仕事と野営
領主もわずかに不安が勝つのか、オーランドとロイスをちらちらと見比べてはいたが、やがて曖昧に頷いた。
オーランドも満足そうに笑うと、では、と立ち上がる。
「任せてください。よい結果をお届けしますよ」
そう言ってオーランドは領主に背を向ける。
その背中を見送る領主を眺めながら、ロイスもまたオーランドの後ろに続いて部屋を出た。
◇ ◇ ◇
「二人だけで行くなんて狡いわよね」
屋敷から戻ってきたロイスとオーランドをカレンは膨れ面で迎えた。
屋敷の前の塀に背を預けてじっと待っていたのだ。子供連れと思われてはこまるからというオーランドの言い分に、カレンは文句をたれつつ言うとおりにした。
去り際に、「どこにも行かないでよ」と、そんな言葉をロイスの
そんなカレンの頭を帽子越しに乱暴になでて、ロイスはカレンを促して歩き始めた。
「とにかく善は急げだ。今日奴らのアジトに向かうぞ」
オーランドは力強く両の手のひらを合わせた。
パンッと高い音が響く。
「気が早すぎる。死に急いでいるのか?」
「死に急いでるの?」
「息ぴったりだな二人とも!」
辛辣な言葉を二人にかけられたオーランドが複雑そうにさけぶ。
「ふふっ、オーランドってば面白いのね、いきなり突撃なんて勢いもあるし!」
「それは俺に向かっての嫌味か?」
「違うわよ。でもロイスって考えてから動く派よね」
そう言われるとその通りである。
「それに行動に一貫性がない」
「……悪かったな」
「人間らしくて好きよ」
カレンの言葉にロイスは渋い顔を見せる。まさに彼女の言うとおりではあった。
ロイスはあまり行動的ではないし、最近は特に自分で説明できないような心情になることも多かった。
カレンと行動するようになってからだ。カレンがいるから。
「おーい。ふたりだけの世界に入らんでくれよ」
ーー入ってねーよ。
「あら、邪魔しないでほしいなぁ」
「なかなかやるなカレンちゃん」
カレンがウインクをオーランドに見せる。
「カレンでいいってば。強情ねオーランド」
ーー二人の世界に入っているのはそっちなのでは……。
そんなふうに思うロイスであった。
◇ ◇ ◇
その日の夜。
三人はアルドの街の外にある森の中で野宿をしていた。
今日の昼間、アルドに入る前に通った道のそば。
ーーこの辺りならある程度地形はわかっているが……。この近くをネグラにしている盗賊がいたとはな……。
火打ち石で火をつけながらロイスが周囲を見渡す。
そこにカレンがやってきて、隣に座り込んだ。
「ね。火は私やるから、ロイスは結界 おおきめの張ったほうがいいんじゃないかな」
「……」
無言でカレンを見やる。
「だって、多分野宿中に襲われたら大変だし……」
ーー一理ある。
ロイスはカレンに火打ち石を渡すと立ち上がった。
「火、適当につけといてくれ」
一言告げて、ロイスは森の闇の中へ姿をけす。特定の位置に核になる「輪」を地面に描き、それを軸に結界を張ろうと言うのが、ロイスの今回の結界の内容だ。
自分を中心に大きく結界を張るより、少しだけ魔力の消費が抑えられる方法だった。
一方カレンは去っていくロイスの背中を眺めて、森に消えたところで火打ち石を叩きつけた。
火をつけて、じっと広がっていく炎を眺める。
ーーあの時、私が作り出した炎。ロイスが沈めてくれた炎。
火打ち石を打ちつけたように、燃え上がった炎は自らをも焼いて、多くの同族の躯を燃やし尽くした。
ーー私の炎。
それを操る術を教えようとしてくれるロイスに、今は感謝しかない。
同時に興味もあった。
彼という人物に、以前よりも強い興味をカレンは抱くようになっていた。
「あれ? ロイスは?」
さっと振り返る。
片手に獣の死骸を抱えたオーランドが、森から出てきたところだった。
「ちょっと結界張りに行ったよ」
「結界? 心配性だな。まあいいか」
言って、担いでいた死骸を地面に下ろすと、懐からナイフを取りだして、素早く捌いていく。
「すごいね、慣れてる。ロイスもすごかったけど、オーランドも……」
じっとオーランドの手元を眺めていたカレンが呟く。
オーランドは笑って、「それも同じところで学んだんだよ」と言った。
ーー同じところ。
「同じ、孤児だったって」」
ーーああ、聞いちゃダメな気もするけど……。
ロイスという人間の中身が気になって仕方ない。
ーーききたいな……ロイスの話。
「聴きたいな、二人の話」
カレンはオーランドに静かに尋ねる。
火に照らされたオーランドの横顔はたまに見るロイスの表情に似ていた。
憂いを帯びた、人間らしい、苦しそうな顔。しかしオーランドはそれを一瞬で隠し、笑顔を見せた。
「うーん。そうだな。俺たちは孤児で、一人の魔術師に拾われた。彼女は強くて美しくて、真っ赤な髪が印象的な魔術師だった」
「それが、カテリーナ、さん?」
「そうだよ」
懐かしむようにオーランドは目を細めた。




