13 異世界転生?
「エントリーする麿莉奈様の言葉だから説得力がありますよね。あなたが気に病むことはなさそうですよ、ふふ」
氷室さんが軽く笑う。
「ウチはフラれたら悔しくて泣き叫びますけど」
麿莉奈が笑顔で付け加える。さりげなく俺にプレッシャーかけてくるね、この子。
「幸斗様、あなたがお嫁様に選ばなかった女性に申し訳なく思うなら慰謝料を何十億円とお支払いすればいいでしょう。ちなみに私の専門は離婚訴訟です。慰謝料をいくらにするかはお任せください」
氷室さんは弁護士らしくとてもドライ。
「……金で解決ですか……」
俺はドン引き。
「愛人にするのはアウトですが、慰謝料を払うのはセーフです。二度とあなたと関わりを持たないことが条件になりますが」
「ううう……女の子ともう会えないってことかよ……」
千紘姉さんを選ばなかったら、もう甘やかしてもらえないってことじゃない? そんなの嫌だ。
あ、でも甘やかしてもらうくらいなら許容範囲なのかな。セーフの基準がよくわからないや。
「何十億円もあれば女性たちは遊んで暮らせます。あなたと過ごした1年間の思い出を胸に生きるのです。つまらない男と結婚して、汚されることもありません」
氷室さんは両手を組み合わせて天井を見つめ、ロマンチックに語る。離婚弁護士って、演技力も必要なんだな。
むううぅ……
確かに俺と仲良くした女の子が他の男のものになるのは嫌だな。
俺がフッといてあれだが、他の男と幸せにしているのを見たらNTRれたように感じそうだ。NTRに快感を覚える男はいるんだろうが、俺はそうじゃない。
1兆円もあるなら、女の子に結婚しないでって約束でお金をたっぷりと払うぐらいは余裕。
敵に渡すくらいならいっそのこと爆破というが、女の子を爆破するわけにはいかん。封印してしまうってことだ。
女の子の自由を金で買うなんていう非道なことが許されていいんだろうか。でも本音ではそうしたい。
地下世界に押し込んで、ペリカとかの通貨でお金を払うわけじゃない。女の子たちは豪邸でメイドや執事に囲まれて安楽に暮らすのだからいいじゃないか。
「心が動きましたね」
ジト目で氷室さんに見られてしまう。
「い、いえ」
否定してみせるけど、金持ちパワーって恐るべしだ。
一般人ではありえない発想が出て来てしまう。
やっぱり因果律がおかしいよ。
俺は現実世界にいるはずが、いつの間にか超絶金持ち世界に異世界転生している……?
異世界の道徳で考えないといけないのかもしれない。
現実世界の道徳の教科書は破り捨てた方が、人生楽しく過ごせる?
「ちなみに慰謝料が数十億円程度では、御池電機の救済には全然足りませんから」
麿莉奈がぽつり。
「じゃ、じゃあ百億でも千億でもあげるよ」
すかさず申し出る。
俺はケチな男じゃない。
棚ぼたでもらった金など惜しくはないから、麿莉奈を助けたい。
麿莉奈が息を飲んでいる。
俺の気前の良さに驚いているっぽい。
だが次の瞬間、麿莉奈は目を伏せる。
「辞退します。ウチが負けたら、御池電機は潔く倒産させますので」
さらりと言った。
「は? いいの?」
「同情されても、お金は要りません。ウチが背水の陣で臨むことにするってだけです」
言い終えた麿莉奈は唇を噛んでいる。決意のほどがまた伝わって来た。
麿莉奈は慰謝料の話を聞いた後でも、慰謝料もらってバトルロワイヤルを離脱するつもりはないらしい。この子、かなり重い……? 立場上、仕方ないんだけどさ。
氷室さんがかぶりを振って、
「まあ、いいじゃないですか。御池電機は無能なオッサンのどもの巣窟です。潰れた方が日本のためになるというものですよ」
と暴言を吐く。
麿莉奈が、びくっとした。
「それは言い過ぎなんじゃ……」
俺は気の毒になった。
「私は公平な司会役ですから。麿莉奈様、やさしい幸斗様にプレッシャーをかけて、選ばざるをえないようにする行為は慎んでくださいね」
氷室さんの言葉は穏やかだが、有無を言わさぬ気迫がこもっている。麿莉奈を様づけで呼んでいるくせに、氷室さんの方が立場は上ってことでマウントしている。
氷室さんは、俺のお嫁様候補に敬意を払うものの、司会者だから女の子に対してはえらそーに指図するんだな。
「は、はい……」
麿莉奈は反省したのか縮こまる。ちょっと可哀そう。




