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72 桃香の秘密2

 桃香はセーラー服を着て来て、洗面所で髪にドライヤーを当てている。


「じゃあそろそろ行きますか」

 俺と氷室さんは立ち上がる。


 桃香が外出する前に先回りして、タワマン前に止めた車に乗り込んでおく。桃香が出掛けたら尾行するのだ。


 黒塗りの車の運転席に氷室さん、助手席に俺が座る。二人ともサングラスをしている。かえって怪しいような気がするのだが……桃香は歩きスマホをする子だからバレないだろう。

 

 今日はリムジンの運転手さんじゃなくて、氷室さんが運転してくれるという。少人数の方が目立たなくていいから。


 天気は曇り。雨は降らない予報だ。


 氷室さんは膝の上でタブレットを操作している。これで部屋の様子がある程度わかるという。


「やっぱり盗撮してるんじゃないですか?」

 俺はかねてよりお嫁様バトルロワイヤルがテレビの企画だと疑ってて、こっそり撮影されてるんじゃないかと思っている。


 タブレットを覗きこむと、写真や動画は映っていない。謎のグラフが表示されている。


「わかるのは、電力などの使用量です。おおよその生活スタイルが想像できる程度ですよ」

「へえ、そんなことが?」


「水道とガス使用量が増えたらシャワーを浴びているな、とわかります」

「ああ、なるほどね」


 しかし、これはカモフラージュで、本当は盗撮してそうだ。


 タブレットにポップアップが表示される。

「おっと、玄関のドアが開きました。桃香様が外出しますよ」

 ドアの開閉もわかるようになっているみたいだ。


 俺はタワマンのエントランスの方を見ている。

 自動ドアが開いて桃香が出てきた。


 右肩にリュックを背負って、歩きスマホしている。


「危ないよなあ」

 俺は桃香が通行人にぶつかってケガしないかヒヤヒヤする。だけど出て行って注意するわけにはいかない。


 桃香はタワマンの敷地から出て、歩道を進んで行く。

 氷室さんはなかなか車を発進させない。


「見失っちゃいません?」

 俺は焦る。


「大丈夫ですよ。桃香様のスマホのGPSで位置がわかるようになっています。だから目視で追いかける必要はないんです」

 氷室さんがタブレットの画面を切り替える。地図が表示されて、真ん中で△がピコピコ動いている。△が桃香のいる位置を示しているようだ。


「すごい……さすが離婚弁護士。探偵みたいなこともやるんだ」

「法廷で説明しないといけませんので、探偵のノウハウは一通り習得しています」

 

 スマホで位置情報がわかったら、行動が全部バレるね。不倫相手とホテルに入っていくところや、出て来るところを証拠として写真に取り放題だ。


 やっぱり氷室さんは俺たちの行動をほぼ完璧に監視している。

 いつでも桃香の所在を確認できたら、車で待っている必要がなかったように思える。


 刑事ドラマみたいに、アンパンと牛乳で張り込みをしなくてもいいじゃん。

 氷室さんが早く教えてくれれば良かったのに。


「ちなみに行動パターンは記録されて、普段と違う行動を取ったら、AIがアラートを飛ばすシステムになっています」

「めっちゃ高度なことをやってるんですね!」


「今どき浮気はすぐバレますよ」

「……俺は浮気しませんって」


 氷室さんが手の内を明かしてくれるのは、俺に警告を与えるつもりなんだろう。お嫁様バトルロワイヤルが終わって、結婚した後で浮気をしないように。

 

 万が一、俺が浮気をしたら、お嫁様と氷室さんにボコられる。

 絶対にやめておこう。


 桃香の行先はイマイチ高ではない。しかしタブレットにアラートが表示されないということは、桃香はいつもどおりの行動をしていることになる。


「どこに向かってるんだろう」

「家ですよ」

 氷室さんが答えてくれる。


「ふーん、桃香ん()はあっちの方なんだ。児童養護施設と同じ駅裏だけど、行ったことない辺りだな……桃香は家に何しに行くんですか?」

 バトルロワイヤル参加者の女の子たちは、タワマンで暮らさないといけない。実家に行っている子がいるとは聞いていない。


「……そろそろ車を出します。桃香様の家に先回りです」

 氷室さんは俺の質問に答えない。タブレットを横に置いてハンドルを握った。


 俺は桃香の秘密を知るのが、悪い気がする。

 そして、ますます怖くなってきた。


 ……でも怖いもの見たさで、見てみたくはある。何が出てくるのか……

本作の短編版

『1兆円持ってる俺は、ギャンブルで無双して美女にデレられてしまう~日常的に美少女を競わせてリアル版ウ〇娘やってるようなもんだからね』を投稿しました。


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