貴方を救う英雄ではない
貴方は読みきることが出来るだろうか?
お前は待ち続けることが出来るだろうか?
貴様は振り回され続けてもついてこれるだろうか?
俺が相手だ。全員喰ってやる。
あんたらの、時間、資産、思考、生命全て。
かかってくるがよい。読者ども。
心して、参れ。
1
「マ▪▪▪タコノノノノ▪▪▪テテテテンカイネ」
やれやれと言わんばかりに首を横に振りながら、小さくため息を吐く。
それと同時に、赤黒い血のような光を放った筆先をそいつに向けた。
「俺っちに、何の用だい。お姉ちゃんよ」
齢は16といったくらいか。見た目はまるで女子高生だ。
眼球がないことを除いては。
「ワタ▪▪▪シコノ▪▪▪エガエガエガスキナノオオオ」
今度はふふっと、鼻で笑った。
ここですぐに理解した。今回の相手はホラーやそこらだろう。
うじゃうじゃと湧き続けるこの化け物は、こちら側の時間なんて全く気にしてはくれない。
本当に自分勝手なご都合主義だ。まあ、それはお互い様か。
「気持ち悪いねえ。でも残念ながら絵なんてどこにもねえぞ。この世界にはよ」
彼女と意志疎通が取れないと分かっていながら、そう呟いた。
目や口が無数にある怪物や、人とは異なった構造のモンスターを期待されても困るんだよ。
そう思いつつ、もう一度そいつを見た。
やはり、眼球がない。
両方とも抉り取られているように、からっぽだ。
片側からは涙ではない、何か赤い液体が滴り落ちている。
もしも涙であれば、ハンカチくらい渡してやるが今回ばかりはお断りだ。そもそも先に拒否したのはそっちなんだから。
そろそろか、と相手の急所に意識を集中させる。
「あばよ、お姉ちゃん。違う世界へ逝ってくれ。ここはお前さんが来るような場所じゃねえんだわ」
そのときにはもう、筆先が両目に突き刺さっていた。
どばっと、赤い液体が大量に滴り落ちる。気色が悪いにも程がある。
そして、そいつは足先から黒い水蒸気となって消えていく。
別れの言葉を少しだけ期待してはみたが、当然なかった。
そして跡形もなく消え去ったいくのを卑屈な顔で眺めながら、煙草に火をつけた。
2
「汝身分相違、浅思慮恥」
今度は和服姿の爺さんか。そいつは理解不能の言葉をつぶやき、どこからともなく目の前に現れた。
髪の毛はぼさぼさだが、前側から禿げてきているようだ。胸元が少しはだけていて、どこかだらしない印象を受けた。
それにしてもあぐらをかいて、腕を組んでいる仕草がなんとも偉そうだ。
「相も変わらず、あんたたちは節操がないねえ。今何時だと思っていやがる」
目を擦りながら、そいつをよく見ると両方の耳がない。
「文学己崇高、学事生一」
耳がない上に、瞼は閉じているのでコミュニケーションをさっさと諦める。
そのとき「ああっ」っと感嘆を漏らした。
何となく見覚えがあるそいつは、どこかの文豪だった。
なるほど、と心の中でつぶやく。
今回の相手は、どこぞのくだらない純文学みたいだ。
小学生のときに読んだその小説は、今思い返してもよく思い出すことができる。
強烈なインパクトは、読み終わったあと脱力感を覚えるほどだった。
「あまりのつまらなさにだよ」
嘲笑を交え、ぼそっとつぶやいた。
それでもこいつの恐ろしいところは、最後まで読みきらせてしまうところだ。
漫画や映画のような描写であれば、つまらないと感じたらすぐに見ることをやめるだろう。
しかし、文章という描写は文字の羅列でしかない。読み始めたら、簡単にはやめられないのだ。
「あんたに奪われた俺っちの時間、あんたから奪い返させてもらうよ」
一応、宣戦布告しておく。何故ならば、もう急所に意識を定めたからだ。
その瞬間にはもう既に、両耳へ筆先がめりこんでいた。
そうだ、あのつまらない話はどういう意味があったのか。
尋ねようと思った頃には、禿げ上がった額から下はもう消えていた。
機会を失ったことにうなだれつつ、煙草に火をつけた。




