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2 女神と登校

◆◇◆


「行ってきまーす」

「行ってきますね~」

 玄関の掃き掃除をしている職員のおばちゃんに元気よく声を掛ける。


「はーい、行ってらっしゃい」


 振り返って見ると、児童養護施設はとても古い木造の建物である。

 風雨にさらされ、朽ち果てて、みすぼらしいことこの上ない。

 しかし人の心の温かさに包まれているところなのだ。


 千紘姉さんと一緒に歩いて登校する。


 ここは北陸地方の今岡(いまおか)市。5月の新緑のすがすがしい時候である。

 今岡市は県内2番目の人口を有して、地方では都会の部類に入る。俺たちは駅裏の市街地を通り抜けて、踏切を渡り、大通り沿いの商店街を歩いていく。


 通行人の男の視線は千紘姉さんの顔と胸に向けられているって俺にもわかる。そして俺にも羨望(せんぼう)の眼差しが注がれている。他の男がうらやむ最高の女性と並んでいるのが誇らしい。


 俺は千紘姉さんとつきあってるわけじゃないんだけどね。つきあってとお願いしたら、OKしてくれそう。でも俺は姉弟の関係が気に入っているから壊さないようにしている。


 15分ほど歩いた先にあるのが、今岡第一高校。イマイチ高などとディスられているとおり中堅レベルだ。

 俺にとってはちょっと入るのが難しかったのだが、千紘姉さんと同じ学校に通いたくて少しは受験勉強をやった。


 千紘姉さんは偉いから「社会のみなさまが私たちを育てて下さっているのよ~ 私たちはいずれ御恩を返さないといけないの」と諭す。


 千紘姉さんは高校卒業後は、保育士として働くつもり。母性愛に溢れているからぴったりな仕事だと思う。


 でも保育士って、勝手に動き回る子供の世話をしないといけない大変な仕事。やりがい搾取の代表格と聞く。

 千紘姉さんは3年生だから、あと1年も経たずに卒業だ。俺はイマイチ高に一人取り残されることになる。寂しいよう。


 千紘姉さんをやりがい搾取なんかに遭わせたくないってのもあるし、保育所のガキどもに千紘姉さんを取られると思うと、歯ぎしりしたくなる。


 就職すれば千紘姉さんは当然、児童養護施設を出ていくことになる。家でも俺は孤独になっちゃうじゃないか。

 

 千紘姉さんはわずかな給料で一人暮らし。つつましい生活を強いられそうで、千紘姉さんも大変だ。


 ああ……千紘姉さんには楽をさせたいなあ。でもって俺の専属として、ずっと甘やかして欲しいなあ。


 いっそのこと俺も施設を出て、千紘姉さんのアパートに転がり込めないかな。俺がバイトをすればちょっとは生活に余裕ができるし、何より千紘姉さんと甘々な同棲ができる。


 千紘姉さんは「私たち、このまま姉弟で暮らして行きましょうね」と言ってくれそうだ。うん、結婚するよりも気楽でいい。

 あ、でも姉弟の禁断の肉体関係はあってほしいな。「ふふ、お姉さんが教えてあげるね」って言われたい。「千紘姉さんは処女じゃないか」と俺は言い返す。


「幸斗は新しいクラスに慣れた?」

 千紘姉さんが聞いてくる。


 はっ――

 妄想から引き戻された。


「微妙……」

 俺はコミュ力が低くて、2年生になって1か月経つが友達が全然できない。


 あと、学校一の美女と言われる千紘姉さんとべったりだから男子に敵意を向けられているし。


「幸斗はやさしいから、そのうち女子が気づくわ。幸斗を取られないか、お姉さん心配」

 千紘姉さんは俺を慰めようとして言っているんじゃない。本気で心配してるっぽい。


 実際のところ、男子には全く人望のない俺だが、女子には気に入られているのを感じなくもない。

 何人か話しかけてくれる女子はいる。しかもその子らは相当にかわいい。


 なんでなんだろう……千紘姉さんが言うとおり、俺がやさしいからか?

 孤児院育ちだから、人の痛みってやつには敏感だけどさ。あと、つらい境遇に負けずにひたむきに生きているつもりではある。

お読みいただきありがとうございます。


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