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「悪魔使い」で嫌われたはずが、神龍の使いに好かれてます 上

趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。


婚約破棄から始まりますが、女性→男性への通告って、女性の父親通じで行われるモノなのでしょうか・・・うーむ。



「ジェイムズ・ポスター!貴様に娘は預けられん、この場をもって婚約破棄とさせてもらおう!!」



魔法使いの国・フェルスタン王国。その王城で今日、第三王女マリーの婚約相手だったジェイムズ・ポスターは、国王によって婚約破棄された。周囲からは「やはりか」という雰囲気が醸され、そこまで波紋は広がらない。


ーーーまぁ、あの“悪魔使い”に王女はやれないよなぁ。


そんなヒソヒソ声にも、国王の怒鳴り声にも、彼は動じない。ただ「はい」と答えるだけ。


「ほぉ?つまり貴様は、自らを悪魔使いと認めるのか!」


「はい」


「ならば出て行け、2度と玉座に姿を現わすな!」


「はい」


周囲の罵倒にも顔色1つ変えず、ただ返事をして背を向けた。


「おいジェイ!このような場で反論1つもないのか!?」


「ポスター家がどうなっても良いの!?」


「ジェイ、何か言え!まだ頭を下げれば、許しが・・・!!」


非難囂々を上げる両親や兄たちをの言葉全て無視して、立ち去っていくジェイムズ。



「よっしゃぁあああ!!これで自由だ、心おきなく魔術に没頭出来るぞぉおお!!」



王城を出た途端、ずっと待ち焦がれていた婚約破棄と、これからの明るい未来を喜ぶよう叫んだのだった。


彼はジェイムズ・ポスター、通称ジェイ。下級貴族ポスター家の三男であり、国立魔術学園では在学中主席であった経歴を持つ。その能力を見込まれ、年の近い第三王女の婚約者に選ばれたのだが・・・正直、ジェイは嫌だった。


王族と結婚したら、ずっと狭っ苦しい王城に閉じ込められて、やりたくもない国務をしなくちゃならないじゃないか!地位や富よりも魔術研究がしたい。好きな魔術を極めることに一生を費やしたい!という人間だったからだ。


とはいえ、彼1人の意見で変わることなどあり得ない。こちらから断るなど、実家が絶対に許さない。魔術に没頭する自分を毛嫌いし、結婚させようとした実家にも嫌気が差した。勘当されても構わない。


(向こうから婚約破棄させるには・・・僕の評判を落とせばいいのか)


そこで決行したのが、黒魔術に没頭することだった。黒魔術は、他の魔術より強大な力を有する。一方で術自体が凶悪であり、術者にかなりの負担になるモノも多い。伝説には「国が1つ滅びた黒魔術」があったらしい。黒魔術を極める者は“悪魔使い”とされ、世間からあまり良い目で見られない。コレを極めてやろうと、学びだした。実際にやってみると、結構面白かったらしいが。


黒魔術に手を出した噂を広めることで、婿にした際の不利益を増やし、向こうから婚約破棄させてやる!という作戦だったのだ。それが見事に成功し、ジェイはウハウハになる。実家に戻る気も無いため、その日の内に国外に逃げ出した。


「魔術が使えるなら、浮浪の身になっても良いし。久しぶりの自由だ、何しようかなぁ」


王女の婿だと囃し立てられ、婿教育を当てもなく受け続けた数ヶ月は最悪だった。それから解放された、この幸福感!これで好きな魔術に没頭できるぞ!スキップをしながら、放浪者なみに旅に出ることになる。


「・・・そうだ、本で読んだ“龍の国”に行こう。あの国は、この巨大な王国が唯一正常な交易を結んでない国だし。それに希少品として出回る“龍の鱗”は、魔術に使える逸品だし!」


とりあえず、最初の目的地は決まったようだ。鞄1つだけ持って、ジェイは自由の1歩を踏み出すのだった。



龍の国とは、強大な力を持つ「神龍」が統治する国のこと。人々はドラゴンなど、龍系統のモンスターと共に生活する。他国とあまり交流せず、長きに渡り独自の文化を築いている国なのだ。


龍の国までの道はかなり長く険しい。野を越え山を越え、何度も野宿をして進んでいく。とはいえ魔術を使えば暖を取り料理も出来る、綺麗な水も飲める、森や川などで食材も調達できる。何だ、結構浮浪でも生きられるじゃん、と満足げなジェイ。


そんな道中、ジェイはとある山で大雨に見舞われた。羽織ったフードで凌いではいるが、止みそうにない。


(天候を変える魔法もあるけど、面倒だし。自然に止むまで、どこかに身を潜めるか)


キョロキョロ辺りを見回すと、運良く洞窟のような場所を見つけた。「助かったー」と雨粒を拭い、ヒョイと洞窟に入ると・・・そこには先客が。じっと外を見つめている、背の高い赤髪の男性。同じくここで雨宿りをしているのだろう。


「おっ、お前も雨宿りか。結構降ってるもんな」


「あ、す、すみません・・・」


「あ、別に出ようとしなくて良いって。もっと奥に来いよ、風邪引くぞ」


彼は急に来たジェイにも寛容で、共に洞窟にいるのも気にしないでくれた。ジェイがふぅと息をつきフードを脱ぐと、濡れた黄緑色の短髪が露わになる。


「そのフード・・・フェルスタン王国にある魔術学園の卒業生が貰えるモノだよな。しかも成績優秀者の証である、フェニックスの羽付き」


「え、あ・・・そ、そうです」


急に話しかけられたので、人見知りのジェイは驚いた。何せこの方、人前では上手く話せない。婚約破棄の場でも、片言の「はい」しか話せなくなるくらいに。


よく魔術学園のことを知っているな、同じフェルスタン王国の人だろうか。色々思っても、馴れ馴れしく話したら失礼だろう・・・と言葉が詰まる。いつものように、相打ちしか打てなかった。


「お前は、魔術を使えるのか?」


「え、えぇ、まぁ」


「その・・・初対面で図々しいんだが、頼みがある。天気を変える魔法、出来るか」


急な頼みに、今度はえぇ!?と驚きを露わにする。


「実は俺、急いで国に戻らなくちゃいけないんだ。頼まれていた“ペガサスの翼”を運ばなくちゃならなくてさ。でもコレ、水に濡れたら使い物にならなくて・・・この雨の中じゃ、どうにも動けねぇ」


ペガサスの翼!龍の鱗並みに希少なモノであり、フェルスタン王国でもあまり見かけない素材。ジェイも喉から手が出るほど欲しい逸品だ。


「勿論、ただ働きにはさせない。お返しに何か1つ、お前の願いを聞くからさ」


でしたら、そのペガサスの翼を・・・と、ジェイは喉まで出かかって押さえ込む。この人は困っているんだ、まずは助けなければ。


「わ、分かりました。僕の力が及ぶか分かりませんが・・・」


ジェイは鞄から愛用の杖を取り出した。すぅーっと息を吸い、心を空にさせるように集中する。そして、杖先を雨雲に覆われた空に向けた。そして、大きく杖を振る。


刹那、放たれる一筋の光。電気のように雨雲に突き刺さったと思えば、雲に切れ目が出来て、パアッと日光が降り注がれていく。やがて1分もすれば雨雲はまちまちになり、空は快晴ともいえる天気に変わった。


「す、凄い!お前、凄いじゃないか!」


「い、いえ・・・お役に立てて、良かったです」


「こんなに良い天気なら、いつもより順調に()()()()だな」


え、飛べる?その言葉を不思議に思えば、彼はメキメキとその姿を変えていた。強靱な角や牙、大きな翼に爪、そして赤い鱗・・・一目で、彼がドラゴンだと分かる。ドラゴンはずっと、書物の絵でしか見たことがなかったジェイ。こんなにも大きく立派な生き物なのかと、目を丸くした。


「あ、説明してなかったな。俺はグレン、龍の国に住む龍人なんだ。人にもドラゴンにもなれる」


龍の国!?龍人!?今の目的地やら希少種やらが飛び出て、ジェイは色々追いつかない。


「ペガサスの翼は、いわゆるお使いって感じ。ともかく、雨を止ませてくれてありがとうな。お礼に1つ何か叶える」


そうだったのか、ならペガサスの翼をもらうのは諦めよう。それならばと、ジェイの中でとある願いを口に出した。


「で、でしたら・・・龍の国に案内してください!僕、そこを目指して、旅をしていて」


「龍の国にだな、良いぜ。それなら飛んだ方が早いな。乗り心地悪いかもだけど、俺の背に乗れ」


グレンは少しかがんで、ジェイを背に乗せてくれた。実際のドラゴンに初めて触れれば、その肌や鱗の堅さに驚く。


「行くぞ、捕まってろ!」


その言葉を合図に、真っ赤なドラゴンは晴天へと飛び立つ。強風に一瞬顔を伏せたが、次に顔を上げれば、そこは広い大地が広がっていた。木々の緑も、水の青さも、大地も全てキラキラしている。その輝きは、これから行けるであろう龍の国がどんなところなのかを考える、希望や興奮を示しているかのようだった。


なんて思っていると「そういえば、名前は?」と、グレンが尋ねてくる。


「ぼ、僕は・・・ジェイ、です」


「ジェイって言うのか!良い名前だな。さっきの魔術、凄かったぞ。龍人は基本魔術は使わない種族だから、魔術使えるのが羨ましいな」


「い、え、あ・・・はい」


いつもの人見知りで口下手さが出て、呼ばれ名での自己紹介になってしまう。グレンがあまり追求してくれなかったので良いが。それからグレンは色々話してくれたが、ジェイは「えっと」と戸惑い、「はい」を繰り返すばかり。


誰かと会話することもいつぶりだろう。魔術研究に没頭してばかりで、学園でも実家でも孤立気味だった彼には、グレンの全てが新鮮だった。


幾つもの谷をすり抜け、霧を分けて飛ぶグレンに乗ること数十分。この山を越えれば龍の国の中心だと、グレンが教えてくれた。いよいよだ・・・と目を輝かせていると、グレンの目が何かを捉えた。


「あれは・・・密猟者ども!」


えっ?と思い下を見れば、そこは小さな森。子供ドラゴンを袋に詰めていく、黒いフードの者たちが見える。そういえば龍の国近辺では、ドラゴンの鱗や牙、子供を狙った密猟者が後を絶たないと聞く。


「悪い、ちょっと暴れるぞ!捕まってろ!!」


グレンはバッと翼を広げ、密猟者に狙って急降下する。奴らは「うぉお!?」と驚いた様子で、空から舞い降りた赤いドラゴンに驚いていた。連携がばらけたようで、袋に詰め込まれたドラゴンの子供たちは、自力で破って一目散に逃げていく。


商品が!と慌てる彼らに対し、爪で引っ掻き攻撃していくグレン。「くそったれ!」と密猟者の1人が、火の魔術を放つ。轟音を立てて翼に当たると、グレンは身をかがめつつ地面に着地する。ジェイが背からずり落ちれば、彼は人間の姿に戻っていた。


「お前ら、何をしていた!ここのドラゴンたちは、俺たちの住む龍の国と強い繋がりを持つ。こうして密猟するなど、断じて許さない!」


「ちっ、龍の国の奴か!テメェらは龍の鱗やらの貿易量を制限して、利益を独占してやがるじゃねぇか!!」


密猟者の1人の物言いに、グレンはカチンときた。


「利益だと!?そもそも龍の爪や鱗は元来、命尽きたドラゴンの生きた証として残すモノ。魔術の源として活用することは許すが、利益のために売買されるなど、俺たちは望んでいない!ましてや、幼いドラゴンを捕らえて売りさばくのは論外だ!!」


「うるせぇ、邪魔しやがって!!」


先程と同じ者は次の瞬間、強力な火球をグレンに放つ!しまった、避けられない・・・とグレンが焦った瞬間。バシン!!とグレンを守るように現れた、強力な水の魔術。火球は水に飲まれ、そのまま消えてしまった。密猟者がハッと見れば、そこには杖を構えるジェイの姿。


「やべぇ、ジェイムズ・ポスターだ!アイツは“悪魔使い”だぞ!!」


密猟者たちが騒いでいる内に、ジェイは大地から巨大な植物を生やしていく。植物は強靱な蔓で、密猟者たちを次々と捕まえた。その後、龍の国の警備隊が来て、捕まった密猟者たちは連行された。


悪い奴らを捕まえられたのは良いが、自分のことが知られてしまう。危ない黒魔術を使う悪魔使い、先程の植物にも多少黒魔術を使ってしまった。グレンになんて弁明しようと思っていると、彼は怖い顔もせず、「ありがとう、ジェイ!」と変わらず目を輝かせている。


「あんなに大勢の密猟者、実は相手するの初めてでさ。お前の魔術があって助かった!また助けてもらっちゃったな」


「え、あ、え・・・」


こんなに褒めてくれる人、初めてだ。その明るさに少し戸惑いつつ、こっそり喜んだジェイだった。

読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです。

「中」は明日夜に投稿する予定です。

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