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「まったく......今の時代に『バケツ持って廊下に立っていろ!!』なんて言う教師がいるか普通?」
空バケツを片手に廊下で授業。ただただ恥ずかしい。
何故こんな事態を招いた。
問題は先ほどの教室への滑り込みと自分でも謎の挨拶。.....いや、待て。こんなことになったのは遅刻が原因のはず。
じゃあ遅刻の原因は───アイツだ。.....あの時の表情、ちょっとかわいかったなぁ...いやいや何を考えているんだ俺!
───キーンコーンカーンコーン。
ようやく、授業と言う名の長い長い罰が終わった。
生まれて初めて廊下で立ったまま授業を受けた。
「神江、これに懲りたらもう遅刻はするなよ」
「...はい気をつけます」
教室に入ると早速、香夜が先ほどのことをイジりに来た。触れないで欲しいのだが、どうやら触れるつもりしかないらしい。
「昼休み別れた後、会長さんとイチャイチャでもしてたのかー?」
そっちに触れてくるか...!!し、しまった。
バケツのことを触れてくるとばかり思っていたから言い訳を考えて───ん?言い訳?
......言い訳なんてする必要ないじゃないか。
「違うぞ。あの会長サンに荷物運びをさせられてたんだよ」
「へぇ。どこの?」
香夜はニヤニヤと聞いてくる。まだ俺のことを疑ってるな。
「....職員室の上にある会議室」
「....」
おい何故そこで目を背けて黙る。
この際、同情でもなんでもいいから労って欲しい。
俺たちは教室の裏口付近で沈黙したままになってしまった。先に沈黙を破ったのは香夜。
「その...まぁなんだ」
香夜は俺の肩に手を乗せ、目線を逸らす。
一体なにを言うつもりなんだろうか。
「なんか....ごめ───ぶはぁっ」
....ふ、吹き出しやがった。まさか、目を逸らしてたのは目を見たら笑うからってことか?
「このクソがぁぁーー!!」
◾️◾️◾️
───キーンコーンカーンコーン。
ようやく今日を終えるチャイムが鳴り終わる。
先生が教室から去ると同時に、香夜がカバンに荷物を入れてる俺のところに来た。
「おーい翔...ってまだ怒ってるのか?ごめんって」
笑いながら言われても、悪いと思っていることが全く伝わらない。
「そんなに面白いか」
「ああ面白いね」
なんてやつだ!
「貴様は今ここで殺すっ!」
俺は15cm定規を片手に襲いかかる───が。振り被った定規を見事なまでに白刃取りされた挙句、足元を掬われ、頭に痛みが走ると同時に視界が逆さまになる。
「諦めろ。これが格差だ」
キメ顔で言う香夜。
こういう時に香夜がキメ顔すると、無駄にイケメンが出てきて腹が立つ。
「いやどう考えても才能の無駄遣いだろ」
無駄に運動神経のいいやつめ。俺だって悪くはないはずだが、香夜には敵わない。
こいつの運動神経はズバ抜けているからな。
「さ、冗談は程々にして帰ろうぜ」
香夜が手を伸ばしてくれたため、遠慮なく掴んで立ち上がる。
「うわっ!?」
力いっぱい手を引っ張られた香夜は俺の狙い通り、バランスを崩して地面に引き寄せられた。
「これで引き分けだな」
俺は香夜に、笑って言い返した。
....とまぁ、こんなやり取りを、度々している訳だが。
クラスのみんなは未だに慣れないらしい。今も現在進行形で驚いた表情で俺たちを見ているようなので、帰ろうと今度は俺が香夜に手を伸ばす。
「ほんっと、こういうこと出来るお前を尊敬するよ」
「そりゃどうも」
軽口を叩きながら香夜を立てらせ、荷物の支度をして足早に教室を出る。
帰り道は俺は徒歩で、香夜は自転車通学のため、校門で別れを告げる。
香夜が校門を出ると同時に俺も微妙に長く感じる帰り道を歩き始める。
一人で帰る時は来る時と違い、他の生徒は部活などで、人通りが少ないためか家までが長く感じる。
ようやく家に着くと、家の前には人が立っていた。
「やっほー翔くん」
「なんで家の前で待ち構えているんだ...?」
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