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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

貴方を救う英雄ではない

掲載日:2023/04/01

貴方は読みきることが出来るだろうか?

お前は待ち続けることが出来るだろうか?

貴様は振り回され続けてもついてこれるだろうか?


俺が相手だ。全員喰ってやる。

あんたらの、時間、資産、思考、生命全て。


かかってくるがよい。読者ども。

心して、参れ。

「マ▪▪▪タコノノノノ▪▪▪テテテテンカイネ」

やれやれと言わんばかりに首を横に振りながら、小さくため息を吐く。

それと同時に、赤黒い血のような光を放った筆先をそいつに向けた。

「俺っちに、何の用だい。お姉ちゃんよ」

齢は16といったくらいか。見た目はまるで女子高生だ。

眼球がないことを除いては。

「ワタ▪▪▪シコノ▪▪▪エガエガエガスキナノオオオ」

今度はふふっと、鼻で笑った。

ここですぐに理解した。今回の相手はホラーやそこらだろう。

うじゃうじゃと湧き続けるこの化け物は、こちら側の時間なんて全く気にしてはくれない。

本当に自分勝手なご都合主義だ。まあ、それはお互い様か。

「気持ち悪いねえ。でも残念ながら絵なんてどこにもねえぞ。この世界にはよ」

彼女と意志疎通が取れないと分かっていながら、そう呟いた。

目や口が無数にある怪物や、人とは異なった構造のモンスターを期待されても困るんだよ。

そう思いつつ、もう一度そいつを見た。

やはり、眼球がない。

両方とも抉り取られているように、からっぽだ。

片側からは涙ではない、何か赤い液体が滴り落ちている。

もしも涙であれば、ハンカチくらい渡してやるが今回ばかりはお断りだ。そもそも先に拒否したのはそっちなんだから。

そろそろか、と相手の急所に意識を集中させる。

「あばよ、お姉ちゃん。違う世界へ逝ってくれ。ここはお前さんが来るような場所じゃねえんだわ」

そのときにはもう、筆先が両目に突き刺さっていた。

どばっと、赤い液体が大量に滴り落ちる。気色が悪いにも程がある。

そして、そいつは足先から黒い水蒸気となって消えていく。

別れの言葉を少しだけ期待してはみたが、当然なかった。

そして跡形もなく消え去ったいくのを卑屈な顔で眺めながら、煙草に火をつけた。


「汝身分相違、浅思慮恥」

今度は和服姿の爺さんか。そいつは理解不能の言葉をつぶやき、どこからともなく目の前に現れた。

髪の毛はぼさぼさだが、前側から禿げてきているようだ。胸元が少しはだけていて、どこかだらしない印象を受けた。

それにしてもあぐらをかいて、腕を組んでいる仕草がなんとも偉そうだ。

「相も変わらず、あんたたちは節操がないねえ。今何時だと思っていやがる」

目を擦りながら、そいつをよく見ると両方の耳がない。

「文学己崇高、学事生一」

耳がない上に、瞼は閉じているのでコミュニケーションをさっさと諦める。

そのとき「ああっ」っと感嘆を漏らした。

何となく見覚えがあるそいつは、どこかの文豪だった。

なるほど、と心の中でつぶやく。

今回の相手は、どこぞのくだらない純文学みたいだ。

小学生のときに読んだその小説は、今思い返してもよく思い出すことができる。

強烈なインパクトは、読み終わったあと脱力感を覚えるほどだった。

「あまりのつまらなさにだよ」

嘲笑を交え、ぼそっとつぶやいた。

それでもこいつの恐ろしいところは、最後まで読みきらせてしまうところだ。

漫画や映画のような描写であれば、つまらないと感じたらすぐに見ることをやめるだろう。

しかし、文章という描写は文字の羅列でしかない。読み始めたら、簡単にはやめられないのだ。

「あんたに奪われた俺っちの時間、あんたから奪い返させてもらうよ」

一応、宣戦布告しておく。何故ならば、もう急所に意識を定めたからだ。

その瞬間にはもう既に、両耳へ筆先がめりこんでいた。

そうだ、あのつまらない話はどういう意味があったのか。

尋ねようと思った頃には、禿げ上がった額から下はもう消えていた。

機会を失ったことにうなだれつつ、煙草に火をつけた。

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