32 藍と千紘姉さんのコスプレ
「2番手は、藍様です。こ、これは麗しい姿」
氷室さんが藍の部屋のドアを少し開けて、驚きを漏らす。
俺は氷室さんの前振りを聞いただけで、びっくり。
藍は毒舌家だからな。「コスプレなんて下らない。変態の先輩にはつきあってられません」と言いそうなのに。何かのコスプレを真面目にやってくれたなんて。
無言で部屋から出てきた藍――
新撰組の服装だ。
水色の羽織で、袖にはギザギザの白い縞がある。灰色の袴と白い足袋を履いている。
腰には刀を差している。ショートの髪型はそのままだが、鉢金つきのハチマキをしている。武道家の藍らしい、戦闘的な姿である。
「素敵です。沖田総司が女だったらこんな感じかと思わせますねえー」
氷室さんが大興奮。
確かに男装の麗人として、藍はキラキラ輝いて見える。
藍はゆっくり刀を抜いて、しゃきーん、と俺の方に構える。
「先輩、士道不覚悟は斬りますからね」
役になり切った感じのセリフを言い放つ。
真剣じゃなくて、おもちゃの刀だろうけど。
新撰組って、敵に背中を見せて逃げたら処刑されるんだよね。
お嫁様バトルロワイヤルで逃げるつもりはないし、他の女子に負けるつもりもない。藍からそんな気迫が伝わってくるんだけど……そこまで熱い気持ちを藍が抱いているとは……
藍にフラグを立てた覚えはないんだが、いつの間にか立ってるの……? よくわからない……
「幸斗様、感想はいかがですか?」
「かっこいい。よく似合ってるよ。まさか藍が本気でコスプレしてくれると思わなかったから、うれしい。ありがとう」
俺は拍手しながら答える。
藍がバカバカしい課題につきあってくれて、感謝感謝である。
誰か一人でもノリが悪いと、雰囲気がぶち壊しになるからな。他の子まで「なんでコスプレなんかしてるんだろう」って、ものすごく恥ずかしくなってしまう。
「ど、どうも……」
藍は少しだけはにかむ。俺に褒られて、ちょっとは気を良くしたようだ。刀を鞘に収めて、俺の右に座る。
毒舌な藍が終わって、ホッとした。後の子は安心して見ていられそうだ。
「3番手は、千紘様です。これは可愛らしいわー」
氷室さんが千紘姉さんの部屋のドアを少し開けて、ほっこりする。
千紘姉さんが可愛いってどんなコスプレしてるんだろう。絶世の美女だけど、普段は癒し系のお姉さんって感じなのだが。
「じゃじゃーん」
千紘姉さんの声とともに黄緑色の物体が廊下からズンズン出てきた。
ワニの着ぐるみである。
ワニの顎の奥に、千紘姉さんの笑顔がある。ワニに食べられた人みたいだ。
直立して長い尻尾を引きずっている。丸々と膨れていて、千紘姉さんの魅惑のボディラインは完全に消えている。
両手の鉤爪をクイクイする。
「最年長の千紘さんがお茶目な姿で現れました。どんな妖艶な姿で、大人の女性ぶりを見せつけるかと思われたところですが、幸斗様の予想は完全に外されましたね。なぜワニの着ぐるみを選んだのですか、千紘さん」
氷室さんがインタビュー。
「だって、これ、一目見て可愛いって思っちゃったんです」
千紘姉さんがはしゃいでいる。ウケ狙いではないようだ。
俺を喜ばそうとか思わず、純粋に自分が楽しいことをしている。ワニはコスプレとしては微妙なんだけど、俺は初めて見る千紘姉さんの面白い姿に目を細める。
やっぱり千紘姉さんは和むわー
何をやっても俺の心は癒される。
セクシーな姿をされると興奮するけど、疲れちゃう面もある。
色気ゼロのコスチュームもありだね。
千紘姉さんがボンテージ姿とかで現れたら、俺は鼻血出すと思うから、助かったんだよ。
「がうがう」
千紘姉さんが鉤爪を振り回してうなっている。
「ワニは、「がうがう」って鳴かないと思うけど」
「わにわに」
「いや、「わにわに」とは絶対に鳴かないよ。千紘姉さんは面白いなあ」
「ふふ、楽しいことをさせてくれて、ありがとうね、幸斗」
千紘姉さんはなぜか俺に感謝する。
コスプレを楽しんでくれたみたいで良かった。
千紘姉さんはのっしのっしと歩いて、麿莉奈の左に座った。
残るは、ノリノリでコスプレをやりに行ったエロギャルの桃香と、ニーナちゃんだ。
わくわく……
よろしければブクマ、ご評価、いいね!をいただきますと励みになります。




