「悪魔使い」で嫌われたはずが、神龍の使いに好かれてます 中
趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。
雨は好きで苦手。低気圧は大変ですが、静かな雨音は落ち着く。
「珍しい、部外者がここに足を踏み入れるとは」
使いが突如連れてきたよそ者に、老いつつも力は健在の神龍は警戒を露わにしていた。
入国と滞在には神龍様の許しがいるから一緒に来てくれ、とグレンに言われてやって来たのは、龍の国の中心にある神殿。「ただいま戻りました」とグレンが声をかけた先には、統治者である巨大な神龍・・・。傷だらけの鱗と翼が、幾つもの戦いを乗り越えたと容易く想像できる。静かで丁寧な口調の裏に、神聖さと威厳が備わっているのだ。
グレンの説明より、彼が龍の国を統治する神龍の使いだと分かった。「素性はもっと早く明かせ」と、神龍がグレンを軽く叱る。
「グレン、貴様の話は一応理解した。神龍使いの仕事はご苦労、この魔術師がその仕事や密猟者の捕縛に一役買ったようだな」
「あ、え、と・・・・・・」
「はい、彼はフェルスタン王国の魔術学園の優秀者であり、私は何度もその力に助けられました。彼は自らの魔術を決して悪用しようとしません。全く私欲は見受けられません!」
いえいえ、正直龍の鱗とか欲しいんですが!?一応欲はあるんですが!?ここに来て龍の国に来た目的が、龍の鱗が欲しいからと言いにくくなってきてしまう。まぁ言わなければ良い話だが。
「神龍様、ですので彼の入国と滞在を認めてください!」
「だが、密猟者どもが言っていたぞ。こやつは“悪魔使い”、いわゆる黒魔術の使い手だと。凶悪な魔法を使う恐れがあるが、そこはどうなのだ」
「魔術は使う側によるモノ。いくら会得していても、使おうと思わなければ無害でしょう。私が見ていた限りでは、彼は決して悪意を持って魔術を使う様子はありません!」
まだ出会って数時間ほどだというのに、グレンはジェイのことを信じてくれているようだ。ここまで純粋だと、下心ある者に利用されそうで心配だが・・・こういう風に思っている自分も、グレンを受け入れているのだろう。
「・・・・・・ふむ、そこまで言うなら良いだろう。ジェイムズ・ポスター、貴様の入国と滞在を認める。ただしこちらの決まりをしっかり守ってもらおう、破った場合はタダでは済ませんぞ」
魔術で危害を加えない、無断で国内の動植物を採集しない、決められた場所で寝泊まりする、神龍使いのグレンを監視として置く、出国の際もここに訪れて許しを得る・・・神龍は色々決まりを教え、ジェイの入国と滞在を認めてくれた。独自の文化とは聞いていたが、まさかここまで厳重とは。
「いやぁ、良かった良かった。ジェイ、早速案内するよ」
グレンはそう言えば、すぐにジェイを国の中心へと案内した。国には龍人もいればそうでない人間もいて、あちこちで龍系統のモンスターが見受けられる。街へ出向けば昼時とあって賑わいもあり、グレンは「これとか旨いぞ」と、色々食べ物を買ってくれた。
「え、いや、その・・・・・・」
「あんなに魔術使ったんだ、腹減ってるだろ?」
確かにお腹は空いているが、払ってもらうのが忍びない。自分の分は自分で・・・なんて、満面の笑みを浮かべるグレンに言えるわけがない。「あ、ありがとうございます」と小声でお礼を言い、小さく囓った。フェルスタン王国では食べたことない調味料を感じたが、食べていくとクセになる味だ。こんなに美味しいモノがあったのかと、ジェイは感激している。
「へへっ、喜んで貰えて良かったよ」
いつしか人と関わるのに向いてないと思い、人と距離を取ってばかりだったのに。こうして接してくれることを喜ぶ自分がいた。あぁそうか、こんな自分を受け入れて、引っ張ってくれる人が欲しかったのか。ここに来て良かったと、改めて思えた。
●
ジェイは龍の国に滞在する間、グレンに色々な場所に連れてってもらっていた。しかし行く先々で「よそ者」の目で見られてしまうジェイ。受け入れてもらうにはどうしよう・・・と思っていると、グレンが1つ提案する。
「俺を助けてくれたみたいに、ジェイの魔法で色々助けてあげればどうだ?そうすれば、少なくとも嫌われ者にはならないだろ」
なるほど、とジェイは思った。もしかしたら今まで距離を置かれていたのは、自分のためだけに魔術を使っていたからだろうか。過去を顧みて反省しつつ、グレンのアドバイス通り実行してみることにした。
ある時に行った牧場や農場では、荒れた草原や農作物を回復させた。
ある時に行った採掘場では、衝撃魔法で大規模かつ安全に開拓した。
ある時に行った乾燥地帯では、雨を降らせて干ばつを解消した。
グレンの言ったとおり、最初は警戒していた国民も、次第にジェイを受け入れていく。こんなに受け入れて貰えたことに喜び、最初に導いてくれたグレンには感謝しきれない。相変わらず口下手だが、ジェイも次第に明るくなっていく。
その噂は神龍の耳にも届き、グレンに毎度の報告で何をしていたかしっかり聞くようになった。
「神龍様、今やジェイ・・・ではなくジェイムズ・ポスターは、国にとって大切な魔術師になっております」
「ほぉ、危害を加えていないようで安心した。だが一寸先は闇、互いに何が起こるか分からんぞ。ちゃんと見守っておれ」
「承知しました」
グレンが深く頭を下げ、戻っていこうとすると・・・ふと、神龍が声をかける。
「で、グレンよ。奴を伴侶に迎えるのはいつだ」
ピタッとグレンの足が止まる。な、何です突然!?と、真っ赤な顔で慌てて振り返るグレン。
「代々、神龍の使いは監視した外部者と親密になり、婚姻関係を結ぶことで国民権を与えた事例が多い。現にお主の育て親もそうだろう。片親がフェルスタン王国の者だったが故に、ジェイムズ・ポスターがフェルスタン王国から来たと気付いたではないか」
「し、神龍様!いくら我が国の婚姻に、性別は関係ないとしても!」
「では何故お前は、出会って数時間しか経っていなかった奴の入国に、あんなに積極的だった。いつもなら入国意志は入国者のみが提示する。それに密猟者どものように、悪影響を及ぼす危険があったにも関わらず、だ」
「そ、それは、色々助けてもらい・・・その恩義で」
「世話にも妙に積極的ではないか、国民にも受け入れられるよう動いて」
その後の言葉が出ない・・・何故あんなに彼に対して、自分はこんなに必死なのだろう。あの雨の日、最初に会ったときはそこまで心は動いていない。フェルスタン王国の魔術学園のフードを見て、あぁ魔術が使えるんだとだけ感じた。
だが彼に助けられ、彼と関わる内に・・・仲良くなりたい、と本能が思った。勿論助けてもらった恩義、魔術への憧れもあるが・・・。
「・・・俺は、ジェイを好いていたのか。アイツを、ただのすれ違った仲ではなく・・・」
ボソリと呟いた、次の瞬間。「神龍さま、神龍さまぁああ!!」と、幼い子供2人が子供ドラゴンと共に神殿に駆け込んできた。
「たたた、大変です!ジェイ兄さんが、兄さんが・・・・・・!」
「落ち着け、何があった?」
「真っ黒なフードの変な人に・・・・・・連れ去られたんです!!」
その叫びに、グレンの呼吸が止まる。衝撃を通り越した彼は、無となった。
●
●
フェルスタン王国、処刑者が収容される地下牢。魔術封じの手錠と足枷を付けられ、囚人服となったジェイムズ・ポスターは、無機質な鉄の檻をジッと見つめていた。
あれは1カ月ほど前、龍の国でいつも通り、魔術による奉仕活動をしていた時。龍人と人間のハーフである幼い兄妹に、罠に掛かった子供ドラゴンを助けてと言われ、国境ギリギリの森にやって来た。また密猟者だと、急いで罠を外していて・・・周囲を囲まれたと気付くのが遅れた。
次の瞬間、口と鼻を覆う薬品の強烈な臭い。その状況下、兄妹とドラゴンを逃がす瞬間移動魔法が精一杯だった。彼らの狙いはドラゴンではない、自分だ。そう気付いたときには意識を失い・・・気付けば、この地下牢にいた。
フェルスタン王国において、ジェイの悪魔使いの噂は「病気を蔓延させようとした」「王国を支配しようとした」と、あらぬ方向へ進んでしまっていたのだ。婚約破棄をされた後、国外逃亡をしていたジェイは「黒魔術を極めて国家転覆を企てている」という疑いをかけられ、指名手配されていた。それを密猟者どもが捕まえたというわけだ。
裁判は、異常な早さで一方的に進まれてしまう。実家から勘当されていたのは想定内だが、「正常でない、愚者がやるようなモノ」「本気で悪魔になろうとしていた」などと、今までのジェイの魔術研究を非難する証言が彼を追い詰めていく。
頭が白くなり、あの時みたく「はい」としか返事が出来ないジェイ。次第に自分の無実に自信がなくなり、自分を責めることばかり考えるようになっていた。
あの時、婚約破棄されようと動いていなければ。黒魔術に手を出していなければ。自分のためなんかに動いていなければ、こんなことにならなかったかもしれない。
結局、僕は私欲まみれの人間だったじゃないか・・・!!
そして言い渡された公開処刑。執行日は明日。異常な早さには、見張り兵も驚いていたようだ。
「なぁ、何でジェイムズ・ポスターの処刑はこうも早いんだ?そりゃあ、国家転覆を企てたのは重罪だろうけどさ」
「・・・コイツはちょっとした噂なんだけど。実はジェイムズって野郎、国外逃亡中はずーっと龍の国にいて、ドラゴンの密猟を防いだりしてたそうだ。で、それを龍の鱗とかの素材を扱う輩が不満に思ったみたいで。適当に理由付けて捕まえたってよ。
その中には、フェルスタン王国の王族・・・第三王女が支援する団体もあったそうで。ポスター家もそこのおこぼれで財政潤ってたのに、婚約破棄が起こるわ龍の素材は減るわで、双方散々な目に遭ってたと。で、色々狂わせたジェイムズ・ポスターを制裁する意味合いもあるらしいぜ」
「おいおい、司法に私用を持ってきちゃダメだろ」
「まぁソイツは曖昧な裏の話。世間には“国家転覆”が強く主張されてるからな。それだけでも、処刑される意味はあるだろう」
ボーンボーンと、遠くの時計台が夜更けを告げる。そろそろ交代だと、彼らは持ち場から離れていく。
ジェイには、全てが右から左へと流れていく。何かを考える余裕など彼には無い。抜け殻のように、冷たい石の壁に寄りかかっていた。
読んでいただきありがとうございます!
楽しんでいただければ幸いです。
「下」は明日夜に投稿する予定です。