変化と片鱗
オーランドは肩をすくめた。
「世渡りのためには汚いこともおぼえないと、てな」
しみじみと言われると、なんとも言い換えし難い。そんな風に思うロイスだ。
「なんで俺なんだよ」
思わずそんな声が漏れる。
正直やっかいごとに巻き込もうとしているようにしか思えなかったからだ。
しかし、顔を上げれば、予想外に真面目な顔をしたオーランドがいた。
「偶然再会して、そんでもってお前が指名手配されている知ってたら、なんとか助けてやりたいって思っちゃダメかよ」
詰問するような言い方。それからそっと眉尻を下げて。
「俺たち兄弟弟子だろう」
ーーずるい言い方だ。
ロイスは顔ごとオーランドから視線を逸らした。
「それにーー」
「……それに?」
続けるオーランドに、興味が湧いて、再度視線を向けなおす。と、オーランドがニヤリと笑った。
「それにお前は結界術のスペシャリストだからな。役に立つし」
「……そっちが本音か」
「どっちも本音さ」
軽口をたたきあってから、ロイスはため息を吐き出した。
面倒なことになったが、しかし悪くない気分だった。
「じゃあ、続き食べていいわよね!」
不意にカレンが快活な声を上げた。
「ん? ああ……」
とロイスが言う前にカレンが肉にかぶりつく。多少冷めても美味いらしく。口の端にソースをつけて「うまーい」とカレンは頬をとろけさせた。
「そういや、名前、カレンだったっけか? 仕事危ないぞ?」
「ええ、カレンよ。よろしくね。オーランド。大丈夫。私結構強いのよ」
食べながら得意げに言うので、疑わしそうにオーランドがロイスを見る。ロイスはそれに曖昧に頷いた。
ーーまあ、弱くはないな。魔族だし。
とは口がさけても言えないが、おそらく置いて行こうとしても無駄だろうから連れて行くしかないのだ。
「まあ、いいか。にしても勝気な子だなぁ。すこしカテリーナに似てる気もする」
唐突に、懐かしむようにオーランドが言った。
ピクリとロイスの肩が動く。
「カテリーナって?」
「魔術師さ。俺たちの師匠だ」
「あ、二人が兄弟弟子ってそういうことなのね」
「ああ、俺とロイスは同じように学んでたんだ。その頃からこいつは優秀だったけど一匹狼でなぁ」
「へえ」
「紅のカテリーナっていえば、魔術師の中じゃ有名人だったんだぜ。でもーー」
バン! と机が悲鳴を上げた。
驚いた様子でカレンが瞬く。ナイフからずるりと肉の切れ端が皿に落ちた。
「ろ、ロイス?」
ロイスが、机を叩いたのだ。
カレンが少しだけ怯えた様子でロイスの顔を見ようとする。が、カレンにはロイスの表情が見えなかった。
「もういいだろう。行くぞ」
低く呟くと、ロイスは食べかけの皿をそのままに店を出て行った。
しばらく呆然としていたカレンがあわてて立ち上がる。
「ああ、あいつまだ気にしてるんだなぁ」
オーランドが後頭部をかき回しながら言った。その視線は、去っていったロイスの背中を見つめている。
「気にしてる? 何を?」
カレンの純粋な問いにオーランドは微笑んで答えた。
「死んだんだよ。ずっと前にな」
ひとことそう言い残すと、オーランドはロイスの背中を追った。
大きくなった背中は頼りがいがあるようで、しかしずっと昔に見ていた姿に、その背中が重なった。
カテリーナの後ろを必死について走っていた、ロイスの背中と。
ロイスは一人でサクサクと進んで行く。
そこに追いついて、オーランドはロイスの背中を叩いた。
「大丈夫。おれはお前を裏切らないよ」
返事はなかった。
オーランドはため息を吐き出して、二度三度とロイスの背中を叩く。
やがて小さく「わかってる」という返事が返ってきた。
苦笑して、もう一度背中を叩く。
オーランドの弟弟子は、今も変わらず孤独らしい。オーランドはぼんやりと思って、小さく笑った。




