10 英霊級の女の子たち
「幸斗様の役割はエントリーする女性に比べたら気楽なものですよ。ふううっと……」
氷室さんが嘆息して、肩の力を抜く。
「……嫁選びを強いられるんでしょ、どこがですか……」
「私は詳しくは知りませんが、ギャルゲーというジャンルのゲームがあるらしいですね。主人公は女性の機嫌を取って、攻略を目指すという」
氷室さんは何がゲームに詳しくないだ……俺よりも詳しそうじゃん。
アニ研部員の俺は、ギャルゲー原作のアニメもそこそこ見ているけどさ。
「さっきからどんどん意味がわからなくなってますよ」
「お嫁様バトルロワイヤルで、幸斗様は女の子の機嫌を取る必要がないということです。攻略が最初から約束されているわけですからね。幸斗様は女の子たちの頑張りを採点する側です」
「あっ――」
俺は氷室さんの言わんとすることがわかって、ハッとする。
確かにギャルゲーのめんどくさいところが省略されたゲーム。
つきあっている状態からスタートするチートな設定だ。女の子の悩みを解決してやったりする必要なし。
つきあい始めてからの甘々な日々を堪能していくだけ。
しかも誰か1人とは確実に結ばれることが決定しているバッドエンドなし仕様。
「女の子たちはたった1人のお嫁様の座を巡って、幸斗様に気に入られようと誠心誠意ご奉仕します。時には他の女性を蹴落とそうと、醜い争いが起こることもあるかもしれませんね。大変大変」
「そんなの……女の子たちに悪いですよ……」
俺はしょせん小心者。
すぐに冷静になる。
女の子たちに競わせて俺は楽しんでいるだけなんて落ち着かない。あまりにも非道な気がする。
「5名のお嫁様候補を選ばせていただきました。こちらです」
氷室さんは俺に答えず、胸ポケットから折りたたんだ紙を取り出して、広げて差し出す。
俺は恐る恐る紙を受け取る。
「こっこれはっ――!?」
書いてある名前に驚き、氷室さんを見返す。
知っている女の子たちの名前だからだ。一人だけ知らない名前があるが。
俺にとっては英霊級ばかり。
アーサー王VSギルガメッシュのようなハイレベルな戦いになりそうじゃない!?
あるいは人類最強 対 神。
呂布奉先VSトール!?
「な、なんで、この人たちなんですか!?」
「もちろん、幸斗様が何とも思ってない女性と無理矢理結婚させるわけにはいかないからですよ。おじい様はおばあ様と素敵な出会いをして、愛し合っていましたからね」
「どうして、この人たちのことを……」
俺が女の子を気になっているってバレたんだ!? 秘密を知られてしまったみたいで心臓がバクバクする。
「失礼ですが、先日より幸斗様の身辺を調査させていただいていました」
「いつの間にそんなことされてたの!?」
全然気が付かなかった。
「幸斗様とお互いに好意を抱いている女の子が選抜されていると思いますが、間違っているでしょうか?」
お互いに……ほんとに?
この女の子たちが俺に好意を抱いているの?
「い、いや、その、何ていうか」
「私にはわかります」
氷室さんがメガネをキラーンとさせる。氷室さん本人が身辺調査したのか。女の勘ってやつでわかっちゃうのか。
「……俺には全然わからないんだけど」
俺はラノベの鈍感系主人公みたいだったってことだ。ハーレム状態なのに全く気付いてなくてイライラするんだよな。
「この女の子たちには、私から説明に出向きます。必ずあなたとの同棲にご参加いただくようご了承をいただきますので。引っ越しの手配もお任せ下さい」
氷室さんが胸に手を当てて自信満々にする。手続きを全てやってくれるらしい。
バトルロワイヤルに参加してくれなんて、俺から頼むのは恥ずかしい。代わりにやってくれないと困るんだけど、それも恥ずかしい。




