16 ツンデレの変種
「しっかし、麿莉奈はさあ、俺なんかの嫁候補にされていいわけ?」
いいわけないから、意地悪な質問をしてしまった。
「ふふ、ウチは幸斗さんのお嫁さんになりたいわー」
笑いを含んだ声で、すかさず返事がある。
「……えーと、就職活動で「御社が第一志望です」って絶対に言うものらしいけど、そういう類だよね。聞かれたら、こう答えるのが鉄則ってやつ。本当は5番手、6番手だったりしてもね」
俺は来年、就職活動しないといけないから、ちょっとは調べていた。遺産をゲットしたからもう働くことはない。
じいちゃんの遺言に縛られて、麿莉奈は俺のお嫁様候補にされようとしている。麿莉奈の意志ではどうにもならない。
でも俺としては、麿莉奈に本音で話して欲しい。御池電機を救済するために、好きじゃない男と結婚するのは絶対嫌だと言って欲しいのだ。
麿莉奈がダダをこねたら、麿莉奈の両親だって目を醒ますだろう。麿莉奈を人柱にするのは止めて、御池電機を救済する別の方策を考えるんじゃないかな。
「幸斗さんはほんま面白いことを言わはる方やわ。ウチにとって、幸斗さんが5番手、6番手やなんて」
麿莉奈はクスリとしている。
「とにかく、俺は麿莉奈の本音が聞きたいんだ」
「ウチの本音です……だって、ウチは政略結婚で、ずっと年上の男性と結婚させられるんやろうなって思うてた。60才の男性の妻になって抱かれるよりも、幸斗さんの妻にさせていただく方がずっといいわー」
「うぐ……」
麿莉奈の言うことは生々しい。皺くちゃで腹の突き出たジジイに、裸の麿莉奈が汚される場面を想像してしまうじゃないか。
確かにジジイに嫁がされるよりは、同い年の俺の方がずっとマシだろう。
「ウチは金で売られる女や。けどジジイの嫁にされたとして、心までは売らないって思うてた。でも幸斗さんやったら身も心も売りますわー」
磨莉奈は清々しいほどに本音を打ち明けてくれている。
元々の磨莉奈は体は売っても、心は売らないというツンとした性格なんだろう。しかし俺には心を許してもいいと言う。デレるのを予告するツンデレなんだな。
「ほんとに俺なんかでいいの? 磨莉奈には他に好きな男がいるんじゃないの?」
俺は、麿莉奈に将来を誓い合ったイケメンがいたのに、親の言いなりで別れさせられるみたいなことが起きているんじゃないかと心配。
「ぷっ いませんわー」
麿莉奈は吹き出して、口を隠す。仕草がかわいい。
「大丈夫? 俺は仲を引き裂いてない?」
「はい。ウチは男性を好きになっても、その人とは結ばれないから、好きにならないようにしてきました。正直、好きっていう感情がよくわかりません」
「抑圧されてたんだね。上流階級の子も大変だ」
「ですからウチはまだ、幸斗さんのことを好きでもなんでもありません」
テンプレ発言。
「そりゃ、昨日会ったばかりだもん」
俺は苦笑。
「幸斗さんで手を打っとくみたいな理由なのは、幸斗さんにとっては不愉快やろうと思います。でもウチは幸斗さんをこれからいっぱい好きになりたいんですぅ」
麿莉奈はちょっと拗ねた口調で話す。
やっぱり麿莉奈はツンデレの変種。ツンデレなのに、清々しいほどに隠し事をしない。
まだ俺のことを好きではないが、これから俺のいいところを見つけて好きになってくれるらしい。
ジジイと結婚して最悪の目に遭うよりは、俺で手を打っといた方が無難。ついでに御池電機も救済できて一石二鳥。
あと、俺を好きになれた方が結婚生活が楽しくなる。嫌いな男との結婚生活は苦痛でしょうがないだろうからな。
麿莉奈が打算で考えていることはわかりやすい。
「はは、結婚は嫌だって暴れてくれたら応援するのにな。ダメか……」
俺は照れて頭を掻く。
「ウチ……いずれ好きっていう感情がわかる気がします。ほんまはもう好きかも……いえ、なんでもありません」
うつむいて話す麿莉奈の声は最後らへんがよく聞き取れなかった。
本作の短編版
『1兆円持ってる俺は、ギャンブルで無双して美女にデレられてしまう』を投稿しました。
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