②
学食に向かうと既に学生が長い列を形成していた。
「少し出遅れたみたいだな」
「いいじゃないか翔。まずは食券を買おう。混んではいるがいつもよりは簡単に買えるぞ」
確かに香夜の言う通りだ。こいつの前向きな考え方は一緒にいて助かる。是非とも見習いたいものだ。
俺は先ほどの宣言通りカツ丼定食の食券を買う。香夜の方も俺と同じカツ丼定食のようだ。
食券を握って列に並んでいると、不意に香夜が先ほどの授業のことを話し始める。
「にしても今日の由美ちゃん先生は一味違ったな翔。まさかチョークの次は出席簿を投げるとはな」
忘れずに今日の俺の失態を掘り返す香夜。
こういったことだけはしっかりと覚えてやがる。
「あれは俺も完全に予想外だった。あれって暴行の内に入らないの?」
「自業自得だし文句を言える立場じゃないだろ...」
食券を出した後もしばらく香夜と雑談してると、ようやく自分たちが料理を受け取る順番が回ってきた。
学食で働くおばちゃん達も、毎度これだけ学生で賑わっていたら大変だろうな。
料理を受け取って、空いた席に素早く移動して座る。
「「いただきます」」
香夜と丁度タイミングが重なって昼食がスタートした。
サクッとしたカツに、白米が進むようにつくられた食欲を刺激するタレ。そして付け合わせには学生たちから裏の一位と呼ばれる豚汁。
二人で無言で目の前の昼食を堪能する。
しばらくして香夜が唐突に。
「なぁ翔、俺はな思うんだよ」
「なにを」
「やっぱり高校生活を楽しむにはな」
「うんうん」
高校生活を楽しむためには、か。なにが必要なんだろうか。
少し箸を休めて香夜の話に耳を傾ける。
「───甘えてくれる美少女が必要だと思うんだよ!」
「...うん?」
俺はこいつといて時々だが思うことがある。
───顔はそこそこ良いのに、何故こんなにも残念なのか、と。男子高校生らしくていいとは思うが。
「...何を唐突に言うかと思えば、また変なこと言いやがって。咽せたら大変じゃないか。そんなにいいのか?甘えてくれる美少女とやらは」
俺はいつもの急な香夜の発言に呆れつつ、会話を続ける。
「えっ、甘えてくれる女子って良くないか?」
即答で返して来やがった。なんて反射神経だ。こういうのを才能の無駄使いと言うのだろう。
「そんなものかねぇ。香夜の考えを否定する訳じゃないが、俺的にはそこまでいいものでも無いと思うけどな」
「まぁ限度ってものはあるけどな」
笑いながら香夜が言う。
そんなことを言っている間に、綺麗に定食は俺たちの胃の中に収まっていた。
「「ごちそうさまでした」」
またしても重なる。
学食から教室に戻る帰りに廊下で生徒会長と出会う。
「やぁ神江くん丁度良かった。生徒会の書類を職員室に運ばないといけないんだけど、前年度の生徒会の書類も溜まってたみたいでね。少し手伝っては貰えないかな」
生徒会室の中には小さめの段ボール三箱が積み重ねられていた。正直な心情としてはベリー面倒だ。一人では小さめでも段ボール三箱は少し多すぎるので、是非とも断りたいところだが、断る理由は特に無い。...仕方ない手伝うとしよう。
「りょーかいしました。手伝いますよ会長サン。悪いな香夜。先に教室に戻っててくれ」
会話は聞こえていたと思うが、一応香夜には一言告げて別れた。
「じゃあ、早速手伝って貰おう。荷物はこっちだから行こう。早くしないと昼休みが終わってしまうからね」
ん?生徒会室の荷物じゃないのか?じゃあ一体どこの荷物を....あっ、荷物と言えば。
俺は軽く手伝いを引き受けたことを後悔した。
「ここだ」
当たって欲しくない予想は見事的中し、到着したのは職員室の真上にある会議室だ。
生徒会長サンが予め借りて来ていただろう鍵で会議室を開ける
そして会議室に広がっていたのは大量の段ボール。しかも嬉しくないことに全ての段ボールに均等に書類がギッシリと入れられているはずだ。
「...なぁ生徒会長サン?」
「なにかな」
「帰ってもいい───」
『帰ってもいいかな?』その言葉がいい終わる前に。生徒会長の言葉が被せられる。
「男に二言は」
「ないです」
俺はこの時、男に生まれたことを少し後悔したかもしれない。
ブックマークや評価を頂けると幸いです。
なによりも糧になります。