表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/68

少女と反撃

 ロイスの背後で少女が飛び起きた。そうとう驚いたのか、目を白黒せている。

 ロイスは背後の少女をチラリと見やって呆れた。 


(こんなところで寝ているのが悪い。いや、そもそもどうやって入ったのか……)


 そこまで考えて、ロイスは思考するのをやめた。

 

(今そこは置いておこう。面倒そうだ。まずそれよりも……)


 結界を張った。さてそれからどうするかだろう。

 ずっとゴーレムの攻撃を受けるのもロイスとしては面倒臭い。

 自分だけ気配遮断の術を張ってこっそり逃げることもできるだろうが、そうすると少女が攻撃をうけてしまうし、少女にも気配遮断をかけても同じこと。ロイスの魔術はロイスを中心として発動するもので、側を離れられると効果が薄くなってしまう。


「めんどくせぇ」


 ロイスは心からそうつぶやいて、わかりやすくと肩を落とした。

 防御結界はその間もゴーレムの攻撃を受けてものすごい轟音を立てている。しかしやはりびくともしない。


「どうなってるの?」


 背後から聞こえた先ほどの叫びとは異なる、落ち着いた静かな声音。

 少女を無視しようとたロイスを無視するその問いに、ロイスは緩慢かんまんな動作で振り返った。

 少女はその青い美しい瞳をキラキラと輝かせて、ロイスを見ていた。

 

(正直、この場を切り抜ける以上に優先することはない……。こいつのことは今は放置しておきたいところだが……)

 

 そんな内心を押して、ロイスは少女の視線をまっすぐ受け止める。


「あーどうなってると思う?」

「ゴーレムから攻撃を受けてる」

「それはそうだな」

「魔術でそれを防いでいる?」

「そういうことになるな」

「……私を守るために、ここを動けない?」

「……まぁ、そうとも言うな」


 状況を的確に理解されるとは思っていもいなかったロイスだったが、概ねその通りであったので、小さく頷く。少女はしばらく考え込むようにうつむいていると、唐突にロイスを愕然がくぜんとさせるセリフを吐き出した。


「私、おとりになる?」

「なぜ、そうなった」


 呆然と少女を見つめる。

 少女もまた、視線をロイスに向けたまま外さない。少女はどうやら本気で言っているらしかった。


(恐ろしいことになってきた)


 ロイスは痛む眉間をつまんでうなる。そのついでに、キラキラとした瞳をのぞいているのがなんとなくむずがゆくて、視線もらす。

 

 指の間から少女を眺めながら、ロイスは思考をめぐらせた。

 

(……こいつ、何者だ)

 

 状況が状況だ。細かく分析している余裕はない。しかし魔界の遺跡で眠っていた少女が普通の少女のわけがないのだ。

 そしてその少女が自分をおとりにするかと平然と言うあたりで、すでに少女がそれを平然と行えるような力のある人物なのだとロイスには想像がつく。

 しかしながら。


(ただの小娘だ)

 

 どう見ても。

 ロイスよりずっと若い──というより幼い少女。

 その少女が、自分を囮にして逃げろというのは違和感があった。

 よくよくその発言を噛み締めたロイスの体からゆらりと闘気が立ち上る。

 

(囮にして命からがら逃げ出すのか? しかも遺跡のカケラも何も手に入りませんでした。と? それはないだろう……)


 一瞬少女をこのまま見殺しにする未来を想像して、ロイスは顔を歪ませた。うげーという気分。と形容するのが一番近い。

 ロイスもそこまで腐ってはいないと自負している。


「そんなことするくらいなら、こいつを壊すほうが速いだろう」


 ロイスはそう呟き、少女がロイスの言葉に目を見張った。

 ロイスは再びゴーレムに向き直る。

 ゴーレムを倒す方法の大枠おおわくは理解できていた。


 そもそも魔術とは、魔術師が【呪文】を唱えることで発生する現象だ。

 その増幅装置的な役割として、【クライス】と呼ばれる小道具を使うことがある。

 輪になったもの、例えば指輪や腕輪のような囲まれたサークル状のものだったらなんでもいいのだが、これは増幅装置以外にも様々な用途に使用される。


 例えば、物体を遠隔操作するための魔力の受信体の代わり。

 ゴーレムの体を形成する石をつなげているのは魔力だが、その核にはなんらかの【クライス】が必要だ。

 このゴーレムにもおそおらくそれがある。

 それを壊せば、ゴーレムは機能を停止させるだろう。


「壊すだけなら簡単だ」


 その言葉を証明するように、ロイスはさっと手をふった。

 虫でも払うように適当に、まるで何事もないかのように。

 

 同時に、乳白色の結界が黄金色に発光する。

 

 暗い遺跡全体を照らしかねないほどの光。

 結界に細かい亀裂が入り、次の瞬間、結界は音を立てて崩れた。

 まるでガラスの破片。

 あるいは何か、巨大な壁が崩れるよう。

 それらは、重力に従って落ちる──ことはない。

 宙に漂ったままの破片。その隙間から、ロイスが人差し指をついとゴーレムに向けた。

 

 そして──。

 

け』

 

 瞬間、発光したまま強烈きょうれつな威力をもって、破片はへんはゴーレムにむかって飛びかかった。

 まるで、糸に引かれるようにまっすぐと迷いなく。

 ゴーレムの四肢を通り抜ける。ように見えた。

 切れ味のいい刃物で野菜を切った瞬間のようになんの抵抗もなく、ゴーレムの腕を、胴を、脚を、首を切断した。

 ズレる。

 ズレる。

 ズレる。

 ゴーレムの腕が。

 胴が。

 脚が。

 首が。

 ズルりとズレてズレてズレて。

   

 悲鳴などはなかった。

 

 ただ、ゴゴゴゴンッと連続した轟音を立ててゴーレムは崩折くずおれる。

 岩場が崩れる音によく似ていた。


 ゴーレムは本物の石屑いしくずと化し、その中からころり指輪が転がり落ちる。

 コロコロと転がって、ロイスの足にぶつかった指輪は、その衝撃で、ふたつにパキリと音を立てて割れた。


 ゴーレムは永遠に沈黙したのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ