再会と懸念
朝のことだ。 ちょうど朝ロイスとカレンはこの男に会っていた。
「知りあいか?」
オーランドの問いにカレンが微妙な顔をしてオーランドを見上げた。
「あのね、アルドに行く途中で、 記憶喪失詐欺に会ったの」
「それって 最近はやってるという?」
オーランドはどうやら遭遇したことがないらしい。
「そうそう、私が追いはらったんだけど……それがね、この人なの」
オーランドが 「え?」 とおどろくのを聞きながら、ロイスはあらためて男の顔をのぞいた。たしかにあの詐欺をしかけてきた男に間違いない。
「幅広くやってるんだなぁ、こいつら」
オーランドがあきれたように言う。 しかし、ロイスはめんどうな気配を感じていた。
はやりにのっかっている。という可能性はたしかにある。 しかしもし、この盗賊たちが主動で行っている詐欺なら、その規模にぞっとしてしまう。かかえている仲間も多いだろうが、支部のような物が他の地域にあるとして、ここに顔がいるのなら、今後恨みをもたれるのではないだろうか……。
ロイスは眉間に皺をよせて悩んだが今さらどうしようもなかった。ため息をこぼしてオーランドを睨む。 せめて巻き込まれた文句くらいは言わせてもらわなければ。
「幅広いというよりも地域の範囲がひろい。これだけ広範囲で詐欺を行っているんじゃ、アジトもあちこちにあるぞ」
「だろうなぁ」
と、のんきに言う。
「あのなぁ...... 」
あきれて、ロイスは顔をおおった。
「まあまぁ、そんな顔するなよ。 所詮烏合の衆さ、頭を落とせば問題ないって。多分」
ーーその多分、というのが心配なんだが.....?
「本当に頭はここにいるんだろうな」
「それは間違いないから、心配するなって、なんとかなるさ」
ロイスは再度頭をかかえると、しかしすぐに顔をあげた。
「あー、 全員制圧すればいいことだな。よしそうしよう」
「お? やる気でたか?」
「ああ出た出た。 嫌でもやる気でた」
といいつつもロイスは変わらずやる気のない表情で歩きだす。
その後ろをオーランドがのんびりと歩いてついてきていた。そこにカレンが続く。三人は屋敷の中へと足を踏み入れた。
◇ ◇ ◇
屋敷の中は何もなかった。
かつては立派な姿をしていたのだろうが、カーテンは破れ、調度品は残されておらず、廊下の壁と床は泥で見事に汚されて、ひどい有り様だった。
そこらに転がる酒の瓶が、盗賊がネグラにしていることを感じさせる。
そしてもう一つ。
バタバタときこえる足音が、この屋敷に住む者たちの荒さを物語るようであった。
まず、左右からそれぞれやってきた敵を見据える。
ロイスが左の敵を結界で吹き飛ばし。オーランドが右の敵を水滴をすばやく放つことで制圧する。
「『水圧』の変形?」
ロイスが呟く。
それをオーランドが聞き取り、目を丸くする。
「あいっかわらず、魔術の内容全部覚えてんのか。てか、何をアレンジしたかとかまでわかるとか、どうなってんだお前の目」
「目じゃなくて……まあいいけど」
何度も見た術だ。昔からオーランドは水系統の術もうまくて、よく『水圧』をみせてもらった。その時の魔力の気配と同じだから、なんとなくそれかと思っただけだ。目の問題ではないが、では何かと聞かれると、まだ感覚だ。としか答えられないものだった。
「ま、お前のように呪文も輪もなしってわけにはいかないけどな。
そういうと、右腕にはめていたブレスレットを左手でさわる。その左腕にも細い鎖のブレスレットが二つほどはめられている。さらに指輪もいくつかつけていた。
魔術師は装飾品が多くなりがち。
オーランドもその例に漏れない。
「それでも、変化系が作れる魔術師は珍しい。俺はまだ、あまり会ったことはないな」
ロイスは小さくつぶやいて、オーランドを賞賛した。うまい言い方ではなかったが、オーランドはにこりと微笑む。
そうこうしている間に再びやってきた盗賊を、カレンが火の玉で遠ざけた。
「ね、上にいるんでしょう? こいつらの一番偉いやつ。細かい敵全部の相手してたら夜明けまでに到着できないよ」
逃げる相手を追尾していた火の玉を手の元に戻して、カレンが困ったように眉を下げた。
ーー確かにそうだ。
悠長にしている場合ではなかった。
ロイスは一番近い階段を探そうと周囲を見渡す。その横をオーランドが通り過ぎていった。
「オーランド?」
「こっちだ。……情報通りならだけどな」
ーーああ、そういえば。
オーランドが情報を持っているのだ。それならばそれに従えばいい。
「そっちであってるの? 見取り図でも持ってるの?」
カレンがそう尋ねると、オーランドは曖昧にわらって「まあな」と答えてみせた。
「だそうだ。いくぞ」
「……ええ」
不安そうなカレンを置いて、オーランドについていく。
ーーわかっている。
信頼しているじゃないかって、そう言いたいのだろう。
でもそうじゃない。
ーー情報をもっているやつにしたがうのは当然だろう。
ロイスは、それがなんと一般的に呼ばれる感情なのか。それを知っていて、知らないふりをした。そうしなければならない気がした。
カレンの追及も気づかないふりをする。
ーー大丈夫だ。
まるで言い聞かせるかのようなその考えが、ロイスに奇妙な焦りを与えていた。
そして、その焦りが現実となったのは、頂上の部屋の前にたどり着いた時だった。




