルスタン王国と繋がりは無いはずじゃ・・・?「さすが神龍様、動きがお早い」と、グレンはニコニコ微笑んでいる。


「私の数ヶ月の不在を狙って、事を急いでいたようだな。道中にて龍の国より数多の証拠品が渡され、第三王女とポスター家の様々な不正容疑が浮かんだ時は目を疑ったぞ。急遽予定を変更し、ここまで戻ってきたのだ。まさかここまで、国力をも巻き込み愚行をするとは・・・己の非を認めぬばかりか、無実の者を殺そうとなど・・・!


第三王女マリー、ポスター家当主。貴様らには後に沙汰を下す、それまで謹慎しろ!」


刹那、第三王女とポスター家当主は兵によって拘束され、バルコニーから姿を消した。あまりの衝撃に民衆が何も声を出せない中、いつの間にかドラゴン姿になったグレン。ジェイの手錠と足枷を力業で壊し、彼に背に乗るよう勧める。


「後はそっちに任せるぞ。俺の目的は、コイツを連れ戻すことだけだからな」


その日、フェルスタン王国の上空は、数多のドラゴンが飛び交った。魔術師を乗せた赤いドラゴンを囲い、あたかも彼らを守るような体系だったという。





その後、フェルスタン王国の第三王女マリーとポスター家一族の有罪が確定した。密猟のみならず国家司法の独立を脅かしたため、資産の取り潰しに投獄や処刑など、正当に処罰されたのだ。国王も自らの娘が私欲により犯罪者となったことを重く受け止め、別の者に王位を明け渡し、表から去ったという。これを機にフェルスタン王国は威厳を失い、巨大王国の勢いは弱まる次第となった。


ジェイはあの後、龍の国のお抱え魔術師として暮らしている。滞在者だったあの頃と大きくは変わらない。変わったこととすれば、龍の国の民になるため、グレンと婚姻を結んだことくらいだ。まだ上手く実感が湧かない、それでも彼となら幸せになれる・・・そう信じて疑わないジェイ。


「お主達なら、将来私の後にこの国を任せても良いだろうな」


神龍の呟きに、何故かグレンが慌て出す。


「し、神龍様!ジェイは束縛されることを望んでません。彼は王族と無理矢理婚約させられそうになったのですよ、あまりにも重要な立場になることは・・・」


そんなことまで覚えてくれていたのか、恥ずかしいような嬉しいような。それでも今は考えずに「はい」しか言えない自分ではない。ジェイはすぅと息を吸う。


「・・・・・・魔術を使えて、グレンの隣にいられるのなら。僕は本望です」


少し予想外の言葉だったのか、グレンはしばらく目を丸くしていた。しかし何故か急に目元に涙を浮かべ「うぅぅ、ジェイ・・・立派になったなぁ」と、まるで兄のように喜び、彼に抱きついた。伴侶なんだから、そんな風にしなくても・・・でも彼らしいやと、クスクス微笑みつつ胸にいるジェイ。


その後・・・次の神龍となった赤いドラゴンと、彼と契りを結んだ魔術師。彼らが統治した龍の国は、長きに渡り繁栄と平穏な世が保たれたという。


fin.

読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです。


次回もまだまだ製作途中です・・・。週に1作ペースにしようかなぁ。

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