23 「先輩」って呼ばれるのは心地よい
「……偶然ていうか、君が助かったのは奇跡だよ」
俺は怒りをこらえるのが大変。
助けてもらっておいて、俺を悪者だと疑っている。
なんて生意気な後輩だ。不良たちに襲われたら、女の子はガクガクブルブルになるものなのに、この子は口が減らない。
よっぽど元々の性格がひねくれているんだろう。
ふっと、女の子が目を逸らす。
「失礼しました。先輩は殴る蹴るの暴行を受けてましたもんね。あれは痛そうでした。演技でここまでやるとは思い難いです」
「まだ痛いよ」
俺は殴られた右頬を撫でる。
「すみませんでした。それに自分なんかを狙う意味はありませんね」
女の子は納得するためにか、自己評価の低い発言をする。
合気道の腕前については自信過剰なくせに。武道をやってるから女子力は低いって思っているのだろうか。
キリッとした自然な美しさを感じるのにな。
「いや、君は自分の身を大事にするべきだ。カス高生を見かけたら迂回する。これが鉄則。先輩としての忠告」
俺は他人に説教するようなキャラじゃないんだけど、これだけは言わせてもらいたい。
女の子は驚いた顔で俺を見返してくる。
だがすぐに、
「わ、わかりました、先輩」
と焦った声で言って、うつむいた。
その後、俺たちは黙って歩く。
俺は女の子にフラグを立てる悪い男と思われないため、余計なことを言わないようにしたからだ。
女の子の家の前まで無事に送り届けた。普通の一軒家だ。
入口の前で、女の子が振り返る。
「ありがとうございました……先輩、あの……」
「ん?」
「名前を教えてもらえませんか。先輩の名前。あとクラスも」
「六文銭幸斗。2―B」
ぶっきらぼうに答える。恩に着せるつもりはない。
「ろくもんせんゆきと……」
女の子は呟いて、憶えようとしている。
「じゃあね」
俺は振り返ろうとする。
「自分は菜々崎藍。1-C、合気道部です」
女の子は自分の情報を伝えようとしている。
「はいはい」
俺は女の子に興味がない。そっけない返事をして、立ち去ることにした。
◆◇◆
藍の名前を教えてもらったけど、もう話す機会はないと思っていた。
道場に合気道部の練習を見に来たのは、心配になったからだ。女の子が不良に犯されそうになったら、恐怖で不登校になってもおかしくないからね。しかも自慢の合気道が通用しなかったんだし。
それと……
藍がバトルロワイヤルにエントリーしているからだ。
なんでやねん?
俺は関西人じゃないけど、関西弁でつっこみたくなる。
氷室さんが5人目の数合わせで、藍を入れたようにしか思えない。適当にやっているな。
この子が俺に好意を抱いているってほんとかよ。
合気道の技が失敗した恥ずかしいところを見られたから、俺をこの世から抹殺したいくらいじゃないのか。
不良に襲われていた藍を助けてやったから、ちょっとは俺に好意を持ってくれているんかなあ……
だとしても俺は藍を好きなわけじゃないから、お互いに好意を抱いているっていうのにも当てはまらない。凛としたところがかっこいいと思っている程度だ。
藍が道場から俺を締め出した様子からすると、まだ氷室さんから説明は受けていないんだろう。
はたして、藍は参加するのかね。
まあでも……俺が1兆円持っているって聞かされたら、藍は金目当てで参加しそうかな。
毒舌なキャラだからなあ……もし俺が貶されて喜ぶドMの変態だったら、金をふんだくってやれると思うかもしれない。
ふ、俺を舐めてもらっては困る。あいにく俺はドMじゃないのでね。藍は戦う前から、負けヒロイン確定だ。
しかし……
美少女の後輩に「先輩」って呼ばれるのは心地よいね。とても生意気な子だとしてもだ。
5人目が全然知らない子であるよりも、藍であることがちょっとは嬉しかったりする。
「変態」って罵られるのも、実は気持ち良かったりもして……
ちょっとだけ、俺は変態なんだろうか……
複雑な気分だな。
放課後に特にすることもない俺は本屋にでも寄ってから帰ることにした。
本作の短編版
『1兆円持ってる俺は、競馬で無双して美女にデレられてしまう』もあります。
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