5 間接キス
「今どき中坊でも気にしないもんなのか……」
俺は恐る恐るペットボトルを受け取る。
桃香の体は多くの男が通り過ぎていったんだろうけど、俺は童貞ですからね。
ドキドキしながら口を付けた。
遠慮して少しだけ飲む。
ごくっ
桃香の唾液が付いていると思うと甘美な味がした。
それに桃香のパパ活は、オッサンと体を重ねてないかもしれないじゃん。オッサンとお散歩して、ご飯を食べるだけとかなんだよ、きっと。
「ありがとう」
俺はペットボトルを返す。桃香の優しさにじーんと来ている。
「えへへっ ゆきとと間接キスだ」
桃香は茶化してくる。ペットボトルを受け取ると、こともなげにまた口を付けた。
ごくっごくっごくっごくっ
俺のツバのついた麦茶を桃香が豪快に飲んでるよ。やっぱり、これはキスしたも同然じゃない!?
ぷはっ
桃香は全部飲み干して、空のペットボトルの底を俺の机に打ち付けた。今、俺の成分が桃香の体内で混ざっていっている……変態だ、俺。
「ゆきとはクリームパン1個じゃ足りないよなー」
桃香は俺がゆっくり食っているのを見とがめる。
味わって食べているのはあるけど、桃香と過ごせる時間を長くしたいってのが大きいのだが。
「い、いや。俺は1個で十分だ」
桃香は俺に気を遣ってくれている。
ほんといい子だ。
「食パン1袋、の方がさ、良かった? コスパ、最高だろ、あれ」
もぐもぐしながら桃香が話す。
「まあ俺は同じ値段だったら、量が多い方を選ぶかな」
「だよなー」
桃香はにんまりする。
俺と気が合うってことは桃香家の暮らしは楽じゃない。
ギャル=パパ活って偏見だろ。本当はパパ活なんかしてないよなって聞いてみたい。
でも俺は本当のことが怖くて聞けない。
桃香の貧困ぶりからすると、ますますパパ活やってそうに思えてならない。
桃香は残りのクリームパンを食べ終わると袋をくしゃっとした。俺はまだクリームパンが半分近く残っている。
「さてと、職員室行かなくっちゃ。生活指導のせんせーに呼び出されているんだよねー 飯食ったら来いって。めんどくさー」
「何かやったのか?」
俺はドキッとする。パパ活で補導されたとか!?
「ううん。1年の時はお情けで進級させてやったけど、2年はそうはいかねーぞって説教されるんじゃね」
桃香がリュックを持って立ち上がる。
「大丈夫なのかよ?」
「よゆーよゆー」
いや、出席日数が足りなくなるのはもうどうしようもないんじゃ……
「ええと、ほんとにありがとう」
「いいっていいって。またなー ゆきとー」
桃香は軽く右手を振るので、俺もバイバイする。
ふんふーん
鼻歌まじりに軽やかな足取りで教室の前扉から出て行ってしまった。生活指導に説教されるのを、全く気にするようには見えない。
桃香の外見は不良だが、本当はやさしい子だよ。
他人に元気を分けてくれる面もある。
先生もわかってくれて、大目に見てくれるといいんだけど……俺が先生に言っても無駄だろうな。
一人残された俺はしみじみ味わって食べた。
桃香は戻ってこなかった。職員室に行った後、そのまま帰ってしまったようだ。
本当に行動パターンが読めない気まぐれなアゲハ蝶みたいな子だな。




