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第1巻1 女神の甘やかし

 女性のやさしい声が耳元でする。

「ねえ、起きて、幸斗(ゆきと)


 本当はとっくに目が醒めているんだけど、毎朝この声を聞かないと起きないことにしている。


「ふふっ 高校2年生にもなって起こしてもらわないといけないなんて、しょうがない子ね」 

 笑いを含んだ声は慈愛に満ちている。


 つんつん

 女性は俺のほっぺを突いて、ぷにぷにしてくる。

「起きないと、いたずらしちゃおっかな~」


 俺は背伸びをする。

 ここら辺で起きるのが俺たちの暗黙のお約束である。


 目を開くと女性が笑顔で見つめてくれていた。

「おはよ~幸斗」


「ふぁあ おはよ」

 あくび混じりの挨拶を返す。

 上半身を起こした。


 俺がいるのは2段ベッドの上段である。女性は柵にもたれている。


 天井の照明が奥にあるから、女神みたいに後光がさしている。柔和な表情。

 ロングのゆるふわな髪。セーラー服の上にピンクのエプロン姿。


「早く起きないと遅刻するよ~」

 身を(ひるがえ)して、降りてくるよう促す。間延びした声のとおり、本当はまだ余裕があるはずだ。


「わかったよ、千紘(ちひろ)姉さん」

 青いパジャマ姿の俺は梯子(はしご)に足を向ける。


 同級生の幼なじみに起こされるのが定番だが、姉さんは1学年上。


 ここは児童養護施設、いわゆる孤児院。千紘姉さんは実の姉ではない。

 身寄りのない俺たちは幼い頃からここで育った。


 俺は4才で入所した。母さんが死んだ現実を受け入れられず泣きじゃくっている俺を千紘姉さんは優しく抱きしめてくれた。


 以来、千紘姉さんは姉として、時には母のような愛で俺を包み、甘やかしてくれる。


 千紘姉さんが「幸斗が弟だと思うと、私も寂しくないの」と言うから、俺はいまだに遠慮なく甘えることにしている。


 幼い頃は同じ部屋で過ごしたが、今では男部屋と女部屋に別れてしまった。

 でも毎朝、千紘姉さんは男部屋に入って起こしてくれる。


 他の男子はみんな起きて出て行ってるはずだ。千紘姉さんが起こしてくれるのは俺だけ。


 この至福は永遠に続いてほしい。

 最弱キャラの俺が人生に絶望せず、生きてこれたのは千紘姉さんのおかげだ。


「着替えて、食堂に来て。朝ごはんは幸斗の好きな卵焼きだよ~ 私が作ったからね」


 千紘姉さんが言い残して、部屋から出て行く。施設で最上級生だから、職員さんの手伝いをしているのだ。


「おはようございまーす」

 俺は白いワイシャツに黒いズボンの学生服に着替えて、食堂に。


「おはよう、幸斗君」

 職員のおばちゃんと挨拶。


 孤児院は荒んだ所というのが世間のイメージだろう。

 施設職員による虐待が横行し、女の子はレ○プされていると思われている。


 幸いにして、この施設は女性職員がほとんどで、まともだ。虐待や暴行など目撃したことはない。

 千紘姉さんの体は無事で、清らかなままのはずである。


「幸斗、こっちこっち」

 千紘姉さんが奥のテーブルに座って食べている。


 食堂にはテーブルが4つあるけど、奥のは千紘姉さんと俺の専用と化している。

 お茶碗にご飯がよそわれ、おかずとお味噌汁も配膳されている。全部、千紘姉さんがやってくれているのだ。


 俺は千紘姉さんと向かって座る。千紘姉さんはエプロンをもう外している。


「お味噌汁、ちょうどいい温度じゃないかな」

 千紘姉さんは猫舌の俺がヤケドしないように、俺が起きてくる時間を予想して用意してくれる。

 至れり尽くせり。


「いただきまーす」

 礼儀正しく合掌。


 ずずず……確かにちょうどいい温度。千紘姉さんは俺の好みを完璧に把握している。


 視線を千紘姉さんに向ける。夏服の白いセーラー服は胸のあたりがはち切れそうなほど膨らんでいる。

 Jカップだと教えてもらった。でも腰はキュッとしててむしろスリムな体型。


 千紘姉さんは今でも俺を抱きしめてくれる。やわらかくて豊か過ぎる胸で抱きしめられると、俺はどんな嫌なことも吹き飛んでしまう。


 つくづく俺は恵まれていると思う。

 隣の家に住んでいる世話焼き幼なじみの女の子よりも、同じ屋根の下に住んでいる千紘姉さんの方が距離が近い。


 毎日一緒にご飯食べるし、千紘姉さんのお風呂上りのピンクのパジャマ姿も見ることもできるから。


 お互いに親がいないからこそ、俺と千紘姉さんは家族として結びつきを深めてるのだ。


 千紘姉さんは俺をじーっと見つめている。

 卵焼きが上手くできているか心配そうだ。


 俺は切り分けられた卵焼きを一つ箸でつまむ。

 ゆっくりと口に運ぶ。


 外はほどよい歯ごたえ、中はふわとろ。

 口の中に出汁(だし)と醤油の味わいが広がる。


「うまいよ」


「よかったあ~」

 千紘姉さんが安堵の表情に変わる。

 

「姉さんの料理はいつも最高だよ」

「まあ、幸斗ったらお世辞を言うようになったのね、ふふ」


「お世辞じゃないよ、本当に世界一おいしいから」

 俺たちはバカップルみたいな甘々な会話をしてしまう。


「お姉さん、幸斗にお料理をずっと食べてほしいなぁ~」

 千紘姉さんはプロポーズに使うような言葉をさらりと言ってくる。


 ちょっと天然なところもある。

 それがまたかわゆい。


 まさかこの後、千紘姉さんだけじゃなくてSランク美少女5人に取り合いにされ、甘やかしまくられる運命にあるとは思いもよらなかったね。

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