7 巨額の遺産相続
◆◇◆
一人で児童養護施設に帰る。
千紘姉さんと帰る時もあるが、今日は部活があるらしい。
千紘姉さんは家庭科部の部長である。お料理するのがメインの部活だから、母性的な千紘姉さんにはぴったりである。
俺も入部してとよく誘われているが、女性ばかりの部活なのでさすがにためらっている。
「ただいまー」
玄関で職員のおばちゃんがあせった声をかけてくる。
「大変、幸斗君、弁護士の人が見えているわよ」
「弁護士? なんで?」
キョトンとする。
「お待ちになっているから、さ、早く」
逡巡しているとおばちゃんが、応接室の方に行けと手を振る。
応接室は児童の親族とかが面会に来る場所だ。身寄りのない俺はほとんど利用したことがない。
ドアを開けると、ソファーに掛けていた人が立ち上がる。女性が二人。
一人はアラサーで、メガネがキリっとしたベリーショートの美女。グレーのスーツ姿だ。胸元に金色のバッチが付いている。前にテレビドラマで見た弁護士の人が付けていたような気がする。
もう一人はイマイチ高のセーラー服。思わず見とれてしまうようなセミロングの艶っとした黒髪の美少女で息を呑んだ。
校内で見覚えはない。こんな美少女がいたら忘れないはずだが……
女の子の胸元をチラ見してしまうのは男子高生の性。けっこう膨らんでいるから、推定Dカップ。
スーツの女性が名刺を差し出してくる。
「弁護士の氷室零子と申します。六文銭幸斗様ですね」
「は、はい」
俺に様づけ!? 冷たそうな名前の人が一体何!?
氷室さんはソファーに掛けるよう促すので、向き合って座る。美少女も座った。
「昨日、幸斗様のおじい様の六文銭昌幸様がお亡くなりになりました。お悔みを申し上げます」
全く思いがけないことを言う。
祖父?……そりゃ自分にもじいちゃんはいたんだろうけど、どんな奴か聞いたこともない。
美少女が何者なのか早く聞きたいのだが、紹介は祖父の話の後でなされるようだ。
「私はおじい様の遺言執行人を務めています」
氷室さんがメガネの蔓を押さえながら話を続ける。
「はぁ」
じいさんが死んだらしいが、会ったことがないから感慨が湧かない。じいさんが、様づけで呼ばれるから、孫の俺も様をつけられるんだってのはわかった。
「おじい様は、幸斗様の存在を大変気にかけていました」
「そうですか」
だったら施設から引き取ってくれればよかったのにと思う。
「でも幸斗様を引き取るわけにはいかない事情がありました」
氷室さんは相手の聞きたいことを表情から読み取ることにたけているらしい。
「なんでそんな……」
早く助けてくれて良かったのに。
「おじい様は幸斗が苦労を知らない大人になってほしくなかったのです。裸一貫から成り上がった方ですからね。おじい様は妻に先立たれ、幸斗様のお母さんである一人娘も亡くして寂しそうでした。どれだけ可愛い孫の幸斗様と一緒に暮らしたかったことか。でも、ぐっと我慢して、この施設にわずかな寄付をするだけの影ながらの援助に留めていました」
「へえ、じいちゃんはそんなに金持ちなんですか?」
結構まとまった遺産がもらえるんじゃないかとほくそ笑む。
氷室さんは意外そうな顔をする。
「幸斗様は六文銭昌幸様の名前を聞いたことはないのですか……」
「僕は世間から隔離された児童養護施設の高校生なんで、一般常識を期待しないで下さいね」
「では六文銭ホールディングスなら聞いたことがあるでしょう。日本を代表する企業グループですよ。おじい様はその総帥。総資産は2兆円以上。日本有数の資産家です」
たくさんのブクマ、ご評価をいただきまして、ありがとうございます。




