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破壊と夜襲


 森の中、かつては整備されたいたのだろう道の奥に、その屋敷はあった。

 古い屋敷だ。

 随分と前に人に見捨てられたのだろう。屋敷の敷地の入り口にあたる鉄扉は、片方の蝶番が悪くなっているのか、風にゆれて、キーキーと悲鳴のような音を響かせている。その扉の奥にあるレンガ造りの建物にはシダが絡みついて、窓すら覆い隠していた。


 それを眺めていたロイスは、入り口の鉄扉に視線を移動させて、じっと目をこらす。


「何かの仕掛けか?」

「だなぁ。見たこともない機構だが、多分門を超えて来る奴を自動で攻撃するもの。つまり罠だろうさ」


 オーランドと二人、暗視の術をかけた目で奇妙な錆びついた機構を眺める。

 見た目はボウガンのような姿だった。それが扉の両脇にある尖塔に上から下までびっしりと積み上げられるように設置されている。大きな釘のような鋭利な鉄の塊が仕込まれた武器。勢いよく放たれれば、おそらく体を貫通するだろう。


「あれが罠?」

「カレンちゃん目がいいね」」


ーー魔族だからな。


 と内心で二人の会話に突っ込んで、ロイスは静かにため息を漏らす。木の影から屋敷を覗いていた姿勢をかえて、振り返り、ロイスの後ろで目を凝らしている二人に向き直って尋ねた。


「で? どうやっていく?」

「もちろん正面突破」


 オーランド答え、楽しそうに笑う。

 いや、と反発しかけて、しかしこの楽観的な男の作戦に乗ってみるのも悪くないと思い直す。オーランドは楽観的だが、昔から計算高いところのあるやつでもある。まったくの無策で無謀なことをするほど愚か者でもないことはロイスはよく知っていた。


「じゃあそれで行こう」


 なんとかなるだろう。とロイスは頷く。


「もう少し慎重にするって言葉を知らないのかしら」

「……痛いところをつくなよ」


 魔界で勇者に訴えた「もっと慎重に」という言葉を思い出すようなセリフをカレンから返されて、ロイスは顔をしかめた。

 あの時は、派手な攻撃ばかりで自らの首を絞める勇者に呆れていた。なにより、ロイスの手助けがなければ進むことすらできない状況で、そのロイスの消耗を全く気にしない行動に、ロイスはイラついていた。

 彼らの戦いを助けなかったのは、そこに注力したいからでもあったし、契約上で一切攻撃に加わるなと言われていたからでもあった。しかしやはり何より、彼らの行動に対して頭に来ていたというのが一番大きいだろう。

 とはいえ、いくら頭に来ていたとはいえだ、今思えば、彼らを見捨てたのは、無責任だったかもしれない。

 見捨てなければ、指名手配などされていなかったはずだ。

 そんな風に思うロイスだった。


「痛いって何が?」

「なんでもない」

「怪我でもしてるの? 大丈夫?」


 本気で心配している様子のカレンを一瞬見つめて、ロイスは首を振る。


「? なによ」

「なんでもない」


 あの時、勇者を見捨てずに一緒に魔王討伐に行っていたら、カレンとはこうしていられなかったかもしれないのだ。そう思うと、自分の選択を後悔する気持ちは不思議と薄れていた。

 同時に、それを奇妙に思う感覚があって、ロイスはわざと眉間に皺を寄せる。


ーーそれじゃあ、まるで。


 一緒にいたいみたいだ。


「もういいか?」


 オーランドが言った。


「……ああ。ところでどうやって正面突破する予定だ?」


 方法などいくらでもあるが、どんな心算なのかを聞こうとしたロイスは、視線の先に小さな瓶を捉えた。


「なんだそれ」


 オーランドが片手に持ってプラプラと左右に振っている。

 中には液体が入っていて、ぽちゃぽちゃと音を鳴らしていた。それにロイスはなんとなく見覚えがあって、首をかしげる。


「それ、もしかして……」

「そ、油だ」


 言うが早いが、オーランドがその瓶を放り投げた。鉄の門扉にぶつかって、パリンと割れる。

 次に、手の上に巨大な火の玉が生まれる。カレンがつくる火の玉より大きい、そして凝縮された炎の塊。それを、再びオーランドが無造作に門扉の方へ放った。


「あ……」


 カレンが呟く。

 次の瞬間。火の玉は門に当たり、ボッ! っと音を立てて火柱を挙げた。

 門扉が燃え上がり、ボウガンらしきものも熱にやられて溶けていく。

 唖然となってそれを見つめていたロイスは、オーランドを横目で見て。


「ただの炎じゃないだろう。あれ」


 と一言。


「特製の超火力。鉄をも溶かす熱い炎で、対象にぶつかると一気に燃え上がる。油があればなかなかきえない」


 得意げにオーランドが笑って再び炎の球体を手の上に浮かべていた。


「森全体を火事にするようなことはするなよ」

「加減はするさ」


 全く信用できないセリフだと、ロイスは呆れ顔を示した。

 

「植物をたどってどんどん燃えていくよ。屋敷まで燃えちゃうんじゃない?」

「それは困る」

「困るなぁ。燃やしちゃいましたって報告するわけにもいかないしな」

「自分で燃やしといて何言ってんだお前は」

「私も炎の魔術しかつかえないからなぁ」

「……そうだったな」


 メンバー構成がだいぶ困った状態だ。ロイスは炎を消すようの魔術は持たない。もちろん炎ごと結界で閉じ込めてしまうという手もあるにはあるが、それよりも簡単な方法があるのに、と面倒にも感じた。


「オーランドお前水の魔術使えるだろう。ちょっと火を消せよ」


 そんなことを言いながら、ロイスとオーランド、そしてカレンの三人は燃え尽きた罠を跨いで、屋敷の敷地に入りこんだ。


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