突撃と発火
盗賊たちの反応は思った以上に早かった。
三人が屋敷の敷地に入ると同時に、見張りに立っていたものたちなのか、数人が三人の前に躍り出た。
皆それぞれ手に武器を持って入るが、その武器は手入れされているとは言い難い。
「カレン」
その一言に答えるように、カレンはロイスの前に出ると、手のひらを上にむけ、胸の前に掲げた。
『炎』
ボゥっと音をたてて、手のひらの上に炎が生まれる。先程のオーランドが行った火の玉のように球体を模してはいない。それはまさに、炎そのものの姿だった。
カレンがそれを右手にまとう。そして、正面の盗賊をその腕で殴り飛ばした。
勢いよく飛んだ盗賊の殴られた腹部が発火する。
「うぅ、くぅ……!? 火が! 火が!」
痛みでうめいた盗賊は自らが燃えていることに気づいてパニックに陥った。それを無視して、カレンは次の盗賊に標的を変える。
流れるように走りより、相手が無造作に薙ぎ払うように振った剣を屈んでかわし、そのまま鳩尾を押し上げるように下からなぐりつけた。
「怪力女」
「きこえてるわよ!」
カレンが叫び、次の瞬間にはロイスに向かって盗賊が吹っ飛んできた。
さっと壁を張れば、ぐしゃりと盗賊が見えない壁にぶつかって地面にずり落ちる。そのまま気絶したらしい。盗賊は白目を剥いていた。
「あーあ」
と、哀れに思ってもいない、感情の籠らない声で盗賊を眺める。
「手加減を教えないとだめか? いや、死んでもいいから別にいいか」
「え? 手加減しないとだめ? 悪いやつなんでしょ?」
「あー、いいから、全力でやってやれ」
一瞬戸惑った様子を見せたカレン。
ーー手加減する必要なかったなそういえば。
使い方を教える。という時点で、全力で力を発揮させるつもりはなかった。なにせ暴走のリスクを抱えた少女だ。
とはいえ、全力で殴る分には問題なかった。
視界の先で、カレンの背後に近づく盗賊を見つける。振りかぶった隙だらけの盗賊の様子にため息をもらしつつ、カレンの背中を守るために結界を張った。
ガキン! とはじかれた剣に困惑の声をあげる盗賊。その腹部にカレンの文字通り燃える拳が突き刺さる。おそらく後ろにいたことに気付いていたのだろう。その動きは流れるよう。
「ぐふ!」
吹き飛んだ盗賊からすぐにカレンは目を逸らした。
もう次の標的に絞っているらしい。
「あんまり前に出るな」
離れすぎているカレンにむかって、ロイスが声をかける。
カレンはどんどん先へ先へ進んでいっていた。
「大丈夫よ! 背中は任せた!」
とカレンが叫ぶようにかえしてくる。その肝心の背中は盗賊たちに囲まれてよく見えなくなっていると言うのに。
ーーまったく、考えなしだな、あいつ。
隣にやってきたオーランドがロイスの肩をたたく。
「随分と信頼されてるな」
「そういうわけじゃない」
ロイスはぶっきらぼうに返した
ーーそれにしても。
次々におそいかかる盗賊たち。
気づけば人数は十人を超えている。
最前線で戦うカレンを囲むように数人。後ろに控えるロイスとオーランドにむかってくる者が数人。
そしてさらに先、屋敷の中から現れる完全防備を施した盗賊たちが数人。
流石に装備を完全にして出てくるのがはやすぎる気がする。
そう思いつつ、屋敷から出てきたばかりの者どもを結界で地面にむかって押しつぶした。
見えない天井が降ってきた。そんな感覚に陥ってい混乱しているだろう者たち。
その押しつぶされた者たちの上に、カレンが殴り飛ばした盗賊たちが積み上げられていっていた。
「にしても、いったい何人いるんだ」
途切れない人数に、ロイスはため息を吐いて、近くに寄ってきていた盗賊を結界で弾き飛ばした。
転がっていった盗賊にむかって、オーランドが火の玉をぽいっと投げる。
燃えていく自分に驚く盗賊を横目に、オーランドは首をすくめた。
「さぁ、相当の人数抱えてるのは確かだけど、この程度の奴らなら大したことないし、さっさと頭のところに行けそうだな」
「その頭は本当に屋敷の上の部屋にいるのか?」
「偉い奴は高いところが好きって、相場はきまってるだろ」
オーランドが屋敷の最上階のテラスあたりを指差していった。
ーーたしかに、偉いやつはあそこが好きそうではあるな。
ほとんど左右対称の屋敷の中央。三階の迫り出したテラスのある部屋。
そこを目指すことは決まったようなもの。
ロイスは向かってくる雑魚を再び結界で弾いて、そっとその部屋を見上げた。
その時、カレンが唐突にロイスを呼んだ。
みれば、怪訝そうな顔つきのカレンが殴り倒した盗賊を眺めている。
「なんだ?」
「ね、こいつ、見覚えない?」
「見覚え?」
言われて、ロイスはカレンに近づいていくと、そっと身をかがめて、倒れている盗賊の顔を覗き込む。その顔を見て、ロイスは「あっ」と声を上げた。




